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最弱と王女

『最弱の始まり』と『最弱の勝利』の間に、『最弱の始まりⅡ』を割り込み投稿しました。第三話と四話を間違えていたみたいで……。申し訳ありません。


今回の話は、結構短い話です。作者の文章力の問題で、上手く表現できていなくて拙い文章になっているかもしれません。

「……イチノセ様? こんな時間に何をされているのですか?」


「…え?」


鑑は、此方を訝しげに見ている金髪の王女――ティアリスの姿に、虚を突かれたように固まってしまう。

ティアリスは、そんな鑑を上から下までザッと見ると、顔を見る見る蒼白にしていき、あわあわと慌て始めた。


「ひ、酷い怪我じゃないですかっ!? 本当に、一体何をしていたんですか!? は、早く治療をっ…!!」


ティアリスは急いで俺に駆け寄ってきて、特に酷い火傷に手をかざして魔法を唱える。


「【光治癒ライト・ヒール】」


手に優しい光が宿り、その光を受けた傷がみるみる癒えていく。


「あ、ありがとう。」


「…いえ、まだですっ。少し、ジッとしていてください。」


ティアリスは、しばらく同じように鑑の怪我を治療していき、最後の火傷と内出血を治すとふぅっと息を吐いた。


「……それで、イチノセ様は何故こんな時間に此処に? 勇者様方は訓練を終えて既に就寝されているはずですが、何をなさっていたのです? それに、あんなに酷い怪我までして。」


「ああ、それには訳があって――」


鑑は、離れた場所に倒れている樋口を指差し、事情を話し始めた。



「そう、ですか。そんなことが……。」


鑑が日課の夜行訓練をしに来ていたこと、そこで樋口に一方的に攻撃を仕掛けられたことを説明すると、ティアリスは呟くようにそう言って鑑の背後を見やった。

その目線の先には、抉れた上に焦土となった地面と、そこにほぼ無傷(・・・・)で倒れ込んでいる樋口の姿がある。

ティアリスはそれを確認すると、しっかりと頷いた。


「分かりました。状況から考えるに、嘘はついてはいないようですね。詳しいことは後日、イチノセ様とヒグチ様に事情聴取を行い、相応の処罰をさせていただきます。」


凛とした表情でそう言うティアリスは、まさしく王女様だった。


「ありがとうございます、ティアリス様。……ところで、何故こんな所に?」


そんなティアリスに、鑑は始めから感じていた疑問を投げかける。

何故こんな時間に、こんな場所でティアリスに出会(でくわ)したのか。仮にもティアリスは一国の王女である。夜に一人で外出するなど、例え此処が城内でも危険過ぎるはずだ。よく読んでいたネット小説でも、王族が暗殺される展開なんて腐る程あった。

樋口は鑑を痛めつける為にこの場にいたが、ティアリスは何故ここにいるのか。


「私も、イチノセ様と同じく訓練をしに来ていたんです。」


「ティアリス様が、訓練を?」


「はい。今日中に済ませなければならない仕事は一通り片付いたので、これから魔法の鍛練をしようと思いまして。」


意外な理由だった。

鑑は、風の噂で彼女が王女として日々執務に追われていると聞いていた。王からの信頼も厚く、事務処理能力にも長けた彼女は、勇者の召喚に伴って監督役という新たな役目を与えられたことで仕事量が激増したらしい。

その仕事量の膨大さは、王城に勤める文官たちも真っ青だとか。そんな中で、彼女は睡眠時間を削ってまでこの場所に訓練をしに来たのだという。


……何たる努力家だろうか。少なくとも、俺には真似出来そうもない。


「どうして、魔法の鍛練を?」


「そうですね…。これは、今日の昼間にここで訓練していた勇者様方には言ったのですが、近々野生の魔物が生息する迷宮ダンジョンの上層にて、実践訓練を行おうと思っています。私は、その時の勇者様方の指導役兼補佐役を務めることになっているので、勇者様方に万一のことがないように、と思いまして。」


「それで、夜に訓練ですか。…ティアリス様って、働き過ぎだってよく言われません?」


「そうですね、よく言われます。」


ふふっ、とティアリスは笑みを零す。


「でも、私は自分に出来ることをしているだけです。出来ることを出来る分だけ、そうすればその分だけ皆さんに笑顔になって貰えるじゃないですか。」


ティアリスの口調は、いつの間にか王女様から少女のものに変わっていた。

星の瞬く空を見上げ、金糸のような長髪を風に揺らしながらティアリスは言葉を続ける。


「……本当は、戦争なんてしたくないんです。お兄様が暗殺されたことには心から憤りを感じます。でも、それはお兄様を殺した者に向けるべきものであって、何の関係もない民に向けるものじゃない……。そんなことをしても、皆が悲しんで傷つくだけなんです。」


星の海を映す瞳が、一瞬悲しげに揺れる。


「だこらこそ、私は何としてでもこの戦争をすぐに終わらせると誓いました。被害を最小限に、魔族と和平をするために……皆に、笑顔でいてほしいから」


静かな言葉が、夜の静けさに溶けていく。

悲しげに揺れていた瞳は、映す星の輝にも負けない決意の光を宿しているように見えた。


「…なんだか、色々と変なことを口走っちゃいましたね。すみません。」


ティアリスは鑑の方に視線を戻すと、恥ずかしそうにはにかんだ。


「いえ、思いがけず良い話を聞けましたよ。」


鑑はそんなティアリスに微笑み返し、「さて、それでは俺はもう部屋に帰りますね。疲れてて…」と言って、その場を立ち去ろうと踵を返す。


「あ、あの」


背中越しに、声をかけられる。

首だけ後ろを向けると、ティアリスが頬を僅かに染めながらおずおずとこう言った。


「私のことは、敬称も敬語も使わなくて構いませんっ。それで、もし良かったら……」


――明日も、お話を……。


「……多分、明日もここで訓練してるはずだ。それと、俺のことも呼び捨てで構わないから。」


砕けた口調でそれだけ言い残し、鑑は前を向いて自室に向かう。

穏やかな風が吹き、夜空に吸い込まれていった。


(なんだ…、このラブコメ展開っ!?)


鑑の胸中は穏やかではなかったが……。



「カガミ様、ですか。」


ティアリスは、先程この場を去ったカガミ・イチノセという名の少年のことを思い出す。


(不思議な感じです。誰にも話したことはなかったのに……)


己の決意を、夢を語ったのはあの少年が初めてだった。

どうしてかは分からない。不思議と、何の抵抗もなく話してしまった。


「私は、親近感を感じているのでしょうか?」


夜の闇も星々も、答えてはくれない。でも、それが合っているような、そんな感じがした。


最弱の烙印を押されてしまった少年のボロボロの姿を、それでも勝利した事実を思う。

どれだけ、あのゾンビとこの一週間鍛え続けたのだろう。どれだけ、知恵を絞ったのだろう。


「また明日、か……」


ティアリスは、僅かに口元を綻ばせた。



そろそろ、本編に入っていきます……。

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