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最弱の勝利

初の戦闘シーンあり。

まだまだ主人公達が切れる手札が少ないのと、作者の文才の無さが合わさって非常に躍動感の無い戦闘シーンかもしれません。予めご了承ください。


図書館を後にした鑑とミラは、訓練場に向かった。

その場所は、エルシア王国が勇者専用に造った広大な修練場で、訓練に必要な器具や設備が十分に整っており、二十四時間解放されている。魔法の力によって様々な地形・環境下での訓練が可能な凄まじい場所だ。鑑達を召喚し、今後の監督役になったティアリス王女曰く、ここで地力を身に付け次第低レベルの魔物を狩り、勇者のレベルアップを図るというのが今後の大まかな方針らしい。


「おォ、一ノ瀬じゃねェか」


訓練場に着くと、聞き飽きた濁声が投げかけられた。


「何だよ、樋口。俺に何か用か?」


鑑は、自分が最弱(・・)だと分かってから、クラスメイト達と訓練する時間を出来るだけずらすようにしていた。それは、クラスメイトにとってミラの姿がエグ過ぎるというのもあるし、あまりに弱すぎて魔物同士の模擬戦闘が出来ないためだ。そのため、最近では日中は図書館で色々な文献を読み漁り、知識をつけることに終始していた。

そんな鑑が訓練をする時間は、凡そ日没から六時間の間だけだ。

現在の時刻は、大体午後八時。辺りはとっくの昔に夜のとばりが下り、真っ暗だ。おそらく、多くの生徒がもう夢の中にいる時間だろう。

だから、今ここに樋口がいるのは明らかに不自然だった。


「そう言うなよォ、一ノ瀬ェ。俺は、親切にも(・・・・)お前の訓練を手伝ってやろうってんだぞォ?」


樋口が、いい加減見飽きた笑みを浮かべる。悪意に満ちた、嗜虐的な笑みを。


(ああ、そういうことか。)


樋口がこんな時間帯にここにいる時点で、大体察しは付いていた。

どうやらこいつは、異世界に来てまでも、鑑を甚振(いたぶ)るつもりでいるらしい。


「いや、遠慮しておくよ。俺とお前じゃ、闘いにならないだろ?」


「心配すんなよ、きちんと死なない程度(・・・・・・)にしてやるからよォ、なァ一ノ瀬?」


あくまで鑑を逃がさないつもりらしい。


「【召喚コール・サモン】」


樋口の【紋章】から、ドロドロとした闇(・・・・・・・・)が溢れ出す。

鑑の黒い靄とも違う、どこか粘着質な闇は、蠢動しゅんどうしながら樋口の前に人型を形作っていく。

初めに闇から現れたその足は山羊のひづめだった。そこから続く胴体は筋肉質な人間のソレであり、背中からは蝙蝠こうもりの羽を何十倍にも大きくしたような羽が生えている。長い腕の先には鋭い爪が生えそろった手があり、首から上にはねじくれた角を持つ黒山羊の頭がのっていた。


そう、その姿は正に――悪魔だった。


「さァ、訓練を始めようぜェ?」



唐突だが、勇者に与えられる加護【紋章エンブレム】には、幾つかの恩恵おんけいがある。

その恩恵とは、以下のとおりだ。


一つ、勇者にステータスを授け、身体能力に大幅なプラス補正が掛かる。


一つ、魔物の経験値収得を早め、【昇華(ランクアップ)】によって魔物をより強く進化させる。


一つ、使役するモンスターを収納・召喚することが出来る。


一つ、使役する魔物の秘めた能力を、ある程度再現することが出来る。


一つ、その勇者にのみ許された特別な能力【唯一の力(オリジン)】を使用することが出来る。


さて、鑑とゾンビのミラが何かと闘う際重要になってくるのは、いかにして弱点を補い、利点を活かすかということだ。

では、どのように闘うか。【紋章】の恩恵を加味し、鑑が考え出した戦闘法、それは――


――己が先頭切って闘うことだった。



幾つもの赤い火球が、夜闇を切り裂いた。


「チィッ!」


一旦ミラを【送還リリース】した鑑は、一週間の自主練でどうにか身に付けた魔力による身体強化(エンハスド・ボディ)を駆使し、ギリギリで火球を躱していく。

時折、申し訳程度に闇魔法の【闇球(ダーク・ボール)】で反撃するのがやっとで、それさえ樋口達にやすやすと避けられてしまう。


「オラオラ、どうしたァ一ノ瀬ェ!! 【火球ファイアー・ボール】ッ!」


樋口は、携帯していたMPポーションで魔力を回復させながら、次々に火魔法の【火球ファイアー・ボール】を放ってくる。樋口のパートナーらしい山羊の悪魔も、それに倣って空中に火球を幾つも生成し、鑑に追い討ちをかけるように狙い撃ってくる。


その数、二十個弱。


「クッソがぁッ」


鑑は叫びながら、【紋章】の力を発動。ミラからある能力(スキル)を借り受ける。それと同時に地面に手をつき、魔法を唱える。


「【闇壁ダーク・ウォール】」


すると、地面から縦横二メートルの漆黒の壁が現れ、鑑を樋口たちの視界から隠した。


「ケヒャヒャ、そんな壁で何時まで持つかなァ、一ノ瀬ッ!?」


樋口は、その黒色の壁目掛けて嬉々とした様子で火球を放った。

悪魔の力を借りて空中に待機させた幾つもの火球を、撃って撃って撃ちまくる。

撃つ度に補充し、補充する度に火球を放つ。

ズドドドドドッ!!! と火球が壁を打ち、穿うがっていく音が響く。


「クハハハッ! なァ、一ノ瀬ェ怖いか、痛いかァ!?」


まるで溜まった鬱憤うっぷんを晴らすように樋口は喚き散らす。


しばらくすると、流石の闇壁も火球の猛攻に耐え切れなくなり、砕け散って夜の闇の中に消えていった。

幾つかの火球が破壊する対象を失い、地面に衝突した為に土煙が発生する。

樋口は、その土煙の中を目を凝らして見る。きっと、土煙が晴れる頃には、襤褸雑巾(ぼろぞうきん)のように傷だらけになった鏡の姿を見ることが出来るだろう、と。


そう、樋口が気を抜いたとき。


『主、後ろだ』


山羊の悪魔から静かに、されど確かに進言される。

樋口は、急いで後ろを振り返った。そして目に入ってきたものは――


――腕を振り上げるゾンビの姿だった。


この時、樋口は初めて鼻を貫く強烈な異臭とともに身の危険を感じた。


「…ッ!? バフォメットッ、防げェッ!!?」


御意ぎょい


山羊の悪魔――バフォメットは、樋口に命令されるまま、襲撃者(しゅうげきしゃ)の攻撃を受け止める。


ボウッッ!!!


瞬間的に、突風と衝撃が発生した。


『ほう、流石は力だけは(・・・・)最高クラスと言われるアンデット種のゾンビだ。我の力と互角とは、やるではないか。』


バフォメットは余裕(よゆう)そうにそう言うと、


『フンッ!!』


力を込めてゾンビ――ミラを押し返した。

ミラは、それに逆らわずに後ろに跳び、一旦距離を取り、構える。


『ほう、構えるか。たかがゾンビが武術の物真似か? 笑わせてくれる! ならば、正面から叩き潰してくれよう!』


バフォメットはそのミラの構えを一笑し、鋭い爪を構えて突進してくる。

バフォメットは高いAGIに物を言わせて瞬時に距離を詰め、ミラに貫き手を放った。それを察知したミラは、ゆったりした動作でバフォメットの腕をつかみ、受け流し、その力のまま流れるように地に叩き付けた。


『何っ!? …カハッ!?』


B+のSTR持つミラによって地面に叩きつけられた衝撃は凄まじく、バフォメットは息を詰める。


「バフォメットッ!?」


投げられたバフォメットの様を見て、樋口が驚きの声を上げる。

レベル1でも高いステータスを誇る悪魔種のバフォメットを投げたことにも驚きだが、何より驚いたのは、ゾンビがある武術を使ったことだった。


(合気道、だァッ!?)


最弱と言われる魔物が武術を使う。一体何の冗談だ!


「バフォメット、早く起きろォッ!!」


樋口の頭の中は、本来ありえないことに未だ少し混乱していた。だが、ゾンビが合気道を使ってくるのが分かれば、態々(わざわざ)近接戦をしなくても魔法で焼き払ってしまえば良いだけのことだ、と直ぐに気を取り直し、バフォメットに指示を出す。


「おいおい樋口、後ろががら空きだぜ?」


そのとき、極至近距離で鑑の声が聞こえた(・・・・・・・・)


「なァッ!?」


何時の間に、いや、それ以前にあれだけの火球を喰らって何故無事なんだ!? 火口の脳内に様々な疑問と驚愕が飛び交う。


そのために樋口は反応が遅れ、背後から強烈なハイキックを受けて意識を刈り取られてしまった。



(何とか、倒せたか……。)


打っ倒れた樋口を見下ろし、鑑は安堵あんどの息を吐いた。

ミラを送還する所を態々見せ、俺が単身戦うことで注意をきつけ、魔力をほぼフルに使っての遠隔召喚による奇襲を成功させる。また、それを陽動にして鑑が樋口への攻撃を成功させることが今回の鑑達のとった戦法だった。

ぶっつけの作戦だが、上手くいって良かった。

バフォメットとか言う山羊の悪魔は、樋口が気絶すると同時に消えたから、恐らく術者が気絶すると同時にパートナーは強制的に送還される仕組みなのだろう。


「gぉ…sy、ぢンsm゛、gobじ、て゛sョぅ゛グぁ゛(ご主人様、ご無事でしょうか?)」


鑑の元に、心配そうにミラがやってくる。


「あー…、無事ではないかな?」


鑑は自分の身体を見下ろしてそう評する。

服はボロボロに破れ、身体のそこら中に酷い火傷やけどあとや内出血が見られる。

今鑑が痛みを感じずに行動が出来ているのは、偏にミラ借り受けた【痛覚遮断】の能力スキルの効果が大きい。この能力スキルの効果がなければ、今頃激痛に襲われて苦しみながら、樋口に嬲られていたことであろう。


「ああ、クソ…。今日はもう疲れたな…。帰って寝るか。」


「haい、g゛、yくr…おysm゛kdさi(はい、ごゆっくりお休みください)」


「ああ、お疲れ様。今日は助かったよ」とミラを労ってから送還して、しばらくの間鑑は一人夜風に吹かれる。


何とか勝てた、そのことをめる。

例えこの世界最弱の魔物でも、技を鍛え、頭を使って策を巡らせれば、十分闘えるのだ。


最弱の烙印らくいんを押されて一週間の中で初めて、鑑は心からの笑みを浮かべた。


「さて、部屋に帰るか。…いや、医務室に行った方が良いか?」


独り言を言いながら、鑑はボロボロの体を引きずって城に戻ろうとして……


「……イチノセ様? こんな時間に何をされているのですか?」


「え…?」


金髪の王女、ティアリスに呼び止められてしまった。






誤字脱字、矛盾点等がございましたら是非ご報告ください。

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