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最弱の始まりⅡ

第二話と第四話を連続投稿していたことに気付き、割り込み投稿しました。申し訳ありません。

夜空のような漆黒の方陣から、鑑の前に姿を表したのは見慣れた楕円球だった。

丸みを帯びたその流線型の物体は、元の世界では一般的に流通していたものだ。

硬いカルシウムの殻に覆われた動物性タンパク質の塊。別名、鶏卵。


「卵?」


まさしく、見間違いようのない程それに酷似した物体だった。

唯一異彩な点を上げれば、その色が白でも茶色でもなく、方陣の色と同様の黒だということか。

クラスメイト達の状況も似たり寄ったりで、皆目の前に色とりどりの卵が浮いている。


「……えっと、」


鑑たちは、説明を玉座に座るルキウスに求める。

ルキウスはその視線を受けると、髭を右手で弄りながら口を開いた。


「それは勇者にのみ許された『使徒の卵』。その卵から、勇者様それぞれのパートナーとなる魔物が生まれてくるはずじゃ。手にとってみるといい。」


「この、卵から……。」


自分の唯一無二のパートナーが生まれる。


鑑は、空中に浮かぶ卵を優しくそっと手に取った。

トクンッ、嬉しそうに卵が脈打ったように感じる。何かが、鑑に語りかけてくるようだった。


――どうか、貴方のお役に立てますように……。


言いようのない純粋な感情の繋がりが、祈るように、縋るように伝わってくる気がした。

役に立ちたいという思いと、役に立てないかもしれないという不安を内包した新しい命の心の声に、鑑は心の中でそっと答える。


(大丈夫、どんなことがあっても、俺はお前を見捨てたりなんてしない。……だから、安心して生まれてこい。)


気持ちが伝わるように、鑑は割らないように優しくギュッと卵を握った。



「さて、勇者諸君。次は、その卵が何という種族の卵なのか確認していただこう。文献では、勇者のパートナーとなる魔物はどれも強力で希少な種族だったというし、心配はいらんはずじゃ。誰か、鑑定の魔道具を用意せよ!」


「ハッ! 陛下、此方に。」


ルキウスが命令を下すと、予め用意されていたのであろう魔道具が差し出される。


その臣下が持っているのは、水晶から削り出されたような透明な箱だった。ルーン文字のような不思議な文字が彫り込まれており、不思議な雰囲気を漂わせている。


「うむ。では、ティアリスよ、勇者殿たちの『使徒の卵』の鑑定はお主に任せよう。」


「承りました、お父様。」


ルキウスに指名されたティアリスは王の所まで歩いて行き、優雅に一礼してから臣下の男から魔道具を受け取る。

そして、恭しく両手で箱を持って鑑達のいるところまで戻ってくると、優しく微笑んだ。


「では、勇者様。鑑定を始めましょう。」


ティアリスの下に、長蛇の列が発生した。



「うおお、俺のB級の『雷鳥(サンダーバード)』だってよ!」


「『速歩兎(ラピット・ラビッド)』? なにこれ、可愛い!!」


「『翼有劣竜ワイヴァーン』って、ドラゴンだよな? 超強そうじゃんっ!!」


次々とクラスメイト達のパートナーとなる魔物が判明していく。そのどれもが、ルキウスの言うとおり希少で強力なものばかりだった。

ティアリスの持つ魔導具の箱の中に卵を入れると、空中にその卵が何の魔物の卵かが表示され、それと一緒にその魔物の姿も映し出される為、クラスメイトの興奮は鰻登りに上がっていく。


自分のパートナーは一体どんな強そうなやつなのだろう、と。


(みんな、強そうでカッコいいな。)


自分の番が回ってくるまで、鑑はクラスメイトがどんな魔物をパートナーにしているのかを確認していく。


(次は、千代の番か。)


千代が、魔導具のなかに桜色の卵を入れる。


千代のパートナーは、形状はゼリー型。球体状で、プルプルと愛らしいシルエットをしている。あれは、完全にスライムだ。しかも、ティアリスの魔物解説に寄れば、相当に強い魔物らしい。この世界でのスライムの扱いは、危険種という災害指定だとか。


「この子が私のパートナーかぁ。プルプルしてて可愛いねっ!」


まぁ、災害指定とか関係なく千代はスライムのプルプルした外見が気に入ったようだったが。


「次は、私ですね。」


千代の次は、雪乃が魔導具の中に緋色の卵を入れた。


雪乃のは、翼有の小人、いや妖精に近いか。空中に投影されている姿絵の中のその妖精は、騎士のように甲冑に身を包んでいる。ティアリスの解説曰く、『戦乙女ヴァルキュリア』という魔物らしい。戦乙女を冠するだけあり、妖精の中でも特に戦闘面に秀でた高位妖精のようだった。雪乃にはピッタリの優秀なパートナーだな。


「中々に凛々しい魔物ですね。ふふ、気に入りました。」


雪乃自身もご満悦な顔で頷いてる。


雪乃の次は……涼香がちょこちょこと出てくる。


「どんな子がくるかな~。ちーちゃんみたいな可愛い子か、ゆきのんみたいな格好いいのが良いなぁ。」


涼香の卵は、なんだ? 白色の地に黒で菱形のような線が斑のように散らばった模様をしている。

魔導具の中にその卵を入れてみると、白地に黒の狼のような魔物の姿が映し出される。ティアリス説明曰く、『氷牙白狼フリーズ・ガルム』という氷を操る魔獣らしく、脅威度ではA級からS級の間という非常に強力な魔物だった。あいつ犬とか猫とかに好かれるから、狼とは相性良さそうだ。本人の要望どおり格好良いしな。


「…そろそろ俺の番か。」


その後、樋口の取り巻きの武井や倉坂が続き、遂に鑑の番が回ってきた。

みんな強そうで希少な魔物をパートナーにしている為、鑑もそれなりに期待していた。どんな魔物だろうと育てる気でいるが、やはり竜とか天使という単語に男の浪漫心がくすぐられるのだ。


鑑は、ティアリスの持つ魔導具に黒い卵を入れる。


水晶の箱に卵が収まると、スキャンするように黒色の卵に光の線が走り、空中に情報が投影される。


その内容は――


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【使徒の卵】:腐人(ゾンビ)の卵


レア度:F-(エフ・マイナス)  

脅威度:F-(エフ・マイナス)  


固有能力(ユニーク・スキル)喰欲(イーター)


契約主:カガミ・イチノセ


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「え……っ?」


ティアリスが信じられないものを見たように目を見開いて、声を漏らす。

レア度や脅威度が今までで最低ランク。いや、ティアリスの反応からして、きっと魔物の中でも最低ランクであるに違いない。

謁見の間にいる兵士や宮廷魔導師さえ、ざわざわとなにやら騒がしい。


(俺だって驚きだっつぅの……。)


どうやら、鑑の幸運値(リアル・ラック)はとんでもないハズレを引き当ててしまったらしい。

鑑は、人知れず心の中で肩を落とす。


「えっと、イチノセ様…。その、言いにくいのですが、今ならまだその卵を廃棄(・・)すれば新しい卵を召喚できますが……。」


廃棄?

なんだ、それは?


「廃棄すると、新しい卵を召喚できるというのは?」


「勇者のパートナーである魔物が死んでしまった場合の救済手段として、【再契約(リセット)】という方法がありまして、再び卵を召喚できる術があるのです。ですので、その卵を廃棄すれば、再度パートナーの召喚が可能になるのですが……どうしますか?」


どうするか? そんなこと、決まりきっている。


「それは良いですね。そんな救済措置があるんですか。」


それは―――








「だが断る。」








拒否の言葉だった。


「…えっ? えっと……?」


「だから、お断りします。」


「あの、ゾンビはこの世界でも最も弱いとされる魔物ですが……。良いのですか?」


「はい、それで構いません。」


ざわざわ、と先程より一層喧騒が激しくなる。

聞こえる範疇では、同級生の嘲笑交じりの会話や宮廷魔導師たちの鑑を勇者として疑う声が届いてくる。

だが、鑑はこの卵を手放す気は無かった。

例え、とんでもないハズレで最弱の魔物の卵であったとしても。


「わ、分かりました。イチノセ様がそれでよろしいならば……。」


「ありがとうございます。では。」


鑑は、魔導具から卵を回収し、列を離れる。

クラスメイトや兵士、宮廷魔導師といったこの場にいるほぼ全ての人間の視線が突き刺さる。

奇異、嘲笑、侮蔑、猜疑。

様々な色に染まった視線を、俺は全て無視して千代たちの所に向かった。


「よっ、良いの引いたみたいだな。お前ら。」


軽い感じで手を上げて、千代たちに歩み寄る。


「鑑君っ!」


「鑑さんッ!」


「かがみんっ!」


と、三人はいきり立って詰め寄ってきた。


「おわッとと…、なんだよ、いきなり。」


鑑は、三人に訝しげな目を向ける。


「なんだよ、じゃないよ!? なんで、再召喚しなかったの!?」


「千代の言うとおりですっ! 何故、そうしなかったのですか!? ティアリス王女殿下の言動を見れば、あのレア度と脅威度が最低ランクであることくらい分かったはずですッ!?」


「そーだよ、かがみん!! 何でよりにもよってゾンビなの!?」


そんな鑑に、三人は必死になってそう言い募る。

どうやら、本気で心配してくれているらしい。


「んー、そうだなぁ。なんとなく、かな?」


鑑は曖昧にそう言うと、手の平に卵を載せて顔の前までもってくる。


「なんとなく、コイツを見捨てる気になれなかっただけだ。廃棄って、要するにコイツを殺すってことだろ? せっかく、俺の所に召喚されてきてくれたんだ。弱いから殺して交換なんて、そんなのあんまりだろ? 俺はそんな事はご免だ。」


「そうだけど、でも……。」


鑑の言葉に、それでも千代達は納得出来ないように眉を顰める。


「ま、俺の頑固さは知ってるよな? 再召喚はするつもりはないから、諦めろ。……それに、底辺から最強になるのは、ファンタジーの王道だろ?」


茶化すようにあっけらかんと言う鑑に、千代達三人は深い深い溜め息を吐いたのだった。



謁見の間を出て、王城内に用意された自室に到着する頃、早くも卵が孵った。

丁度、各々が部屋に入室したタイミングで、卵が割れ始めたのだ。


鑑の黒色の卵が。

千代の桜色の卵が。

雪乃の緋色の卵が。

涼香のモノクロの卵が。


光の亀裂が広がり、部屋を眩く照らす。


その日、総勢三十一に及ぶ魔物が産声を上げた。




「gぉo…sy、ぢンsm゛、ォhyうg゛zい、mァs(ご主人様、おはようございます)」


腐人に相応しい異様な姿と異臭を携えて、鑑の――最弱種族のパートナーは目を開く。

この日から、鑑と彼女(・・)の戦いの日々が幕を開けた。








ちなみに、弱いことで有名な魔物の脅威度は


小鬼ゴブリン……F

醜豚人オーク……E−

狗鬼コボルト……E+


腐人ゾンビの脅威度…低いなぁ……。



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