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最弱の始まり

本日二話目!

ここから、恐らく不定期になります……。

文章量も安定しないと思いますが、ご容赦ください。

フェルソティア。

それが、この異世界の名前らしい。

剣と魔法、超自然の神秘と魔法的神秘が混在したファンタジーな世界。よくネット小説等で見かけるような、そんな典型的な異世界だ。


ひと気のないだだっ広い図書館で、鑑は読んでいた本を閉じた。それは、この世界の魔法に関係する本だ。他にも、鑑の脇には魔獣学と書かれた本や薬草学と書かれた本などが山になっている。

鑑は、小休止とばかりに一つ息を吐くと、何気なく自分の右手の甲を見た。

そこには、元いた世界ではなかったものが刻まれている。

闇のような純粋な黒で描かれた幾学模様の円方陣と揺らめき燃える焔、そして、方陣を囲むようにルーン文字のようなもの――古代魔法文字というらしい――で何やら書かれている。


これは、鑑の勇者の《紋章エンブレム》だ。

一週間前、勇者として召喚された日から、この身に刻まれた最弱・・の刻印。


「《召喚コール・サモン》」


勇者にのみ許された呪文を呟く。

呟くと同時、体から何かが抜けていくような感覚――魔力消費現象――とともに紋章から漆黒のもやが溢れ出した。靄は人型を形作り、何者かが姿を現す。


『あ゛ぃ…ォ゛ybぃ、て゛sョぅ゛グぁ゛(はい。御呼びでしょうか)』


それは、腐乱した死体であった。いや、この表現は正確ではない。それは、動く死体だ。

腐り落ち、闇をのぞかせる眼窩がんか襤褸切ぼろきれのような服をまとい、半ば崩れたような、生理的嫌悪感(せいりてきけんおかん)あおるような腐乱ふらんした身体。あえぐように、呪うように口から発せられる言葉にならないかすれた声がなんとも不気味である。

ウォーキングなデッドの某ホラー映画も裸足で逃げ出すほどグロテスクな、紛れもないゾンビ。それが、彼女・・であった。


「《能力開示ステータス・オープン》」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


名前:ミラ

種族:ゾンビ

Lv:1

トレーナー:鑑

性別:女


MP(魔力):E+

STR(筋力):B+

VIT(防御力):E−

AGI(敏捷):F−

INT(魔法適性):E(闇)


能力(スキル):【剛力】【暗視】【生命感知】【喰欲】【痛覚遮断】


《火にとても弱い》《腐臭》《鈍足》


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


鑑の目の前に、薄水色の透明な板が出現する。有り体に言って、ゲームで見かけるようなウィンドウである。

これは、ゾンビである彼女、ミラのステータスだ。

鑑は、目の前の悲惨ひさんなステータスについ溜息を吐きたくなったが、それを飲み込んで改めてステータスに目を落とした。


この世界には能力スキルもあれば魔法も存在するし、魔物だって存在する。

それぞれがステータスを保有し、そこにはその存在の身体的、魔法的能力が記されているのだ。また、その能力値は低い方から順にFからSで表され、それぞれの位階で−符号、符号無し、+符号の3つに分けられている。

鑑がここ一週間で手に入れた知識によれば、平均的成人男性の基礎能力――STR(筋力)やVIT(防御力)などがこれに該当する――が凡そEである。戦闘を生業なりわいとする者なら、最低でもE+を超えるらしく、魔物は大体同等かそれ以上らしい。


さて、改めてミラのステータスを見てみよう。


(毎度思うが、偏りすぎだろ。)


つい心の中でそう呟く。

STRが異常な程ずば抜けて高い代わりに、VITとMPなんて魔物なのに一般人並みである。特にひどいのはAGIで、最低のF−である。

スキルの有用性はそれを補って余りあるが……。


(しかし、弱点が酷すぎて逆に笑えてくるな。)


鑑は、心の中で人知れず苦笑を零しながら、弱点の欄をタップする。


《火にとても弱い》……火を浴びると引火する。体中を火が覆い、放っておくと一分もしないうちに死に至る。

腐臭(ふしゅう)》……鼻を刺激する強烈な臭いを放出する。離れていても分かるほど強烈。

鈍足どんそく》……移動速度がとても遅い。AGIにマイナス補正。


「はぁ……」と今度は抑え切れなかった小さな溜息が漏れる。

スキルの有用性も全部この弱点が打ち消してしまっている。


(異世界は本当に、甘くないな…)


そう、この世界のゾンビは最弱と認知される魔物なのだ。

一般人でも、いや事によっては子供でも難なく倒せてしまうほどの……。


『gぉ…sy、ぢンsm゛?(ご主人様?)』


俺の様子に、ミラが首を傾げる。多分、俺が溜息なんて吐いたから心配なのだろう。

彼女はゾンビのくせに結構利口で、気が遣える優秀なパートナーなのだ。


「…ミラ、今日はこれから訓練をするぞ。」


『あ゛ぃ…グぁsコmrま゛ぢd(はい。畏まりました)』


ミラはぎこちなく鑑に礼をすると、本を片付けに向かう鑑の後ろをついていく。


鑑は、道すがら始まりの日に意識を飛ばした。


そう、あの後千代たちと合流してから……



鑑達は今、ティアリスという少女の後ろについて広く絢爛豪華(けんらんごうか)な王城の通路を進んでいる。

鑑の隣に千代、その隣に涼香と雪乃が並び、鑑達を先頭に後ろにクラスメイトが列を作っていた。

鑑含め、召喚された人数は総勢三十一人。その大半、いや全員が鑑と同じクラスの生徒である。結構な大所帯だが、通路の広さからしたら微々たるものだった。

そんな彼らの表情は硬く、―― 鑑はそれほどでもないが、―― 一様に緊張でガチガチだった。


「ね、ねぇ鑑君。ここって、やっぱり本当に異世界、なのかな?」


物珍しげに辺りを見渡す鑑に、左隣に並んだ千代が震えた小声でそう聞いてきた。


「多分、そうなんじゃないか? ……さっき窓の外のあれ、見ただろ。」


――ファンタジー小説ではありがちだが、現実には存在するはずのない飛竜に乗って訓練を行う騎士の姿を。


「そうだけど…やっぱり、現実味無いよ……」


目を向けると、千代は不安と当惑の表情を顔に浮かべていた。

右も左も分からない異世界に突然放り出された自分達が、これからどうなるのか、これからどうすれば良いのか。判断がつかないのだ。

その心細そうに俯く姿はまるで迷子の子供のようだった。


「心配するな、俺もだ。」


だから、鑑はそう言って千代の頭に手を乗っけると優しく撫でた。

少しでも千代が安心すればと思ったのだ。それに、少なからず不安な気持ちもあるのも事実だった。


「鑑、君……。」


千代は僅かに潤んだ目で上目遣いに鑑を見て、頬を染める。


その様子を千代の右隣で見ていた涼香は、ニッと笑みを作ると千代の右腕に抱きついた。


「そうだよ、ちーちゃん。私もよくわからないから、大丈夫だよ!」


「わっ! なにそれ、全然大丈夫じゃないよ、すずちゃん……ふふっ。」


小さな彼女の明るさと気遣いに、千代は小さく笑った。


「千代、此処(ここ)は私達のいた世界と違う場所のようですが、貴方の傍には私達がいます。だから、安心してください。独りではありませんから。」


そんな千代に、雪乃も優しく声を掛けてきてくれた。


「うん。ありがと、すずちゃん、雪乃ちゃん、鑑君…。」


不安は少し和らぎ、鑑達は笑みを交し合った。



それから間も無くして、鑑達は大きな門扉(もんぴ)の前に到着した。


「ここから先が謁見の間になっています。――では、行きましょう」


ティアリスが門に手を触れると、ホウッと小さな魔法陣が展開し門が自動で開門し始めた。


「すごいっ……。」


誰かが感嘆の声を上げた。

確かに、この大きさの門が独りでに開門していく光景は圧巻だった。

空気がわずかに震え、流れる。

千代たちも、その光景に息を呑む。

鑑は異世界の感覚に少し感動しながら、門を眺めた。


やがて、門が完全に開ききると鑑達は謁見の間に足を踏み入れた。


中は豪奢(ごうしゃ)過ぎず、それでいて歴史と威厳を感じさせるものだった。

奥の少し高く雛壇ひなだんのようになっている場所には玉座が鎮座ちんざし、そこに国王と思しき初老の男が座っている。

その左右には護衛らしき装飾華美そうしょくかびな鎧姿の騎士と、ローブに身を包んだ宮廷魔導師(?)が控えていて此方をジッと見つめていた。

壁際には護衛の騎士の部下なのか、これまた鎧姿の騎士が整列して剣先を天に向けて構えるという騎士独特の敬礼をしていた。

鑑達はティアリスの後を追い、玉座の前まで行くとティアリスに事前に言われていた通り跪き、頭を垂れる。

ちなみに、ティアリスは王女なので国王に跪いたりはせず、ドレスを摘んで優雅に礼をしていた。まあ、家族なんだから当然と言えば当然だな。


「勇者達よ、面をあげよ。楽にしてよいぞ。」


王の言葉に従い、鑑達は顔を上げて立ち上がった。

近くで見る国王は、確かにティアリスとの血の繋がりを感じる顔立ちだった。


「ほう、これが勇者か。ティアリス、間違いないな?」


「はい、お父様。私自ら召喚の儀を行いましたので間違いないはずです。」


ティアリスが王に微笑みながら断言した。


「ふむ、そうか…。まさかこれだけの人数を召喚できるとはな、嬉しい誤算もあったものだ。でかしたぞ、ティアリス! これで、忌々しい魔族との争いに終止符を打つことができる!」


国王は大仰に腕を広げ、ティアリスを賞賛する。

それに便乗するように、宮廷魔導師の老人と護衛の騎士達がティアリスの偉業に拍手喝采する。


「…お父様、今は私の賞賛よりも勇者様に詳しい事情の説明を。」


ティアリスは、このままでは一向に進まないと考えたのか、国王に鑑達への詳しい事情の説明を求めた。

国王は、ティアリスの言葉に「これは失敗してしまったな」と肩を竦め、咳払いを一つして、鑑達に事情を説明し始めた。


「いやはや、勇者諸君。とんだ失礼をしてしまったな、許して欲しい。私は、このエルシア王国の国王、ルキウス・フラム・エルシオン。身勝手ではあるが、どうか魔王の討伐に協力して欲しい。」


やはり、そうきたか。

クラスメイトが騒然とする中、鑑はテンプレだなと微塵みじんも驚いていなかった。

だからこそ、鑑は動いた。テンプレだからこそ、固定概念にとらわれないように情報は多く手に入れなければならない。自分や、友人の身を守るために。


いくつか質問してもよろしいでしょうか、国王陛下」


「うむ、何なりと申してみよ」


「魔王の討伐とは、どういうことでしょう?」


「ふむ、魔王とは魔族の王。魔族の中で最も強く、最も邪悪なものじゃ。我らも以前は友好を結ぼうとしたのじゃが、奴らは親善大使として送った我が国の第一王子を殺し、(あまつさ)えその首を城に送り返してきよった! それ故に我が国と魔族は敵対し、戦争をしておるのだ!」


国王、ルキウスは鑑の質問にしっかりと答える。鑑は、これ幸いとばかりに質問を続けた。


「では、俺達は元の世界に帰れますか?」


「……そうじゃな、今は無理じゃ。」


ルキウスの言葉に、クラスメイトの何人かは泣き崩れた。他のクラスメイト達も顔を青くしている。


「…今は(・・)、ですか。」


「ああ、そうじゃ。魔王を討伐したならば、望むものを与えよう」


この国王は、魔族との戦争が終わるまで鑑達を還すつもりはないらしい。

それもそうか、折角の戦力を手放すわけがない。例え、元の世界に還す術を既に持っていたとしても……。


「…では、本当に私達に闘う力はあるのですか? 何分なにぶん、平和な世界で生きてきたもので、闘う技術などろくに持ち合わせていないのですが?」


「ああ、それには心配はいらん。勇者諸君、右手の甲を見てみるのじゃ」


右手の甲?

ルキウスに言われ、鑑達は自分の右手の甲を見る。


そこには―――


「こく、いん…?」


地球にいたときはなかったはずの、タトゥーのような刻印が刻まれていた。


(何時の間に、こんなものが……)


流石の鑑でも、この刻印が何を意味するのか分からない。

鑑はルキウスに視線を戻し、説明の続きを促す。


「それは、【紋章エンブレム】という勇者に与えられる加護だ。勇者諸君にはその加護と魔物練磨師モンスタートレーナーとしての才能が与えられている。」


「加護と、才能……。」


どうやら、勇者の特典のようなものらしい。


「左様。では、ここでその力を使ってみるといい。【召喚】と言ってみよ。」


「【召喚コール・サモン】」


ルキウスに言われるまま、鑑はその言葉を口にする。鑑に続く形で、千代、雪乃、涼香……とクラスメイトも呪文を唱え始めた。


すると、刻印が黒い光(・・・)を迸らせた。


「なッ!?」


突然手の甲から不可解な光が出たことに驚いた鑑は、千代達のほうに目を向ける。そこには、鑑と同じように、手の甲から様々な色を迸らせる同級生達の姿があった。

やがて、迸った光は宙に方陣を描き始め、その中から奇妙なものが現れる。


「卵?」


それは紛れもなく、なにかの卵だった。









誤字脱字がありましたら、是非ご報告ください。

感想も待ってます!


樋口君の出番、次回あるかな…?


ちなみに、

ミラ:現在のスキル一覧


【剛力】…身体強化スキル。STRにプラス補正(小)

【暗視】…暗闇でも目が見える。

【生命感知】…近くの生物の存在を感知できる。

【喰欲】…無機物でも有機物でも物体であるならば食することが可能。

【痛覚遮断】…痛みを感じない。ダメージの度合いは、別の感覚で知ることが出来る


ステータス情報の捕捉事項

・INT…魔法適性(属性)

適性属性魔法に対する抵抗能力・行使能力を表す。

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