最弱の反逆
上手く、書けない……。
この道化、文才の無さに涙が溢れます。
急いで書いたので、矛盾点や誤字脱字が目立つかもしれませんが、その都度ご報告頂けると嬉しいです。
一角狼は、暫く水を飲むと泉から去っていった。
すると、途端に重苦しい威圧感が霧散して、樹の幹に背中を預けたまま鑑は座り込んでしまった。
圧倒的死の予感。
足が震え、身体が強張り、血の気が失せる。
視界が真っ黒に染まり、頭の中をグルグルと言葉が回った。
――あんな化け物に遭遇したら、直ぐに死ぬ。
――ここでジッとしていても、いずれ死ぬだろう。
――じゃあ、どうする?
死 or 死 なんて二択、結局どちらを選んでも変わらない。
無策に突っ込んで死ぬか、恐怖で震えながら死を待つか。
現状の鑑の力では、それしか出来ない。
だが、それでも――。
――鑑は、生きて友の下に帰ると誓ったのだ。
出来ないなら可能にしろ、どんな手段を使ってでも生き残れ。
必要なのは、三つ目の選択肢。
生き残る為の選択を、考えろ、見つけ出せ。
「やって、やろうじゃないか……ッ。」
闇を払うように、諦観を吹き飛ばすように、鑑は顔を上げて目を開いた。
「意地でも、俺は死んでやらないッ。」
黒い瞳に決意の焔を灯し、あの暗い洞窟の中で誓った決意を、再び口にする。。
それは、揺らぐことなく、煌々と瞳に燃え滾っていた。
◆
決意を新たにした鑑は、この最悪最凶の状況をどう打開するか思案していた。
まずは、現状の戦力とその状態の把握から。
満身創痍で、ミラから【痛覚遮断】以外の能力借りられない状態の鑑。
操れる魔法属性は闇属性。夜行訓練でティアリスが付きっ切りで教授してくれたこともあり、現時点で中級中位くらいまでは扱える。
その他の知識面では、現代知識以外にも『魔獣学』『薬草学』『魔術理論』『六属性の概要』といった異世界の知識を多岐に渡って学習済み。
現在、レベルは20。
次に、使い魔のミラ。
今の所無傷で、サバイバルには有用な能力を多く所持。
魔法は、闇属性に多少の適性があるものの扱えない。
ちなみに、ミラの現在のステータスは、以下の通りだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:ミラ
種族:腐人
Lv:15
トレーナー:鑑
性別:女
MP:E+〔+0exp〕
STR:B+〔+140exp〕
VIT:E−〔+18exp〕
AGI:F−〔+10exp〕
INT:E(闇)〔+10exp〕
能力:【剛力】【暗視】【生命感知】【喰欲】【痛覚遮断】
《火にとても弱い》《腐臭》《鈍足》
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
他に、魔法や使い魔、現代知識やこの世界で得た知識以外に、鑑が切れる手札と言えば――。
「【唯一の力】しかない、か。」
鑑が、今の今まで決して使おうとしてこなかった力。
勇者それぞれに与えられた固有の能力。
だが……。
「俺の、【唯一の力】はなぁ……。」
はぁ、と溜息を一つ吐く。
それは、ミラという腐人を従える鑑が、役立たずの最弱と呼ばれる一つの所以。
あまりにも弱く、あまりにも使えないから付けられた鑑自身の汚名の象徴。
鑑の【唯一の力】それは―――。
「【腐卵生成】」
ポツリ、と呟くように鑑は【唯一の力】を発動させる。
瞬間、鑑の紋章から黒い霧が発生する。
それは、鑑の掌に収束し、一つの物体を形作った。
まるで、いつかの再現。
黒い、どこまでも黒い。闇よりも尚昏い漆黒の楕円球。
丸みを帯びたその流線型の物体は、あの始まりの日に見たものと相違なかった。
鑑の唯一無二の能力。
唯一の力【腐卵生成】。それは、ただ単に、腐った卵を作ることの出来る程度の力であった。
「こんなもんで、一体どうしろと……。」
掌にのった腐卵を見ながら、もう一度鑑は溜息を吐く。
現在持ちうる手札は以上の通りだ。
この手札を上手く活用して、この状況を打破する必要がある。
――では、具体的にはどうする?
生存するには、ミラの【生命感知】で敵の位置を探りながら樹海を抜けるのが最善の手段だ。
だが、ミラの腐臭は凄まじいものがある。鑑が【生命感知】を仕えない現状、ミラを召喚して能力を行使してもらうことになるため、腐臭によって此方から周囲にいる敵に位置を教える形になってしまうだろう。新鮮な肉も、腐肉も好んで食う魔物がこの樹海に居たら最悪だ。
また、この樹海を抜けるために移動している最中に、万が一にでも魔物と遭遇して戦闘になった場合、現状の戦力では闘いにすらならない。
例えば、近接戦闘の際、動きの遅いミラや満身創痍の鑑の攻撃をあの化物と同等の力を持つであろう樹海の魔物が待ってくれるとは到底思えない。
無論、ミラのSTRの強さなら、当たりさえすればそれなりの痛手を負わせることが出来るのは樋口との闘いで実証済みだが、それでも不意打ちで一回が限度だろう。
では、魔法攻撃による遠距離攻撃で戦闘をする場合。現在鑑が扱える闇魔法の中級中位程度の威力では、あの化物クラスの脅威には恐らく通用しないだろうと思われる。脅威度がB+からAの魔物を倒すには、最低でも上級下位から中位程度の威力が必要とされるはずだ。
現代知識や此方の世界の知識を使うにしても、この深い樹海の中ではどうしようもないし、【唯一の力】も、腐った卵の生成という戦力にも食料にもならない体たらく。
「……本当、リアル異世界は甘くない、な…。」
何度目とも知れない溜息を漏らす。
「だけど、俺は生き残る。何が何でも。」
そのために、鑑は思考を巡らす。
弱い手札を全て使って、弱肉強食の摂理を打ち破る為に。
この少なく、弱い手札をどのように切れば生き残れるか。
八方塞に見えるこの死地で、活路を開くには……。
魔法、唯一の力、ミラ―――。
「ッ! ……そうか、分かったぞ。これなら、いけるッ。」
そのとき、鑑は一つ、策とも言えぬ策を思いついた。
鑑は、〈魔物の狂葬曲〉の時のように、獰猛に口角を吊り上げて不敵に笑う。
最弱の反逆が、始まろうとしていた。
◆
策を思い付いた鑑は、早速行動を開始した。
「うぃしょっ…と。こんなもんかな?」
慎重に樹海の中を探索し、拓けた場所を見つけた鑑は、ミラを召喚して周囲の警戒を任せ、木の棒を片手に地面に何やら魔法陣を描いていく。
二重の円環と、その中に描かれた六属性を表す六芒星。
その中心には、古代魔法文字と土属性を表す記号が記され、この魔法陣が土属性魔法の魔法陣であることを教えてくれる。
「んで、ここに少量の血と魔力を…っと。」
鑑は、その方陣に血を数滴垂らし、そして結構な量の魔力を流した。
「【陥没】」
土属性魔法、初級中位【陥没】。地面を凹ませる魔法を発動させる。
ズズンッ、と重々しい音と共に、大地が陥没して大きな穴が出現した。
それは、直径五メートル、高さ十三メートル程の縦穴だった。
「よし、上手く発動したな。」
本来、適性属性でない魔法は使えないのが常識だ。
だが、魔法陣を描き、適切な触媒を用いて術式を作動させたときに限って、適性属性以外の魔法を行使することができる。これは、『魔術理論』に載っていた〈魔法陣〉の特性であった。
勇者は基本的に二属性以上行使可能だから、誰もそこまで気にしない理論だったが、鑑は闇属性一つしか行使できないので念入りに学習していたのが役に立ったのである。
ちなみに、今回の【陥没】の魔法を行使するために必要な触媒は、栄養に富んだ土。
腐葉土がそこら中にある樹海の中では、魔法陣さえあれば魔力の続く限り【陥没】を行使できるわけだ。
「おぉ、結構な魔力流したから、予想通り良い感じの大きさの穴が出来たな。」
鑑は、完成した大穴を覗き込み、感嘆の声を上げる。
「んじゃ、次は……。【腐卵生成】!!」
鑑は、腐卵を何個も生成し、縦穴に放り込んでいく。
凄まじい刺激臭が鼻を突くが、そんなのはミラの腐臭で慣れっこなので無視する。
縦穴の中が結構な量の腐卵に満たされると、急いで地面にポッカリと大口を開ける穴に右手を向け、今度は闇魔法を発動させた。
「【隠蔽】」
闇属性魔法、中級下位【隠蔽】。巨大な影で覆った部分の認識を誤らせる魔法だ。
影で穴を覆うと、腐卵臭が穴から漏れ出てこなくなり、更には【隠蔽】の効果でさっきまでの平地そのままの光景が広がった。
「まぁ、こんなとこか。あとは…。」
キョロキョロと辺りを見渡し、草むらの中から目当ての植物の実を入手する。
大体、プチトマトくらいの大きさで、その品質を確かめてから、ポケットの中に突っ込んだ。
「準備はこれでよし、と。……ミラ、ここに接近してる反応はあるか?」
『(今現在、この場所に接近してくる魔物の反応はありません。)』
「うしッ。じゃあ、ちょっくら行って来る。お前は、作戦通りに、な。」
『(畏まりました。ご主人様の仰せのままに。)』
ミラに見送られ、鑑は森の中に突き進んでいった。
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大分、日が翳ってきたな。
鑑は、樹海を歩きながらそう思った。
十分な警戒は怠らず、常に木の幹に隠れてコソコソ移動する。
(そろそろ、何かと遭遇してもいい筈だが……。)
と、丁度その時。
鑑の視界に大きな黒い影が映った。
距離にして、凡そ三十から四十メートル。
(お、あそこに居るのは、突撃牛か。丁度良い、初の獲物はあいつにしよう)
優に八メートルはある巨体。朝に見た一角狼と比べれば僅かに小さいが、その纏う威圧感は遜色ない。
ずんぐりとした筋肉質な身体に、不釣合いに思える小さな四足。頭には凶悪なまでに太い二本の角が生え、その鋭さは岩をも貫通するだろうと思わせた。
暗い樹海の中で爛々と光るその眼光は、野生の殺意を体現しており、背筋を凍らせた。
だが、鑑はそんなことはどうでも良いとばかりに口元を歪め、眼鏡をカチャリと掛けなおす。
「【腐卵生成】」
手中に腐卵を生成する。
それを一度確かめるように握り締めると、鑑は樹の陰から躍り出た。
「そぉいッ!!!」
レベル20の身体能力を遺憾なく発揮し、突撃牛目掛けて全力で腐卵を投擲する。
キュンッ!!
地球に居たときだとありえない音を立てて、真っ直ぐ腐卵が飛んでいく。
そして、上手く樹木の間を抜けて、見事突撃牛の鼻頭に命中した。
ベキャッ!!
「GYAUUWAAAAAッッ!??」
腐卵が弾け、強烈な刺激臭が突撃牛を襲う。
突撃牛は、突然の激臭に混乱して数度樹木に身を激突させると、悶えながらも鑑の姿を発見し、怒り狂った目で睨みつけてくる。
「BUMOOOOOOOOOOOッ!!!」
突撃牛は、右前肢をザッザっと動かすと、鑑に向かって猛烈な突進をして来た。
鑑はその姿を確認すると、魔力を身体に流して身体強化を施し、全速力で逃走を開始した。
バキバキバキバキッ!
突撃牛の強烈な突撃は、進路上の樹木を圧し折り、突き破って、まるで障害など無いかのようだった。
(ヤッバッ…! 思ったより、速いな。だが、もう少しで…ッ!)
転ばないように足元に注意しながら、樹海を駆け抜ける。
目の前に、先程まで鑑が居た拓けた場所が見えてくる。
「うっしゃぁ!!」
鑑は内心ほくそ笑みながら、予め決めておいた定位置に立ち、突撃牛が来るのを今か今かと待つ。
「BUWOMOOOOOOOッ!!」
樹木を粉砕し、木片を散らしながら、突撃牛がその怒り狂った姿を現した。
突撃牛は、平地に一人佇む鑑に、もう逃げられまいと牙を剥き出しにして嗤う。
そして、改めて猛々しく咆哮すると一気に加速して突撃してきた。
その結果―――。
「BUMOッ!?」
【隠蔽】によって隠された巨大な落とし穴に気付かず、足を踏み外してズゴゴンッと凄い音を立てて落下した。
そこは、腐卵臭に満ちた落とし穴。
突撃牛は、その優れた鼻に再度強烈な腐卵臭を受け、穴の中で大きく仰け反った。
「行けッ! ミラッ!!」
突撃牛の見せた、僅かな隙。
鑑は、それを見逃さず、闇の中に潜伏して機会を窺っていたミラに命令を下す。
『(はい、ご主人様ッ!)』
ミラは、呻き声にも似た叫び声を上げながら高く跳躍し、上空から【剛力】まで使用した全力の一撃を突撃牛の脳天にお見舞いした。
「GYAWOOOOOッ!??」
完全なる不意打ち。
通常なら、その優れた嗅覚で不意打ちなど一瞬で看破することのできる突撃牛だったが、二度に渡る強烈な腐卵臭に鼻が使いものにならなくなっていたのである。
流石の突撃牛も、STR評価B+の全力攻撃にその身を抉られ、悲鳴を上げて大いに怯んだ。
「よし、離脱しろッ!」
ミラに一撃離脱を命じる。
『(畏まりました、離脱します!)』
その命令に、ミラは即座に従い、苦痛に暴れまわる突撃牛を足場にして再び跳躍する。
鑑はその姿を確認すると、ポケットからさっき拾った植物の実――火閃の実を取り出し、縦穴の中に放り込む。
火閃の実とは、この世界で一般的に周知されている便利な火元である。
以前、図書館で『植物図鑑』を読んだ際に、そのプチトマトに似た外観を見て思わず噴き出してしまい、司書の人に注意されたことがあったので、妙に覚えていたのだ。
この実は、中身が空気に触れると火花を散らしながら発火するという性質を持ち、また一つの実で結構な火力がでるので、お手軽に火起こしができる優れものとして長い間重宝されてきた。しかし、そうして一般に流通している火閃の実は、品種改良によって火力を抑えられたものだ。その火力は、火閃の実一つで松明の火一本分くらい。
それに対して、自然に生えている火閃の実は、石炭に並ぶ鍛治の必需品と言われ、鉄を簡単に溶かす程の熱量を秘めているらしい。その火力は、国が特定の職種(鍛治師など)に厳しい規約のもとで使用を許可しない限り、保持・販売することさえ罪とされる程恐ろしいものだとか。
ーーでは、その自然産の火閃の実が数個、高さ十メートルから落下したらどうなるか。
突撃牛が暴れ回る穴の中に、世にも恐ろしい植物の実が落ちていく。
その実が、縦穴の底に落下して潰れたのは、ミラが穴から少し離れた場所に着地して直ぐだった。
実に詰まっていた、トマトのようにグジュグジュとした中身が溢れたその瞬間。
ボウッ!!
炎が巻き起こった。
鑑の放り込んだ火閃の実が、穴の中に充満する腐卵臭、その原因である硫化水素に火を付けたのだ。
鉄さえ容易に溶かす炎は、瞬く間に突撃牛を飲み込み、そのまま焼き焦がしていく。
「BUWOMOOOOOOOッ!!?? MOOooo………ッ!」
突撃牛の断末魔が、樹海に響く。
ドシンッドシンッと突撃牛は縦穴の中で大暴れするが、固く押し固められた土壁に僅かに亀裂を作る程度で、己を捕らえる落し穴を破壊するに至らない。
高く跳躍出来ない突撃牛では、穴の中から上手く抜け出すことが出来ず、熱と酸欠によってその命がガリガリと削られていく。
「BU、Mooo………」
やがて、突撃牛は息絶えたのか、辺りを静寂が包み込む。
最弱によって、大物殺しが、今此処に為されたのだ。
辺りはもうすっかり暗い。空を見上げれば、青白く輝く月が浮かんでいた。
生い茂る葉が擦れる音が樹海を満たし、鑑が静かな達成感を――。
「さて、今日の夕飯は焼肉だな。」
――感じることは無く、空気の読めない言葉と共にギュルルっと情けない音が鳴った。
鑑は、穴の中で黒焦げになった突撃牛を見下ろし、心底腹が減ったとばかりに腹をさする。
朝から歩き通し、警戒しっぱなしだった上何も食べていないのだ。
そんな中、牛肉の焼ける香ばしい香りがして、いい加減、空腹で腹が捩れそうだったのである。
「…ま、とりあえず。【隠蔽】っと。」
縦穴の中に、予め丈夫な蔓で作っておいた簡易的な梯子を使って降りると、縦穴を再度【隠蔽】で隠す。
「よし、まぁ今日の寝床は此処で良いよな。…それより、早く飯食うか。おい、ミラ。お前も早く来い!」
『(はい、只今参ります!)』
出来損ないの勇者と最弱の腐人が、縦穴の底で密かに夕食を取り始める。
この日から、最弱は弱肉強食の摂理に反逆を開始する……。
矛盾点・誤字脱字がありましたら、是非ご報告ください。
感想もお待ちしております。




