第三話
絵本の中での一週間。
"北歴" ≪一八九八年一月一日≫
この日、とある国のとある村に男の子が生まれた。
名は、"ハジメ"
生まれてすぐ、周りの人達の言語を理解し、思考することが出来た事から後に"神童"と呼ばれることとなる。
生まれた国の名は≪ティアマト≫。
村の名は≪ロットン≫
大勇者ヴァンが生まれた村である。
≪ティアマトの国≫
"ティアマト"という国は、佐藤一が幼い頃描いた絵本の"設定"には無かった。
"ティアマト国"はニヴルヘイムに悪い魔女が現れる、"北暦一七五七年"よりも遥か昔から存在していた。つまり、佐藤一が書いた≪ありふれ勇者の大冒険≫という物語は、絵本世界の"一七五七年"~"一七九〇年"に渡る"三十三年間の出来事"になる。
当時、幼かった一が"悪い魔女"が現れる以前の設定を、考えているはずもない。
だが、存在する。
ティアマト国は、和の国と呼ばれる、日本と瓜二つの国から東に位置する島国。
前世で言う世界地図での位置は太平洋のど真ん中に在る。
ティアマト国の、国土面積はオーストラリアよりも僅かに小さい。そのため、ティアマト国は世界最大の島国と云われており、世界有数の資源大国でもある。
ティアマト国の形が"三日月型"であるため別称を"月の国"と呼称されている。
そんな資源大国をティアマトの一族が何故統治することが出来たのか。それは遠い昔この世界は力が全てだったからである。それを、可能としたのはティアマト一族の持つ"魔法なる力"。
この力を使いティアマト一族はこの世界に千年以上も続く文明を築き、歴史に名を刻んでいた。
だが、"一七五七年"。突如、"邪悪な力を使う魔女"がニヴルヘイムに生まれた。その後、ティアマトの国にひっそりとあったロットン村に"ヴァン・ヴァルバンス"が産まれる。
後に希望の戦士と呼ばれる者たちと仲間になり、悪い魔女を命を賭して滅ぼした大勇者。
フォーレン・モールとの戦いの後。ヴァンと希望の戦士たちは全世界を救った英雄と呼ばれるようになる。
ヴァンの血を受け継ぐ"ヴァルバンス"と"希望の戦士"が英雄と崇められた頃。彼らは、世界中から支持を受け、強大な権力を持ち始めた。
ヴァン・ヴァルバンスの一族は支持を得て、王族の地位を築いた。
ヴァルバンス王家は、地位と権力を行使。弱体化していたティアマト一族から王権を奪い取ったのだ。
大勇者ヴァンとその妻であるミレイ・ファンヌ。
そして、子供達が亡き父の意志を継ぎ。
ヴァンの曾孫にあたる"ルシア・ヴァルバンス"が現在、王家の玉座に腰を降ろしている。
ティアマトの一族は千年以上続いたことから≪千年王族≫と呼ばれ、この世界に大きな影響を与えていた。加えて"大きな権力"と"莫大な経済力"と"強力な軍事力"を持っていたにも関わらず、その最後はあまりにあっけ無く滅んだ。
ティアマト一族が歩んだ滅びの道に関する詳細は、現在ほとんど残っていない。
ただ"悪魔の一族"として世間に知れ渡っている。
僅かに生き残った"ティアマトの一族の者達"は、唐突に起こった悪い魔女"フォーレン・モール"と"勇者の戦い"を畏怖の念を込めてこう呼んでいる。
このシナリオは≪神の気まぐれ≫だと。
そして、話はティアマトの国のロットン村にある小さな民家へ。
【ハジメが産まれてからの一週間】
一日目。
生れ落ちたその日の内にハジメは母と共に退院する。
小さな病院を出ると大きな城がハジメの目に映った。
城といっても日本のような要塞の体をなすモノではない。
王様が住み、国を統治するために造られた城である。
城の名前は≪パクチーク城≫
幸福を意味する白い花の名が、その城の名の由来とされている。パクチークの花言葉は――《七つの愛》
その大きさから、別称を巨大城とも呼称される。
パクチーク城があるのは、ティアマト国の中心都市"帝都ヴァルバンス"の中枢である"ヴァルバンス地区"。
この村から三〇〇キロ以上離れた場所に存在しているというのに、城の一端がこのロットン村からでも確認できる。
城の上階部は雲に隠れて見えないほど。
恐い。それがハジメが素直に思ったことである。そしてゾッとしたそれほど、巨大な城だった。
二日目。
この日、母にあちこち連れ回されたハジメが、『ここはタイムスリップした中世ヨーロッパなのではないか』と感じていた。
が、もちろん違う。
違う、とハジメが結論付けをしたのは、世界観が"そう"だったという他ない。
ハジメが"そう"だと思ったの、はロットン村にいる人々と情景が漫画でよく見る中世ヨーロッパと、遜色が無かったからだ。
田畑こそ、日本風ではあったのだが、村人達の家はすべて赤いレンガで造られていて、教会もあった。
ハジメ親子同様。体に肌色の布で作られた浴衣の様な服(?)を身に纏い、頭に桶を乗せて歩いている人もいた。
これを見れば、誰でも中世ヨーロッパだと思うだろう。
三日目。
ちょっと変わった二人組みが、ハジメの家を訪れていた。二人は入ってくるなり、ハジメを抱っこする。
ハジメを抱いたのは、金色の長い髪に雪のような白い肌。それと華奢な体で支えられるのかと思うほど大きな胸。目がやや細くつり上がっているせいか、性格がキツそうに映る。しかし、男なら誰もが釘付けになるほどの色気があった。
ハジメを抱えた金髪豊満美女に横に立ち。赤ん坊を見上げる子供がいる。
金髪の豊満美女に、ハジメの母が近づき話しかけた。
「ルーシンさん……パインちゃんはいくつになったの?」
ハジメの母が訊くと金髪美女のルーシンが笑顔で返答する。
「もうすぐ十歳よ……男の子になるか女の子になるか楽しみだわ」
前世では絶対に聞かない会話だが、少なくとも大の大人たちのマジな会話だった。
だから、金髪の子どもパインは男女の区別がまだ無い。という結論にハジメが至っていたのだが、冗談だよねと、ハジメは思った。
そのことについては理由がある。
それはパインの容姿が、どこからどう見ても女の子だったからだ。
パインの容姿はパッチリとした大きな瞳が特徴的、しかし、ルーシンの金色の瞳とは違い。なぜかパインの瞳は青かった。
子どもらしいモチモチした頬は、薄紅色に染まっていた。
彼女たちは"金精種"と呼ばれる種族。
特徴は金色に輝く髪と透き通るような白い肌。
ちなみに、十歳になるまで性別が無いのは本当だった。
四日目。
この日ハジメは母に連れられ、教会に連れて行かれる。
教会まで辿り着くには、意外と時間が掛かった。
それは母がハジメをおんぶし、徒歩で移動したからだ。
歩いたのはおよそ一時間。
目的地に到着するまでの間は、田畑のオンパレード。
他に目に映ったモノと言えば、ハジメの家と同じような、レンガ造りのボロい民家。
母の背中に乗りながらハジメが地面を見ると、タイヤの跡が付いてい手居るのを見て、この世界にも車があるんだと推測した。
五日目。
この日、ハジメは父に連れられ"破邪洞窟"と書いて"イノセンテ"と読む洞窟へ向かった。
そこは"大勇者ヴァン"が産み落とされた場所でもある。
破邪洞窟は文字通り邪気を払ってくれる洞窟。
村の大人たちは子供が産まれると、健やかな人生を送ってもらうため。
ここへ連れて来て厄払いを行なう。
だが、ここで産まれた"大勇者ヴァン"が"悪い魔女"と共に封印され、非望の最後を遂げたことを考えると効果はあまり期待できない。
背中にハジメをおんぶしたまま、父がハジメに語りだした。
「ハジメ、破邪洞窟はな、ルビを振って、イノセンテと呼ばせているんだ」
ハジメは疑問に思い首を傾げ、『何でルビを振るのか』疑問に思った矢先。
父が幸せそうに歩きながら、ハジメが思った疑問について話を始めた。
「漢字で"破邪洞窟"と書くことで、文字の力。その上に"イノセンテ"とルビを振る事で、言霊の力。この二つがプラスされ"邪気払いの力"が増す、ハジメが将来、嫁さんを貰って子どもが出来たらここに連れて来い、きっとご利益があるぞ」
父の言葉を、ハジメは素直に信じなかった。
六日目。
この日は特に何も無く終わりを迎えるはずだった。
が、ちょっとした事件が起きる。
それは父と母の喧嘩。
ハジメが誕生したその日。少しだけ話題に上がり疑問符を作る要因となったこと。
勇者にするか否かという話だった。
この時は夜ということもあり、ハジメの小さな体は疲弊しきった。
つまり、眠っていたのだが、家の外から母の声が聞え――
「どうして、あなたはいつも勝手に決めるのよ」
怒鳴り声でハジメの目がパッチリと開く。
父と母が外で喧嘩をしているのは、赤ん坊のハジメを気遣ってのこと。
両親が息子を思っての気遣いはあまり意味が無く。
怒鳴り声は脆いレンガの壁を簡単にすり抜け、寝室にいるハジメの耳へ次々と入ってきている。
母の次は父の怒声が響く。
「ハジメは男に生まれたんだ。勇者にするべきだろ」
と、続いて響くのは母の金切り声。
「勇者なんて――」
母が何かを言おうとした時。
びゅぅぅぅううう!! と、強風が吹く。
「――と一緒じゃない」
風音でハジメは肝心な部分が聞き取れなかった。
ジメジメと湿った風が外から入って、ハジメの肌に触れる。
ベタベタと気持ちの悪い感触が、お化けでも出そうな雰囲気をハジメに連想させた。
霊的な現象が大の苦手なハジメの心中は、怖いの二文字。
『もう寝よう』と、目を閉じたハジメの脳裏に些細な予感が過り、明日は嵐と直感していた。
七日目。
ハジメがとある事に気が付いた。
それは言語。
明らかに日本人では無い人々が、流暢に日本語を話し、ひらがなを書き、カタカナを使い、漢字まで扱える。
生まれたその日に気づいてもよかった。
だが、現実的に考えると気づいていたら絶対に変だ。
おかしな世界に迷い込み、産んだ親は本物で、ハジメは赤ん坊で話せないのに、言語はちゃんと理解でき、前世の記憶は残ってる。
この状況下で日本語を使いこなしていると、考えられる人間はいない。
ハジメの頭の中は疑問符で一杯。
おかしな点を一つ一つハジメなりに処理をしていたら、一月八日の朝になって、気が付いた――なんで? と。
何もかもが小さい赤ん坊のハジメが思考を廻らせ、自身に巻き起こる異常な事態を考え抜き。
挙句、親の元へ挨拶に来る近所の人々に笑顔で応対した一週間。
ハジメが今、感じている事は、疲れた……だ。
自身の力だけでは動けない。
だからと言って話も出来ない。
だから今、寝室でぐーすかとイビキを立てて眠っていた。
時――。
昨日と同じく家の外から両親の怒鳴り声が、脆いレンガの壁をすり抜けハジメの耳に入ってくる。
ハジメを深い眠りに落としていた、睡魔を追い払ってしまう。
「あなた。まだそんな事言ってるの?」
「"ハレルヤ"……ハジメは男だ。フォーレン・モールを倒す勇者にするべきだろ?」
遅ればせながらハジメの母の名は"ハレルヤ"。
前世でも母はこの名前だった。
「だったらあなたがなればいいじゃない・あなただって男でしょ? "カレジ"って名に恥じぬ生き方をしなさいよ」
遅ればせながらハジメの父の名は"カレジ"
日本語に訳せば"勇気"、勇者には持って来いの名である。
ちなみに、父は前世でもこの名前。
二人の怒鳴り合いが、続く。
「ハレルヤ、"英雄会"から出された"勇者育成法案"を忘れたのか? 男に生まれた以上、勇者にして"勇者連合"に――」
「ハジメが、勇者になる義務はないわ」
「そんな訳にいくか! 世界を救う為の法案なんだぞ」
「あの子が"聖痕騎士団"にでも入ったらどうするの? あなた。責任が取れるの?」
「"悪義の教団"だって動いているんだ」
「関係ないわ。そんなの"勇者連合"に任せておけばいいでしょ」
ヒートアップしていく口論に顔を寄せ合い睨み合うハレルヤとカレジ。
昨日ハジメが予感した通り、起こった。
嵐の様な大喧嘩。
――"英雄会"
――"勇者育成法案"
――"勇者連合"
――"聖痕騎士団"
――"悪義の教団"。
知らない単語がてんこ盛り。
両親の会話を聞いていると、ハジメは頭を抱えたくなり、手を伸ばす。
ハジメの小さな両手では、頭まで一寸ほど届かない。
「うわぁああああん」
手が届かない。
ただそう思っただけで、ハジメは泣いてしまった。
「あなた。ハジメが泣いてるわ」
「あぁ、分かってる」
頭に手が届かず。泣いた事が幸いした。
両親の喧嘩が一旦収まり、走って家の中へと入って来た。
途端。
家の外から、ざぁあああ! っと音が鳴る。
バケツの水をひっくり返したような大雨が降っていた。
大雨にプラスして、レンガの家など吹き飛ばしてしまいそうな、突風が吹き荒れ。嵐だった。
「ハジメが泣いてくれて良かったわ」
「ホントにハジメは良い子だなぁ」
ハジメは嵐が来ることを両親に警告したわけではない。
それは、両親たちがそう思っているだけである。
ならそれでいいやと、ハジメが思う。
と、同時にハジメには気になることが沢山あった。
それは両親の会話に出てきたこと。
* * * * * * * * * *
"英雄会"、"勇者育成法案"、"勇者連合"、"聖痕騎士団"、"悪義の教団"について。
――――【英雄会】
ヴァン・ヴァルバンスの仲間であった、フィン、リアン、アポロとリポロとその協力者達で大勇者ヴァンと悪い魔女フォーレン・モールとの戦いが終わった一年後の一七九一年にヴァンの遺志を継ぎ"信頼による平和の形成を目的"とし結成された組織である。
英雄会のメンバーは"現在三十二人"とされているが、実際のところは分かっていない。
≪フォーレン・モール≫の被害にあった国や地域に対しての慈善活動が主な活動であると公表しているが、具体的な内容は非公開。
その為――黒い噂が絶えないでいる。
"全世界"の実権を握っているのも英雄会という都市伝説がある。
――――【勇者育成法案】
魔女≪フォーレン・モール≫が復活したことで、新たな勇者を発掘すべく"英雄会"によって"北暦一八二五年"に掲げられた法案。
義務ではなく、あくまで自主的に勇者になりたいと強く願う者を育成するが、"能力のある者は進んで勇者になるべし"というもの。
勇者になるまでの手順は、教習所に通い、実施と学科を受講し、試験に挑み合格すれば晴れて"勇者"である。
受講資格は男性である事のみ。
合格者には勇者免許が発行される。
勇者免許を取得した者は"勇者"として扱われ、"勇者"として生きていく事を許可。
活動内容は、
一、≪フォーレン・モール≫の討伐、もしくは封印が目的である。
二、魔女が世界に放ったモンスター討伐。
三、亜人の管理と亜人の暴走阻止。
四、魔女に侵され悪事を行う人間への制裁。
五、悪事を行う勇者の取り締まり。
以上の活動に必要な行為とみなし、以下の犯罪行為を免除。
――破壊活動。
――不法侵入。
――窃盗、強盗、拉致監禁。
――不法薬物の所持。
――戦争へ強制参加の拒否。
――非勇者=(一般人)への殺害・暴行・私物化を認めるが、条件として勇者が悪、もしくは染悪罪と判断した場合に限る。
尚、これ以外の犯罪行為であったとしても、その場の状況によって免除される場合がある。
――――【勇者連合】
勇者育成法案を提案した"英雄会"と対を成す帝都ヴァルバンスの王族達によって造られた組織が勇者連合である。
英雄会が定めた勇者育成法案とは別に、人材を育成し勇者を育てるのが、英雄会の様に勇者免許は出さない。
主な活動は勇者育成法案と同じであり、免除される犯罪行為もほぼ同じである。
二つの違いは試験を受け勇者免許を持ち英雄会に属するか、勇者連合に属しヴァルバンスの兵隊としての勇者になるのか――である。
勇者連合総統≪ルドルーフ・アダム≫を筆頭に、続き三大魔導師≪スノー≫、≪ムーン≫、≪フラワー≫の三名。
その下に――。
――≪五神衆≫
ルドルーフ・アダム直属の実行部(五芒星のエンブレムを使用)。
――≪七華隊≫
英雄会にも所属している為、活動は非公開となっている女性部隊。(刀を交差させたXのエンブレムを使用)
――≪九天使徒≫
勇者連合の頭脳であり政治的な任を取り仕切る。(九つの羽で描かれた扇形のエンブレム使用)
――≪帝都十二騎士≫
その名の通り帝都ヴァルバンスを守護している。(十二六芒星を描いたエンブレムを使用)
――≪十六勇師団≫
主に犯罪者を取り仕切る警察の様な組織。(三重の円の中に幾何学模様を描いたエンブレムを使用)。
――≪勇者憲兵団≫
十六勇師団の管轄下で、治安維持を目的に活動する(三重の円を描いたエンブレムを使用)。
以上が主な"勇者連合"の"組織分布"である。
――――【聖痕騎士団】
"罪取り"を目的とした勇者免許を持たぬ者達による"超法規的な活動をする組織"である。
法で裁かれていない者、もしくは法で裁けない者、つまり"勇者"を制裁するのが聖痕騎士団の目的とされている。
聖痕騎士団は、国や政府機関などに認められた組織ではない。
当然、聖痕騎士団の活動は犯罪行為と見なされる。
活動の内容は聖槍≪ロンギヌス≫で悪人の心臓を射抜き"傷を造る事"。
ロンギヌスの槍でつけられた傷は死亡した後"ルビーという自然魔力"によって自然治癒される。
死後、ルビー魔力で自然治癒された傷跡を聖痕と呼ぶ。
その聖痕を体の一部に創ることにより、罪人から罪を取り除かれること"で魂が清められ罪取"が完了するという。
この"罪取"が聖痕騎士団の名の由来となっている。
ウロボロスの蛇に鎖を巻いた不不滅鎖と名づけられた紋章を黒衣と呼ばれる特殊な魔法衣の背に記してある。
聖痕騎士団が誕生して以来、彼らは悪事を働く勇者以外は狙わないため義賊と呼ばれている。
そのこともあって大人たちは――。
――『悪い事をするとロンギヌスの槍が降ってくるよ』
と、言って子供を躾けるようになったのだが、今では活動の内容は大きく変わったとされ、殺人、強盗、拉致監禁、不法薬物の斡旋などを行っているとの噂が絶えない。
そのため勇者と同様【悪党】のレッテルを貼られてしまうが、彼らはあくまで【正義】という大義を掲げ今現在も犯罪活動を続けている。
――――【悪義の教団】
別称を≪フォーレン・モール教≫
その名の通り"フォーレン・モール"を神として教示するカルト教団である。
その教えは"悪義"である。
"悪義"とは"正義"の反対に位置する思想。
"正義"と相対するものは"相反する正義"ではなく"悪義"であるとしている。
大義名分の下、自らの意志で悪を行う。
それが"悪義"。
そして"正義"と"悪義"の二元論からなる"狂い"の教えを以下に記す。
正義とは悪義に対抗する力である。
悪義無くして正義は無い。
慈善で生まれる正義は"義善悪"であり、罪深き巨悪だ。
我々が悪義を成し正義を創造する。
強大な悪義がより強い正義を産み落とす。
安らぎが欲しくば死を与えよ。
安寧が欲しくば人を殺せ。
平和が欲しくば戦争を起こせ。
恐れる事はない……全ての罪はフォーレン・モールが背負ってくれる。
我らが神だ。
神を信ずる者共よ。
さぁ狂え。
殺戮こそ、究極の正義なんだ。
以上が、後にハジメが自分自身で調べ上げ手に入れる"この世界の知識"の一部である。
ご愛読ありがとう。