第二十五話
ティアヌス
帝都ヴァルバンスの中枢ヴァルバンス地区。
北海道ほどの敷地面積を有する帝都ヴァルバンスの中枢地区に、悠然と聳えて立つ巨大な城。――《パクチーク城》
この東京都を丸呑みするほど巨大な城の中枢で"ヴァルバンス王家"の王族と"勇者連合"の最高幹部たちによる議論が行われている。
最初に話し出したのは勇者連合総括
「プリメラ絵画の秘密を暴こうと南の連中が動き出しております」
ルドルーフ・アダムの報告に"白い王家"が口を開く。
「して、動き出しているとは具体的にどういったものだ……"スノー"答えてみよ……」
「はい……あの飛行機に乗り合わせていたカレジ、ハレルヤの夫婦が公の場で"プリメラ絵画"について公言させるといったものでございます」
スノーの答えに"青い王家"が。
「何と!! それを今まで見過ごしておったのか? 言い訳があるなら申してみよ!! "フラワー"」
「事件には英雄会も関与しております……そう簡単にいくものではございません」
フラワーの答えに怒りを露わにし"赤い王家"が怒りの声を上げる。
「おのれぇ……英雄会めが!! "ムーン"よ……今回の一件は主に任せたはず……対策は立っておろうな!!」
「もちろん……対策は立てておりますが、私の立てたモノは"プリメラ絵画"が世に公表されてからのモノ……"プリメラ絵画"が世に公表されるのは確実かと……」
白い王家はただ赤と青を見守っていると、赤い王家が更に怒りの声を張った。
「貴様!! それでも三大魔導師の一人か!! "禁愛"が公表されれば我ら"ヴァルバンス"は根底から覆されるのだぞ!!」
「お言葉ですが"禁愛"は誰もが知る名画……あの飛行機に乗せられていたことを公表されても然したる問題はございません……問題なのは"禁愛"の秘密を暴かれる事でございます」
ムーンの言葉を聞き、ルドルーフ・アダムが口を開く。
「"禁愛"の秘密が世に出なければ問題無しと言う事か……」
「はい……」
「う~む……確かにな……どう思われますか? ……ルシア様」
ルシアは闇に隠れた天井を見上げ、とても悲しげな表情になった。
「我々ヴァルバンス王家が南世界に――月におこなってきた行為は許されがたい事実……しかし、今やヴァルバンス無くして北世界の平和はあり得ない」
ルシア・ヴァルバンスは暗く静まり返った会合の場で涙を流す。
「償わねばならない……"最終戦争の終結"と"悪義の崩壊"その為には、まだ"禁愛"の秘密を世界に暴かれてはならない……」
ヴァン・ヴァルバンスの血を受け継ぐルシアが静かに口を開いた。
「ルシア・ヴァルバンスが命ずる」
――『"ルーシュクル"の血を絶やせ!!』
* * * * * * *
ハジメがフレアに最終戦争の話を聞かされている八時間前。
ハレルヤとカレジがハジメが居なくなった事でひどく取り乱し、病院の自動ドア前、受付や薬局がある純白で染められた現代的なロビーで、発狂したかのような叫び声を上げていた。
「ハジメ!! ハジメぇーーー!! 何処なの!!!!」
カレジと病院の白ひげの医師、女性看護師を含めた計五人でハレルヤを押さえ付けたが手の付けられない状況になっていた。
「放して!! ハジメが居ないのよ!!!! ハジメ出てきなさい!!!!」
慌てふためくハレルヤの様子を見た医者が、何をしていいのか分からずただ立っていることしか出来ていないカレジへ、
「旦那さん!! ちゃんと押さえて!!」
「分かってます!! ハレルヤ!! 落ち着け!! ハジメなら大丈夫だ!!」
「無責任な事言わないでよ!! 何処にそんな証拠があるって言うの!!!!」
「奥さん!! 今警察に連絡しました!! 警察に託しましょう!!」
「警察に頼んで何になるのよ!! あの子は私の子なの!! 私が付いていてあげなくちゃイケないのよ!!!!」
自分を押さ付ける五人を振り切ろうとハレルヤが暴れていた。
医者に看護師たちはロビーに備え付けてある椅子に、ハレルヤが身体をぶつけないよう細心の注意を払っている。
カレジもまた、女房を落ち着かせようと必死に名前を叫んだ。
ハレルヤがここまで取り乱す理由とは、ハジメ、ハレルヤ、カレジの三人には未だ"村人殺害の容疑"が掛かっており、そして"村人殺害の情報"が一切洩れていないとは考え難いという事である。
村人殺しの情報が、聖痕騎士団に伝わっていたら、パインと同じ様に殺されてしまうのではないかと考えたからだった。
なによりハジメを溺愛するハレルヤの"海より深い息子への愛"。
(あの子は――私の物なのよ)
この少しばかり変わった……息子への異常な愛情がハレルヤをこうさせていた。
「ハレルヤ!! いい加減にしろ!!」
カレジに一喝されたハレルヤが、旦那に対して暴言を吐いた。
「ハジメにもしもの事があったら!! アンタが死んで詫びなさい!! 必要ないのよ!! アンタみたいな役立たず!!」
「……な、な、何だとぉおおお!!!!」
ハレルヤのこの言葉にカレジの中で何かが切れた。
気づけば血が滴るほど強く握られたカレジの拳がハレルヤ目掛け飛んでいた。ドッカ!! 鈍い音が病院のロビーに響く。
白ひげ医師も女性看護師達も衝撃で言葉が出ない。
響いた音が消えると病院内は静寂を取り戻した途端、カレジが正気に戻った。そして目の前でハレルヤを守った意外な人物に対応する事ができないでいる。
「また、暴力ですか?」
そっとカレジに呟かれたその声は、ハレルヤのモノではなかった。
カレジの目の前には十六勇師団の若い団員に扮し顔を隠しているラファエがハレルヤの前に立っていた。
若い団員はカレジが暴力を振るっている場面に出くわしていない。だから『また』という言葉はおかしいのだがそこに気づくことは無かった、それどころではないというわけじゃない、そんな些細な事に気がつけるような男ではないのだ。
ラファエは間一髪でハレルヤに向けられたカレジの暴力をの右手で受け止めた後、
「女性に手を上げちゃ、男失格!! 絶対にダメすっよ……お父さん……」
静かで人を癒すようなラファエの優しい声がハレルヤに届く。
"癒しの声"はカレジの拳から逃げようと床に座り込んだハレルヤの心も落ち着かせていた。
カレジがハレルヤへ言葉を送る。
「すまん!!!!」
カレジがしようとした暴力と見合わない簡略されたぶっきら棒な謝罪を述べたが、夫が発した怒り交じりの謝罪にハレルヤが納得するはずも無い。
ハレルヤは何も答えず立ち上がり、スカートに付いた埃をパンパンと両手で払うとカレジを睨み付けた。
「まぁ~これで、この一件は落着だな!」
カレジはいつも自分の仕出かした事態をこの言葉でごまかし、何も無かった事にする。
いくらカレジの中で無かった事になったとしても、ハレルヤの中で何も無かった事にはならない。地獄の底にでも居るかのような居心地の悪さがロビーを包む。
それでもカレジはいつもの様に知らん振りを決め込んでいた。だから当然のように悪化していく夫婦の絆。
「……最低」
ハレルヤが放った小さな言葉にカレジが即座に反応、すぐキレる。
「俺の何処が最低なんだ言ってみろ!!」
「私を殴ろうとしたじゃない!!」
「謝っただろ!!」
「アレで謝ったつもりなの?」
「元はと言えばお前が暴言を言うからだろ!! 分からないなら最初から説明してやろうか!! 最初にハジメが居無くなったなんて、お前が騒ぎさえしなければこんな事にはならなかった!! 被害者面するんじゃない、いつだっておま―――」
詰め将棋のようなカレジの説教を――
「しつこい!!!!」
ハレルヤが一刀両断する。
カレジとハレルヤが口喧嘩をする間に、医師と看護師が互いに視線を合わせ合図を送りあっていた。
視線で送り合った合図を最後に向けられたのは医師だった。
「十六勇師団の団員さんも来られたようですし、我々はこれで……」
医師と看護師達が一礼するとその場から立ち去った。立ち去ったのは十六勇師団の団員が来たからと言うより、それを理由にこの気まずいロビーから逃げ出したのだろう。
ラファエが両手を叩きパンッと音を鳴らし、
「喧嘩は止めて、大事な話をしましょう……」
だが、二人の喧嘩はこんな事で止められるようなモノではなかった。
ハジメが心配で堪らないハレルヤ。
そのハレルヤを殴ろうと手を上げてしまったカレジ。
状況は最悪さえ通り越しているのだが、悪い事は続くらしい。
ウィーンっという音と共に自動ドアが開かれ、病院の外からまたもカレジとハレルヤにとっての"災厄"が姿を現した。
現れたのは"十二芒星"のネックレスを付けた"帝都ヴァルバンスを守護"する≪帝都十二騎士≫の隊長格十二名。
突如現れた大物達にさすがのハレルヤも言葉を失い、カレジに至っては女房を盾に身を守っている。
最悪を通り越した地獄を圧倒するかのような威圧感を放つ≪帝都十二騎士≫がラファエ、カレジ、ハレルヤの前にずらりと並ぶ。
カレジもハレルヤも十二人の隊長達に圧倒され目を逸らす事が出来ずに見つめている。
「あの! すみません!」
ラファエが"帝都十二騎士"の総隊長につかつかと近寄り話しかけた。
「"ヴァルバンス地区を守護"している筈の帝都十二騎士の皆様が何故……ニルヴァーナへ?」
ラファエの質問に一番隊であり、総隊長でもある≪クロノア・パンサー≫
クロノアは重厚感のある紅い西洋風の甲冑に身を包み、大剣"グラディウス"を腰に携えているが、兜は被っておらず黒い長髪をなびかせていた。
見たところ、まだ三十代前半であり若くして昇り積めた貫禄がクロノアから放たれる。
その圧は凄まじく、整った顔には傷も無く放たれる眼光が百戦錬磨なのだと教えてくれた。
クロノアは十六勇師団の団員に扮するラファエに向かって口を開く。
「我々はヴァルバンス地区だけではなく、この帝都そのものを護っているんだ、だから帝都十二騎士と呼ばれている……お前は十六勇師団のくせにそんな事も知らんのか?」
低音の声でラファエを脅すような口調、本物の新人団員なら萎縮し何も出来ないだろう。しかしラファエはあくまで冷静に"出来る新人団員"として対応する。
「失礼致しました……何せ新人ですので……それで? あなた方がこんな所に来られたのは何故なんでしょうか? 新人とはいえ十六勇師団の団員ですので、知っておかねばならない事かと。どうかご説明をお願い致します」
ラファエの丁寧で警官として筋が通った言葉を聞くと、何かを察したようにニヤッとクロノアが笑い答えた。
「南の人間がこの北世界に進入し、何やら企てていると言う噂を聞いたのでな……」
ラファエがクロノアに尋ねた。
「総隊長殿は兜を被らないんですか?」
「見ず知らずの者に対して、顔を隠すのは無礼だろう…」
「……そうですね。確かに無礼だ、なら何故、後ろに居る隊長方は顔を隠されているのでしょうか?」
「念には念を……ということだよ」
他の隊長格十一名はラファエが南世界の人間である事を知っているのかどうかさえラファエに悟らせてくれない。
兜を被り顔を晒さず言葉を発する事も無くただクロノアの後ろでラファエを見つめて身構えている。
そんな恐ろしげな光景の中で、またもラファエがクロノアに話しかけた。
「いやぁ~私の様な末端には考えも及びませんでした……」
ラファエはクロノアが"自分"に明らかな不信感を抱いる事にハッキリと気づく。
不信感というのは生ぬるいかもしれない、言い直そうラファエは確信している自分が南の人間であると疑われている事に。
一瞬ラファエの中で北への殺意が顔を出した。
ラファエの中に出た僅かな殺気、その殺気を消そうとした違和感がクロノアに伝わると総隊長としての行動に移った。
それは違和感を確かなものにする事、つまりラファエが南の人間であると完全な確信にする為の行動。
クロノアが"若い団員"に尋ねた。
「お前はなぜ"ここ"にいる?」
「私ですか? いやぁ~こちらの病院で喧嘩があるとの通報を受けましたので……」
「その通報を受けた警官が殺害されていたのはどういうことだ?」
「恐らく"殺人鬼"にでも遭遇してしまったのでしょう……私は巡回中でしたので……」
「巡回中のお前が何故……通報された事を知っていたんだ?」
クロノアの言葉が終わると、二人がにらみ合う。
そして、耳を切り裂きそうな音が突然キーーーン!!!! と鳴り響いた。
クロノアの大剣"グラディウス"。
ラファエの短剣"ミセリコルデ"。
二つの刃がクロス状に交わる――轟音だった。
クロノアの持つ大剣グラディウスと対峙し交差する、ラファエの短剣ミセリコルデが淡い朱色を帯びている。
「近距離型の鉄姫技法か? なかなかやるじゃないか。俺の"グラディウス"をそんな"魔力の篭もっただけの短剣"で受け止めるとは、お前はやはりただの団員じゃないな……南の人間か?」
「南世界、精霊区出身、風精種のラファエだ。よろしく!!!」
十六勇師団の団員に扮していたラファエが南の人間と聞いた瞬間、ハレルヤは床に尻餅を着き体を丸めて怯えながらカレジを見ると自分を置き去り、半べそを掻き外へと逃げていく夫の姿。
「わぁあああ!! 助けてぇえええ!!」
カレジが逃げ去っていく様子を見たハレルヤは怒りのあまり、怯えていた事も女である事さえも忘れて、立ち上がり夫を怒鳴りつけ走り出した。
「てめぇえええ!! 一人で逃げてんじゃねぇえええ!!!!」
二人が外に逃げ出したのをクロノアが確認すると、カレジとハレルヤの逃亡をわざわざ見逃し、後ろで構えていた帝都十二騎士の十一隊長達に指令を出す。
「十一隊!! あの二人を捕まえろ!!」
総隊長クロノアの命令を聞き外へと飛び出した十一隊長達の声が病院内にまで轟く。
「二人とも!! 殺されたくなければ止まれぇええ!!」
外では隊長格の一人に静止を促されるがカレジとハレルヤは止まる度胸は皆無。生々しい叫び声をニルヴァーナの街に轟かせた。
「く、来るなぁ!!!!」
「殺すならこいつを殺してよ!!!!」
十一の隊長達が外へ向かう間、刃を交えながらクロノアとラファエの会話が始まった。
「何で外に出したんだい? 総隊長さん?」
「病院内で戦ったら患者に迷惑だろ?」
「正直に言えよ……」
ラファエがニヤッと笑う。
「ヴァルバンスを守護する……帝都十二騎士が殺しをするのはマズいんだろ?」
「……何のことだ?」
「あの二人はプリメラ絵画が"あの飛空挺"に乗せられていた事を知っている。ここで殺せば騒ぎになる、騒ぎになればお前達を良く思わない多くの反対組織が動き出す。何かと理由を付けて守り続けたノイズ・プリメラの傑作"禁愛"の秘密が世間に晒されるかもしれない。ヴァルバンスはそれが恐いんだろ……違うか?」
刃がキリキリと甲高い音を立て交わる中、クロノアがラファエの顔を見て笑う。
「ふっふっふ、よく喋るな、焦ってるのか?」
「お前らヴァルバンスの、北の悪行を知りたいだけだ……」
交差する大剣"グラディウス"と短剣"ミセリコルデ"が僅かに擦れ火花が散った。
ラファエがクロノアの大剣グラディウスの力に耐えかね左膝を付く。
「そうか……どうせ、お前はここで死ぬ……冥途の土産に教えてろう」
片膝を着き見上げるラファエをクロノアが見下しながら、いまだ消える事の無い刃と刃から散り続けている火花。その火花散る空間へクロノアが顔を寄せると――刹那、ラファエが苦痛の表情を見せた。
「な、何だ……死ぬヤツにはお前ら北の悪行を教えてくれるのか?」
「……そうだな。もっといい事を教えてやるよ……」
「そ、そうか……楽しみだ……」
生死の境で見せたラファエの苦痛の表情は会話の最中平静に戻ると――死を覚悟。
涼しい顔で死を迎えようとするラファエにクロノアから皮肉の詰まった"冥途の土産"が渡された。
「ヴァルバンス王家は不滅……滅びることは無い……」
「北世界の人間はやっぱりゲスだな……土産を渡すならのし付けてきちんと渡せ……」
「贅沢な注文だ……北の名誉をゲス呼ばわりか?」
北と南が怨み辛みを刃に乗せて対峙していた短剣"ミセリコルデ"が"グラディウス"の大剣でガァチャン!! と鋭い音を立て砕かれた。
「終わりだ。南が……」
クロノアが大剣を両手で高く振り上げると、ラファエの脳天目掛けて大剣"グラディウス"を振り下ろした瞬間。
カレジとハレルヤを追っていた十一隊の隊長の一人"アリア・ネーテル"の声がロビーへと入って来た。
「――妖精?」
その言葉を最後に外から聞こえていた叫び声とどよめきが消えた。
脳天の寸でで止められたクロノアの大剣はラファエにトドメを刺さすことはかった。
クロノアが外に顔を向けると、ラファエは"近距離型鉄姫技法"の使用と、武器破壊によって魔力の低下し戦闘能力が著しく落ちたと、判断。
いつでも殺せるラファエを二の次にして、部下達の安否と状況の確認のため外へ向かい病院から一歩足を踏み出した。
「お前ら!! 一体何があった!!」
クロノアが叫んだ直後、一見し全てを把握――絶望する。
「……グ、グングニルの槍」
片膝を付きながら息を切らし困憊するラファエもクロノアの口から出た槍の名前で外の状況を理解。
クロノアは病院の自動ドア越しで両膝を着き完全に降伏した様子。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息を切らし多量の汗を掻くクロノアの眼前に長槍"グングニル"を持った女性が姿を見せる。
透き通るような白い肌と整った顔立ちは女神の如く美しく、腰元まで届く長い琥珀色の髪が風になびいて、恐怖心をかき立てるほど華麗。
その白い色の髪をした美女は崩れ落ちた総隊長クロノアの前まで悠然と歩き立ち止まる。
「……クロノアさん、その大剣を捨ててください……中に入りましょう……お話があります」
クロノアは声をあげることも出来ず、ただ白いの髪の美女に言われた通り大剣を地面に置き、何もかも諦めたようにロビーへ戻ってくる。
「カレジさん……ハレルヤさん……あなた方もどうか中へ……」
カレジとハレルヤも先ほどまでの喧嘩の威勢は完全に失せ、怯え震えて病院の中へ入る。
中へ入ったクロノア、カレジ、ハレルヤの三人はロビーに椅子があるにも関わらず座ることさえ出来ない。
その様子は鬼神に睨まれたカエルだ。そこにラファエも加えると、四人に向かって白い髪の美女が口を開いた。
「ここでは何かと不都合がありますので……部屋を用意しておきました……そちらへ参りましょう……」
白い髪の美女が病院の入口に向かって呼びかける。
「ラピオ、ロームいるんでしょう……この方達をアジトまでご案内して……」
冷たい風と共にラピオとロームがラファエたちのいる病院内へ。
いつもの図々しさを消し、丁寧な口調でロームが口を開く。
「こちらですぜ……」
「なるべく急いで欲しいんだなぁ~」
ロームとラピオが歩き出すと、目から光を失ったクロノアが続き、その後をハレルヤとカレジが続く、最後にラファエが歩き出す。
琥珀色の髪をした女性にラファエが一言だけ尋ねた。
「鬼女神さん……外にいた隊長十一人は?」
ラファエの問いに鬼女神が笑顔で優しく返答する。
「全員殺しましたよ……」
ご愛読ありがとうございました。




