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魔王転生  作者: 兎花
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~ブルーガーデンの青い小鳥4~


 冒険者二人はそれぞれアレットとカリアと名乗ると、ティナに対してとても友好的な態度で接してくれた。純粋に自分より年下の可愛い後輩を愛でる目だ。ちなみに白銀の鎧の方がアレットで、革鎧の方がカリアである。


 2階に上がると楽な服に着替えて厨房に向かう。先に料理に取りかかっていたアレットとカリアが、貯蔵庫の中を覗きながら何を作るか話し合っていた。


 その様子を見ながら手を洗う。


「あの、皮剥きしましょうか?」


 とりあえず無難なところから攻める。渡されたナイフで芋と人参の皮を手早く剥いていく。


「鶏肉は内臓取ってあるから、香草を詰めてオーブンで焼こうか。それとパンと野菜スープがあれば充分でしょ」


 そう言ってティナの横に鶏肉を持ってきたのはカリアだ。柔らかい薄茶の巻き毛は耳の下までの長さで、緑の目は好奇心でキラキラと輝いている。


「それなら私はパンを買ってこようか。カリアとティナで仕込みをお願いしてもいいかな?」

「ほいほい、任されましょう!」


 アレットは真っ直ぐ伸びた深い金の髪に青灰色の瞳をした美人だった。アレットと話していると、雰囲気がライルに似ていて既視感を覚えるのだ。


 二人とも今は鎧は身に着けてはいない。すらりとした高伸長のアレットは颯爽と厨房を出ていった。


「ティナ、手付きが慣れてるよね。料理出来るの?」

「……母が定食屋をしていたので、そのお手伝いを」

「おー! そうなんだぁ! じゃあさ、鶏の香草詰めを任せてもいい?」

「……味付けなら大丈夫です」

「うん? 味付けならって?」

「その、オーブンとか火種のあるところは相性が悪くて。母に近付かないように言われてるんです」

「へぇ、そんなことあるんだねぇ」


 見るとカリアの手付きも速い。慣れているのか鼻唄混じりで野菜を洗い刻んでいく。彼女はスープ担当だ。

 ティナは香草を刻んだ後、豆を剥いていく。数種類の豆を剥いて彩りをよくすると、香草と一緒に鶏肉の中に詰め込んだ。表面には塩を振りカリアにオーブンを頼むと、ソース作りに取りかかる。


「ん? なに作ってるの?」


 オーブンに火を入れて鶏肉を放り込んでから、カリアがティナの手元を覗き込んできた。


「えーと、ソース作りです。普通なら焼いてそのまま食べるんでしょうけど、我が家では焼き上がった後にソースをかけて崩して混ぜて食べるんです。美味しいですよ」

「へえ。美味しそうだねぇ」


 それきり何も言わずにカリアは動かない。じっと見られている気配にティナは居心地の悪さを感じていた。


(な、なんだろう……)


「……ねえ。ひとつ聞いてもいいかな」

「はい、どうぞ」

「ティナと『月の騎士』様はお付き合いしてるの?」


 少女は質問の意味を理解するのに数瞬を要した。まず、はっきりと言えるのはお付き合いは誰ともしていない。していないと言えるがおそらく個人を指したであろう『月の騎士』と言う単語が誰を指しているのか、すぐにはわからなかった。数瞬考えている間にカリアが諦めたように溜め息を吐いた。


「あー、やっぱりそうなんだぁ。なぁんだ、せっかく月の騎士様の噂を聞いて追ってきたのになぁ」


(月、騎士……。あ、そうか、ライルさんのことだ。へぇ、ライルさんの二つ名って、『月の騎士』なんだ)


 まんまだなぁ、と思いながら手を動かす。カリアのおしゃべりは続いたままだ。


「アレット凹むだろうなぁ。ずっとライル様に憧れてたんだもん。まさか好きな人がロリコン(少女趣味)とかって」


 隣で溜め息を吐かれ、ティナは少しだけ泡立つ心を抑えることが出来なかった。

 ライルと行動を共にしていると、ライルがロリコン扱いされることはよくある。確かにティナは成人していないし、冒険者は総じて子供を大切にする奴等だ。おそらく荒んだ生きるか死ぬかの世界で生きる彼等にとって、子供とは平和や未来の象徴なのだろう。その輝きを眩しく感じるからこそ守ろうとする。


(でも、ロリコンってほど幼くもないと思うんだけど……)


 チラリと自分の体を見下ろす。胸か、やっぱり胸なのだろうか。血の繋がりがないとネリアのように足の爪先が見えなくなる程のは育たないのだろうか。


 特に女性冒険者にロリコンと言われると、少なくない反発心が湧く。湧くけれど、文句が出ないのはみんな優しいからだ。


 カリアにばれないようにそっと溜め息を落とすと、その空気を変えるような大きな気配が厨房に入ってきた。


「おう、すまないな。話も済んだから代わろう。……てか、ほとんど終わってるじゃないか」


 ガムルの声にカリアが頬を膨らませた。


「遅いよ、おっさん。今オーブンで鶏を焼いてるから。ティナは終わった?」

「はい、後は火を通すだけです」


 皮を剥いたトマトを切って種の部分を取り除き、玉葱をみじん切りにしたまま置いてある。


「これはどうするんだ?」

「トマトソースを作ろうかと思って。鶏が焼き上がったあとに深めのお皿に入れてソースをかけて崩しながら食べるんです」

「ほぉ、なるほど。旨そうだな」


 作り方は簡単なのでガムルに任せて厨房を後にした。戻ってきたアレットとカリアと共に2階へ上がると、部屋の前でライルが待っていた。


 簡単に自己紹介をすると部屋割りの話をした。ライルいわく、アレットとカリアとティナの3人で奥の部屋を使い、一部屋空けてガムルとライルが使うそうだ。


 その話を聞きながらティナは、チラリとアレットとカリアを盗み見た。背の高いライルを見上げる形になる二人は、自分より小さいティナが見ていることに気付かない。


(あー、目がキラキラしてる。耳も赤いし。やっぱりライルさんのことが好きなんだね)


 どこに行っても腹が立つほどモテるライルは、それが日常のせいか非常に鈍感だ。

 

 アレットとカリアが部屋に入った後、ライルに促されてその場に残ると今後の予定を聞いた。


「ガムルと相談した結果、今夜もう一度集落の確認に行くことになった。モヌファは夜になれば必ず自分の寝床に戻るんだ。その時の状態を見て、今後どうするか決めるらしい」


 深夜にガムルと二人で森に入るという。ティナが寝ている間に森に行き、起きる前に戻ってくる算段だ。


 ティナはしばらく考えた後、何も言わずにコクリと頷いた。彼女も行ったところで足手まといだというのは理解している。


 明日の朝食後に王都へ戻ると聞き、ティナは宛がわれた部屋へ入っていった。




 翌日、朝ご飯を食べに食堂へ下りるといつもと変わらぬ様子のライルがいた。朝だというのに髪筋ひとつにも乱れがない。ティナはたった今まで前髪の寝癖と格闘しており、その痕跡が残っているというのに。


 アレットとカリアも先に下りており、ライルは両手に花状態で朝食を摂っていた。


 昨夜の晩御飯の時もティナはこの座りだったことを思い出す。昨夜よりも打ち解けた表情でライルを見る二人も、それでも頬は上気し耳は赤い。特にアレットの方が顕著で、この後少しでいいから剣の稽古をつけてほしい、とライルに頼み込んでいた。


 それに対してライルは苦笑を返すだけで色好い返事をすることはなかった。


「おはようございます、ライルさん。昨晩はお疲れさまです」


 ティナは報告を受けていないが、ライルはガムルと夜遅くに森に入っていたはずだ。もしかしたら朝は起きてこないのでは、と考えていたのにいつも通りの爽やかさに感心してしまう。


「おはよう、ティナ。よく眠れたかい?」

「はい、おかげさまで。朝ご飯貰ってきます」

「俺が行こう。ティナは座ってて」


 慣れた様子でティナを席に座らせて、ライルが厨房へ向かった。その背中を見送っていると、密やかな溜め息が右隣から聞こえた。


「はぁ、やっぱり格好いいなぁ……」


 頬杖をついてアレットがライルの背中を熱い眼差しで見ていた。カリアはその呟きに頷きながらも、アレット程は思い込んでいないのか、面白がるように相棒を見ていた。


「アレットは本当にライル様が好きだよねぇ」


 声量を抑えた発言にアレットの顔が赤く染まる。


「だって、格好いいじゃない」

「それは認めるけどぉ、やっぱり貴族様だもん、あたし達には高嶺の花だよ」


 そう言ったカリア自身が自分の言葉に酷く傷付いた顔になった。


 思わず興味を丸出しにしてカリアの表情に見入ったティナに気付き、カリアがばつの悪そうな顔で苦笑した。


「へへ、やっぱりね、憧れってあるよね」


 アレットもカリアも本気でティナとライルが恋仲にあるとは思っていないのだろう。そう思って馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばさないと、気持ちの整理が付かないところもあるのかもしれない。


 ティナにはよく分からない心の彩だ。元より無性であった魔王が人格のベースにあるため、その辺の恋愛感情や身分差を気にする乙女心などがいまいちわからない。


 ベルゼアとしての記憶がなかった頃は、もう少し少女らしい感覚を持っていたとティナは思っているが、実際のところはあまり変わってはいない。


 だから、思ったことをそのまま口にしてしまう。


「……王都には夕方までに着けばいいので、昼までライルさんをお貸ししましょうか?」


 顔を輝かせる2人を見ながら、さてなんと言ってライルを説得するか、考えるティナであった。



 結局、ティナは王都に戻る前に、弓の練習をして帰りたいとライルに申し出た。それに対して異議は唱えなかったライルも、続くティナの提案には不満を露にした。


「……ですから、ライルさんにはアレットさんとカリアさんの相手をお願いしたいんです」

「なぜ? ティナを一人で森へやれるわけがないだろう」

「私の身なら大丈夫です。それにこの弓矢の性能はあまり他人には知られたくないでしょう? 出来ればライルさんには森に入る可能性のあるアレットさん達を引き留めておいてほしいんです」


 渋い顔で考え込む過保護者はもう無視して、ティナは森の中に入って行く。


「あ、ティナ! あまり奥に入らないように!」


 ライルに持たされた笛を頭上で振ると森の中へと歩を進める。


 しばらく歩き、少しだけ開けた場所に出ると、ふぅと一息吐いた。


「……ここでいっか」


 そう呟くと左手のブレスレットを端から端まで撫でた。緑の魔石が僅かに光を発するとぐぐっと形を変え、弦の無い、小型の弓が左手に現れた。

 背負い袋から矢筒を取りだし矢をかける。無いはずの弦の感触にティナは少し首を傾げた。


(……やっぱり、魔力量が上がってる?)


 元々ティナの魔力量は人並み程度しかない。この弓は魔力を消費して矢を放つ。以前のティナでは1日でギリギリ2射程度しか射てなかっただろう。


 だが弓矢その物の性能の良さから多少無理を承知で持ち出した。なんせ、下手でも射てば魔力の修正で当たるようにしてあるし、なにより矢が刺さった数拍後に自動で戻ってくるのだ。


 費用に限りのある下位ランク冒険者としては大変にありがたい造りだ。


 ティナは的を定めるとそこに向かって放つ。そのまま立て続けに残りの4本を連射した。


 明らかにおかしい状態に少女はふと思い付く。


「……もしかして、魔力が共有されてる?」


 射ながら自分の中の魔力の動きを注意深く観察してみると、明らかにティナの中から魔力は僅かしか流出していなかったのだ。それなのに、弓には大量の魔力が流れていく。


 その大量の魔力がどこから流れて来ているのか追ってみると、弓を通してもうひとつの自分の気配に辿り着いたのだ。


「どういう仕組みなんだろ? 不思議なこともあるんだ」


 じっと弓を見詰める。

 確か書記者と名乗った彼の人は、魔族(ルディ)人間(ティナ)は別物だと言っていた。それなのに今は確かに魔族の力を感じるのだ。


(多分、この弓矢のせい、かな?)


 ベルゼアが造った武器は、当たり前だが造り手の魔力に一番よく馴染む。おそらく、武器自体がルディとティナを繋ぐ回路のような役割を果たしているのではないか、そうティナは考えた。


(後でライルさんに剣を借りて検証してみよう)


 残念なことに、今ティナが所持している短剣はベルゼアが製作したものだが、魔力を全く必要としないただの短剣だ。

 検証に適しているのはライルの持つ長剣(ジェラルディルダ)の方が相応しいだろう。


 そう決めると、しばらく短剣の練習をしてから村へと帰っていった。



ライルはまだまだモテる予定。

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