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魔王転生  作者: 兎花
23/26

~ブルーガーデンの青い小鳥3~


 ライルの足が止まった瞬間、2人を暴風が包んだ。冷たい風がティナの頬に当たると共に、ピシピシと小さな痛みを感じた。


「――アブレ=スファムだと?! どうしてこんなところに!」


 ライルの声をかき消すように獣の唸り声が場を支配する。


「――チッ」


 珍しい相棒の舌打ちにティナは顔を上げた。

 激しい風がライルの顔を叩いているが、ティナの顔には当たらないことに気付く。ふと見てみるとライルがティナを抱き上げたまま、己の外套の端を持って守ってくれている。


「なんであんな北の魔獣がここにいる?!」


 ライルが声を張り上げた先には先程の冒険者達がいた。一人は地に伏して動かない。大柄な男が魔獣を警戒し、大剣を持った男がライルに向かって怒鳴り付けた。


「こいつは北の内陸部から逃げてきたんだよ! 俺達はその尻拭い駆り出されたんだ、クソッ!」


 悪態をつきながらもその眼差しから闘志は失せていない。


「手伝おう!」

「頼む!」


 ライルはティナを安全な場所に下ろして参戦するつもりだった。なんとか人がひとり入れるほどの窪みを見付けて、そこにティナを下ろした。


「ここから動かないように」


 無言で頷いたティナを残し、ライルは男達と合流した。その姿を確認した後、少女は魔獣に視線を移す。


 狼の頭に熊の体。そして蝙蝠の羽を持った大型の飛行魔獣だ。その羽が羽ばたく度に冷気が暴風雪となり全てを凍り付かせ、その遠吠えは弱い魔獣を使役し呼び寄せる。


 ティナは窪みから戦いの場を覗きながら眉をしかめた。冒険者三人組は戦士が二人に魔術師の組み合わせだ。飛行型魔獣と対するには戦力不足感は否めない。しかも今魔術師は意識がないのか倒れてしまっている。


 人間は魔獣を侮りがちだが、長く生き残ったものや強いものは学習能力が高い。あのアブレ=スファムからはかなりの知性を感じていた。


(……ちょっと、人間側が不利かな)


 観察していると見えてくるのは手数の少なさだ。空を飛ぶ魔獣と戦うには落とすしかない。ライルなどは生来の身軽さから木から木へと渡りながら器用に戦っているが、やはり勝手が違うようで有効打を打てずにいる。


 せめてあの魔術師の意識があれば違っただろうに。


 ティナは左腕のブレスレットを見た。完全には繋がっていない切れ目のあるブレスレットで、その両端には緑の石が嵌め込んであった。


 その緑の石から反対の石まで、指先でブレスレットを撫でる。すると不思議なことにそのブレスレットがぐっと大きくなり、弓へと変化した。


 背負い袋の中から細い矢筒を取りだし、弓に矢をつがえた。弓には弦が張られていなかったが、矢をつがえたことで細い糸が張られた手応えがあった。


 キリキリと弦を引きながら魔力を込める。狙いを羽の付け根に絞って矢を放った。


 確かな手応えと魔獣の絶叫が重なった。その後に何かが落ちる重い音が響いた。


 ティナはホッと一息吐くと、その場にしゃがみこんだ。後は男達が何とかするだろう。


 弓から手を離した瞬間、弓は光を発してブレスレットへと戻り左手首に納まった。矢筒を覗き込めば5本の矢が確認できた。


 ベルゼアが造った弓矢は特別製だ。弓の弦は魔力で引き、放たれた矢は獲物に刺さった数瞬後に綺麗な状態で矢筒の中に戻るのだ。


 この性能を知ったライルの顔がひきつるほどには高性能である。


「止めはお前が刺せ、ゲイン! 行くぞ!」

「応!!」


 魔獣の翼が大地を叩きのたうち回る音に混じって、男達の掛け声が聞こえた。地響きが戦いの激しさを物語っている。


 それからしばらくして突然に静寂が訪れた。閉じていた目を開けてティナは現場を覗き見る。


 地に倒れた狼の頭が真っ先に見えた。その上に立ち大剣を魔獣の首筋に刺したゲインと言う名の冒険者と、血糊を拭き取るライルの姿が見えた。




「まあとりあえず礼だけは言ってやるよ。ありがとうな」


 ティナは不思議な生き物を見る目でゲインを観察した。なぜお礼を言う立場でここまで上から目線なのか。


 言われたライルはやれやれと首を横に振るだけで何も突っ込まない。


 ふん、と鼻息で牽制するとゲインはティナの方を向いた。視線があった瞬間、その透明で明るい水色の瞳に意外性を感じた。


(もしかして、けっこう若い……?)


 黒い髪は汚れてベタついて見えるし、髭も伸ばしていてお世辞にも綺麗とは言えない。見えている肌の部分も血と泥で汚れている中、瞳だけは男の本質を映すように澄んでいた。


「嬢ちゃんもありがとうな。お前さんの弓矢が羽を貫いたお陰で、俺達の剣も届いたんだ。助かったぜ」


 ティナには優しい口調で話しかけている。

 ティナがじっと見ていると男はニヤリと笑って頭へと手を伸ばしてきた。もう少しで艶やかな黒髪に手が触れようとした瞬間、ライルによってその手は払い除けられた。


「……何すんだ、てめぇ」

「そんな汚い手でティナに触らないでもらおうか」

「汚いだと?! ちゃんと服で拭いただろうが!」

「ふざけるな、そもそも服が汚れてるだろう。汚い手を汚れた服で拭いたところで綺麗になるか、阿呆が」


 なかなか辛辣なライルだが、端で見ているとわかってきたことがある。


「……なんだかんだで仲がいいんだね」


 ポツリとそう呟いた。


「ゲインは天の邪鬼だからな、素直に甘えられんのだ。特にライル殿の方が年下なのに実力が上だからな」


 ティナの呟きにそう答えたのは大男のガイだった。その背中に意識を取り戻した魔術師のリュートを背負っている。


「大丈夫ですか?」


 何となくリュートと目が合ったので様子を聞いてみる。年の頃は17,8歳くらいだろう。しばらくティナに見惚れた後、ガイに揺すられて慌てて返事をした。


「あ、ああああ、うん、大丈夫。あの、ありがとう。君のお陰で助かった? みたいだね」

「俺からも礼を言う。あの弓矢がなければいくらライル殿が居たとしても時間がかかっていただろう。ありがとう」


 ティナは素直なお礼の言葉に笑顔を溢した。彼女だって冒険者の端くれだ、認められるのは単純に嬉しい。


 それによってリュートがまたティナに見惚れることになるのだが、そんな事には少女は気付かない。


「お役に立てたのなら幸いです。それよりもこの魔獣の死体はどうしますか?」

「ゲインが解体をするだろう。しばらく待っているといい。あの二人も厭きれば仕事をするだろう」


 ガイの言葉通り、しばらくするとライルが戻ってきた。ゲインは忌々しそうに悪態を吐きながら解体に取りかかる。


「一旦戻ろう、ティナ」

「え、いいんですか?」

「ああ。恐らくさっきの魔獣にモヌファの群れが襲われたようだ。ガムルに報告に戻ろう」


 疲れのひとつも見せずにライルはティナを促した。それに対してティナは少し考えてから首を横に振った。


「ティナ?」

「モヌファの群れが襲われたって、どうしてわかるんですか?」

「この辺一帯が彼らの生息区域だったんだよ。常に30前後の頭数で樹上生活をしていたんだ。……しかし、困ったな。見るところ、どれだけ生き残ってるのかもわからない」


 やれやれ、とライルは溜め息を吐きながら髪をかきあげた。


「……そうですね、戻りましょう」


 必要ならばルディになって調べてもよかったが、進んで他人に見せたい秘密ではないので戻ることにした。どうするかはギルドが考えてくれるだろう。


「あ、待って! ティナ!」


 その場を立ち去ろうとするティナを引き留める声がした。振り返ると、リュートがガイの背中から下りて痛めた足を庇いながら歩いてくる。


「あのさ、改めて今日のお礼をしたいんだ。その、どこに行けば君と連絡がとれるかな?」


 顔を赤くしたその申し出に、ティナは困惑を表情に出したまま口を開いた。


「……一応、今は王都を拠点にしてるけど。小鹿亭って言う宿屋に滞在してます」

「じゃ、じゃあ、今度一緒にご飯でも……!」

「悪いが王都にはそんなに長居するつもりはないんだ。お前達は一旦北に戻るだろう? 残念だな、また縁があれば会えるだろう」


 さらりと2人の間に入り込むとライルは笑顔で牽制した。

 男二人、笑顔なのに見えない緊張感で目が笑っていない。

 相変わらず過保護なライルの態度に、ティナは笑うしか出来なかった。




 ライルに抱き上げられて少し走る。その震動に身を任せつつティナは思う。ライルが騎獣みたいだな、と。


 森の深部を抜ける頃に降ろしてもらい、そこからは徒歩で森を抜けた。


 空は茜色に染まっていた。


 出張所に帰るとガムルが女性二人と話している所に出会した。一目で冒険者とわかる出で立ちだ。一人は白銀の鎧に長剣を腰に差し、もう一人は小柄な体格で、装備は革鎧と短剣を二本腰に差していた。


 ティナとライルの姿にいち早く気付いたガムルが片手をあげた。そのまま手招きする。


「おう、ちょうどよかった。モヌファの方はどんな塩梅だ? 助っ人は居るか?」

「いや……、少し困ったことになった。話をしたいんだが、今大丈夫か?」

「ん? ……なんだ、面倒なことになったのか。話を聞くからとりあえず中に入れ」


 ライルが室内に向かう。ティナも後に続こうとするが、ライルに部屋で休むように言われた。


「いえ、私も一緒に報告しますよ」

「いや、報告だけだから俺だけでいい。部屋でゆっくりしてるんだ、いいね」


 ムッと眉を寄せるティナの頭を苦笑しながら撫でる。その手を払おうと頭の上で手をパタパタさせている少女と保護者を、ガムルだけでなく女冒険者二人組も唖然として見ていた。


「もし体力的に余裕があるならこの二人と晩飯の用意をしてくれねえか? 話が済めば手伝うからよ」


 気を取り直したガムルのその一言に、ティナの体がピシッと固まった。「あー、うー」と言葉にならない声を発しながら視線は空をさ迷う。


「……て、手伝うだけなら」


 なんとか絞り出した声は苦渋に満ちていた。



 

 

※笛や弓矢等、説明や描写が足りないとは思いますが、そんなものなんだ~と流していただけるとありがたいです。


あと、本文内で書いてはいませんが、魔獣を倒した報酬や素材などのやり取りはライルとゲインの間で話は済んでいます。念のため。


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