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魔王転生  作者: 兎花
10/26

~家族旅行・故郷へ~



(なんでこんなことになったんだろう………)


今まで13年間生きてきて、ここまで愕然としたことはなかった。

自分は何処で何を間違えたんだろう? 母の言う通りに全てを終えて、最後の仕上げに取りかかろうとした。とても順調に進んできたのに、ここに来てなぜ………。


なぜ、スイッチを押しただけでオーブンが爆発するのか。


幸いにもティナに怪我はなかったが、黒い煙を出し続けるオーブンは使い物にはならないだろう。


なぜ彼女が料理をすると想定外の事がよく起きるのか。

ただただ、涙を堪えるしかないティナだった。




「まあなんだ。こんな状況じゃ店も開けられない。せめてオーブンが直るまではお休みだな」


苦笑する母の顔を真っ直ぐ見ることが出来ない。

「ごめんなさい」を頑張って絞り出すが、喉が乾いて言葉が出にくい。


「ティナに怪我がなくて何よりさ。そうだな……、せっかくだからどっか行くか?」


驚いた顔でやっと目を合わせてくれた娘に、ニッコリと笑みを返す。


「もう30分もしたらノスも帰ってくる。そしたら外でお昼御飯を食べて、1週間くらい旅をしよう。実は行きたい所があるんだ」





店の呼び鈴が鳴る音にサザナは大声で返事を返す。


「はーい、ちょっと待ってねー! すぐ行きまーす!」


時刻は16時過ぎ。宿泊客の夕御飯の準備をしている時だった。

軽く手を洗い前掛けで水気を取ると、厨房を出て食堂を通り受付に向かう。

そこで待っていた客を見て、目を丸くした。


「久し振りだね、サザナ。部屋は空いてるかな? 4、5日ほど世話になりたいんだが」

「……………ネリア…あんた、あんた……」


あぐあぐと口を動かすも言葉が出てこないようだ。すると急に引き付けでも起こしたのか、大きく喘いでしゃがみこんだ。


「サ、サザナ、大丈夫か!?」

「だ、大丈夫、大丈夫だよ、ネリア。ああ、それより……」


肩を支えられながら立ち上がり、涙をポロポロこぼしながらネリアの頬を両手で挟んだ。その存在を確かめるようにしげしげと眺め、そして破顔した。


「本物だねぇ。ミレディに聞いてはいたけど、心配してたんだよ…。会いに来てくれて嬉しいよ」

「今まで不義理をしてすまない。積もる話は後にして、とりあえず部屋はあるか? 荷物を置きたいんだが」

「そうだね、後で一緒に夕食をとろうね。部屋は一人部屋でいいかい?」

「いや、家族部屋にしてほしい。子供が二人居るんだ」

「子供?!!」


すっとんきょうな声をあげるサザナは、今やっとネリア以外に意識が向いたのか、母の背後で大人しく控えていたノスとティナに顔を向けた。

双子は揃って会釈した。


「お世話になります。私はベルティナと言います。隣が双子の兄でゼアノスと言います。数日ですがよろしくお願いします」

「ゼアノスと言います。よろしくお願いします」


今の二人を見て、双子だと思う者は誰も居ないだろう。双子だと説明されても、信じる事はできない者がほとんどだ。

体格も顔も色彩も、似通っているところはひとつもないのだ。

正直、ネリア自身もこの家族の形に限界を感じていた。


唖然とするサザナの混乱が手に取る様にわかるため、ネリアは苦笑を洩らす。肩を竦めると、双子もまた苦笑いをする。



なんとか部屋まで案内してもらうと、ノスは背中に背負った3人分の荷物を下ろした。

その体格は同年代の同性と比べて遥かに大きい。日頃から鍛え上げている筋肉は細いが無駄はなく、背丈もティナより頭ひとつ分高い。

左腰に下げた長剣は騎士団の物で、普段彼が剣術を指南してもらっている騎士団長から賜ったものだ。

噂では、その実力と王子様も顔負けの美貌で、男女を問わずのファンクラブがあるらしい。

その内面をよく知るティナにすれば、世の中物好きが多いなぁ、と言うのが素直な感想だ。


「魔族の領地と言っても、人間側とたいして違いはないんだな」


宿の部屋は3階にあり、そこの窓から外を眺めると賑やかな街の様子が見てとれた。

人間に混じり、魔族も多く確認できる。獣人や角の生えた鬼の様な者、エルフやドワーフなんかも居るようだ。


「そうだね、みんなとても楽しそう」


同じように窓の外を眺めながら、満足そうに微笑むティナ。

そのティナの頭をポンポンと撫でながら、ネリアも窓際で外を見る。


「ああ、みんな活き活きしてるな。昔と何も変わらない……ここは、ずっと私達の理想だった。人も魔も差別なく共存する世界。ここが、私の育ったレーゼの街だよ」


荷ほどきを終えると三人は食堂へと降りた。母が厨房へ消えるのを見送って、二人は街へと繰り出した。


通りを挟んで五軒ほど行った所に雑貨屋があった。そこで部屋で食べるおやつと飲料水を買う。


「夕御飯まで時間があるから、少し散歩でもするか?」


ノスの提案にティナも頷く。

ここは街のメインストリートになるらしく、様々な店や露店が軒を並べている。見るだけでも楽しそうだ。


「俺武器屋と防具屋に行きたい。ティナは?」

「そうだね、アクセサリーのお店に行きたいな」

「よし、じゃあ店の場所を聞いてみるか」


幸いなことに、全てこのメインストリートにあることがわかった。まずアクセサリーの店に向かう。


二人とも、暇があれば店の手伝いをしているので、多少のお小遣いなら持っている。

その金額内でいろいろと物色してみるが、やはり子供のお小遣いではなかなか良いものは買えない。

あれがいい、これがいいと、二人で並んで商品を選ぶ様は、まだ若いカップルのようだ。なまじ似ていないだけに仲睦まじく、見る人の微笑みを誘う。


二人が宿に戻る頃には、街は茜色に染まっていた。

宿の扉を開けて中に入ると、食堂の方から賑やかなたくさんの人の声が聞こえてきた。二人には馴染みのある雰囲気。

そっと覗いてみる。


「いやぁ、それにしてもあのネリアがねぇ。母親とはねえ! 世の中長生きしてみるもんだな!」

「全くだよ! あれだけ魔王陛下一筋だった娘が。やっぱり父親はアルガン様なんだろ? あれだけ似てりゃ、誤魔化しようもないわね!」


どっと場に哄笑が満ちる。


「そんなに似てるのかよ!」

「瓜二つ! あたしゃアルガン様が小さくなったのかと思ったよ」


宿屋の女将がバカ笑いしながらネリアの肩を叩いた。


「相変わらず馬鹿力だな、サザナは。酒が零れるだろ」

「そんなコップでちびちびやるからだよ。瓶ごといきな、瓶ごと!」

「あのな、こう見えても私は子持ちなんだ。あんたらに付き合ってらっぱ飲みなんか出来るか」


「ただいま戻りましたー」


なるべく自然に声をかける。ティナの声に合わせて、ノスもわざとらしく笑顔で声をかけた。


「母さんただいま。なんか楽しそうだね、皆さん知り合いですか?」


ノスが顔を出した途端ーーー。

場にどよめきが広がった後、酔っ払い連中の手が少年を羽交い締めにした。あまりのことに、呆然とするノス。母はのんびりの様子見だ。


「ッカー! 間違いねぇ、まんまアルガン様じゃねえか! こんちきしょう、可愛いなぁ」

「ホントに! 確かに瓜二つだね。こんだけ似てるってことは、やっぱり能力もアルガン様譲りなの?」

「そりゃそうだろ? 今の魔族で一番の強さを誇る方の子だ。将来有望だな?」

「それでそっちの子が妹なの? ……全然似てないわね…。もしかして養子か何か?」


ネリアとほぼ同い年であろう女性が口にした言葉に、顔色を変えたのはノスだけだった。

この街では血の繋がらない親子は珍しくない。元々が捨て子が集まって出来たのがこの街だ。さらに言うなら、未だに口減らしで捨てていく人間の親も居るのだ。


「まあそうだね、私の娘だが血の繋がりはないな」


怒鳴ろうとしたまま、ノスが固まった。ティナはのほほーんと傍観中だ。

ネリアは問題発言した自覚もないのか、にやにやと笑ってノスを見ている。


「母さん! 何を言ってるんだよ! ティナは俺の妹だ!!」


あまりの剣幕に、辺りが一瞬静まり返る。凄まじい圧力が食堂に集まった人間達の心に恐怖を植え付ける。

蒼い炎が、少年の身を燃やしていた。

だがさすがは母親だ。我が子の怒りに震えるどころか、さらに笑みを深くして言葉を紡ぐ。


「へぇ? お前はそれでいいのか?」

「な、何がだよ!」

「ティナが妹で、本当にお前はいいのか?」


その意味を理解した時。ノスは訳のわからない感情に顔を真っ赤にしたあと、たまらずに食堂を飛び出した。


「クソババァのバカヤロー!!」


言い逃げして部屋へと去っていった。唖然としてみんなが見送るなか、ティナは母に向き直ると呆れた目を向けた。


「………母さん」

「…まぁなんだ。とうとうクソババァいただいたな。これも我が子の成長と思えば寂しいもんだ」

「寂しい人間はそんなににやにやしません」


慌てて片手で口元を隠す母。ため息をつきながら、ティナはノスの消えた階段を見て呟く。


「ほんとに、全然成長してないよね」

「…それは奴には言ってくれるなよ、ティナ」

「言うわけないじゃん」

「その、ティナ……」

「ん?」

「さっきの言葉なんだがな、その……」


うって変わって言いにくそうに言葉を選ぶ母に、少女はふんわりと微笑んだ。


「わかってるよ」

「……ティナ、まさか……」

「もう、わかってるから、大丈夫」


そのゆったりとした笑みに見に覚えがあった。かつての養父の姿がそこに重なる。


「記憶が戻ってるのか……」


今度はネリアが混乱する番だった。我が子で遊んだつけがすぐにまわってきたようだ。

そんな母の姿にふふふ、と笑うと、ティナはふと真顔に戻ると母を呼んだ。


「母さん」

「………」

「大好きだよ」


それだけを言うとティナも三階へと上がっていった。

後に残されたのは号泣するネリアと、そのネリアを訳がわからないまま慰める、かつての友人達の姿だった。















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