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ー立食パーティー・お見合い3-

 その場には愕然とした人間がほとんどだった。

 忌が呪紋家(じゅもんけ)の当主になってから、4年経つ。だが、パーティー参加者である『五使贄族(ごしにえぞく)』は誰一人と知らなかったのである。

 ほとんどの人間は忌のことをどこか気味悪く感じ、近付こうとしなかった。だから、知らない。

 彼女の呪紋家・当主としての実力。彼女の能力。

 知ったものは脳裏にあることを思い浮べる。


__知らなければよかった


 パーティー参加者はこれが夢なのではないか、本当は自分はまだベッドの中で寝ているのではないか?と現実から逃れようとする者もいた。

 しかし、自分が聞いた声が違うと告げている。

 あの耳にまとわり付くように聞こえる、男とも女ともとれる叫び。その声に激しく不快感を覚える。

 周りにはパーティーで食べていた食事が散らかっていた。

 15分ほど前の話である。この出来事の発端は…



 空はまだ、ほんのりと明るく。時刻は夕方の5時あたりだろう。立食パーティーはもう始まっていた。

 真と夕陽が食事を取り合ったり、奥のほうではワインを飲みながら奥さん会議をしている実花、葵、美雪がいる。

 にこやかな風景なのだが、騒がしいような気がしなくもない。

 庭の端でサラダをもぐもぐと食べている忌ははやく終わりたいな、と考えていた。

「忌ちゃん?なんでこんなところで食べているんだい?」

 そんな彼女に目をつけて声をかけたのが、昴だった。

「別に、はやく終わればいいなってさ、ねぇ~、ファントム?」

『終わらせたいのは、山々だが。肉を食え、忌。さっきからサラダしか食べてないぞ』

「ファントム、肉はヤダ~」

 抱きしめているファントムから肉を食べろと注意がいくも、あまり肉が好きではない忌にとってはその注意を無視せざるおえない。

「その、ぬいぐるみ?男の子なの?」

 横でファントムの声は聞いてないが、忌の声を聞いていた昴が思い出したようにたずねる。

 忌は少し考える。ココで言ってもいいのだろうか?

 昴はあまり好感持てる相手ではない、ということを忌は知っている。

 忌のことを嫌いというわけではないが、好きということでもない。

 そのことは忌も知っていることであり、だからこそ安心が出来ないのだ。悩みふけていると、ファントムが周りには聞こえないのに配慮して小さな声で言う。

『別に言っても構わない。』

 忌はうなづくと、昴に向かって言った。

「確かにファントムは男ですが、それが何か?」

 少しにやっと笑った表情が忌の瞳に印象強く写った。


 その瞬間、忌の抱きしめていたファントムの感触がなくなる。ファントムが取られたのだ。

 犯人はすぐわかった。

 昴の手には確かにファントムがいた、忌は体から何かが湧き上がる、それは「怒り」、ファントムを取られたことによって自分は怒っている、そう考えた。それは自然のことである。

 取った当本人は少しにやけていた、これからどんな反応をするのかが楽しみなのだろう。

 自分を追いかけてくるのだろうか?それとも、殴って取り返すのだろうか?と考えを巡らせる。

 しかし、その考えはすぐに捨てる。

 忌は左の腕をあげる。腕には蛇のようなあざが渦巻いている。そのことは昴も知っていたが…


 腕でその蛇が動いたのだ。ぐにゃりぐにゃり、と効果音がつきそうなほどの動きを忌の腕の中で。


 思わず、昴は動きを止めた。

 昴の握っていたファントムは『やめろ!』と忌を諭すがその声は誰にも聞かれることがなく、虚空にむなしく消える。


 やがて、ぐにゃりと動いた蛇が手の平に到達した、何をやるかと思えば、手のひらの真ん中が不自然に開く。


 開いたのは口だった。歯が(さめ)の鋭く、グロデスクなものだった。そこから黒い蛇が出てきた。先ほどまで忌の腕で渦巻いていた蛇が今、現実の世界にいるのだ。

 もちろん、左腕には蛇のあざは消えていた。最初からあざがなかったようなそんな気すらもしてくる。

 昴は現実を見ている気がしなかった。今まで不気味じみていた少女が急にまともな気がする。

 蛇はこちらに向かってくる。体をくねらせながらも昴に向かって進んでいるのだ。

 昴はこれが何をしてくるのかは分からないが、危ないと本能的に判断した。


 忌は無表情で昴を睨みつけるがどういうことか、ニヤリと微笑んで言った。

「ああ、血が飛ぶからちゃんとしないとね」

 昴の喉が「ひっ」となる、自業自得といえばそれで終わるがまさかこんなことで殺されるとは考えていなかった。


 昴の周りが黒く塗りつぶされる。

 昴と忌だけがその空間でくっきりと浮かぶ。だが、それは2人だけではなかった。

 後ろから、パーティーで食事していたはずのメンバーの声が聞こえる。それは明らかに焦って居る。

 焦っていたのはそれだけではなかった、忌も焦っていた。

 この黒い空間は、黒い蛇を見ている人物だけしか入れず、後ろの人物たちは見ていたということになる。

 庭は広い、端で食事をしていた自分は見えていたとしても、黒い蛇を忌のあざとして認知するのはほぼ不可能なはずだ。


 ここで少し時間を戻そう。

 昴と忌が会話していた頃、昴の動きを気にしていた人物がいる。


「兄貴、何を気にしてるの?」

「あ、うん。昴の動きが少し気になっていましてね」

 その人物は桔梗だった。

 桔梗は嫌な予感がして、昴をずっと見ていたのだ。それに気付いたのが、弟の桜である。

 兄が気にしているから、自分も気にしようと見ていた。

 兄弟揃って、人間離れした視力を持っているため、二人の様子を観察するのはとてもたやすいことだった。


 昴が熊のぬいぐるみを取ったのを2人は見た。

 その瞬間、記憶が2人の記憶が駆け巡る。以前も同じようなことがあった。

 あれは3年前だった、桔梗が15歳、桜が12歳のときだったと思われる。いつも遊んでいた犬が忌のぬいぐるみを取ってしまったのだ。

 その犬はすぐに忌の手によって殺された、そのときの記憶は2人ともあまりなく、ただ、気が付いたら、目の前に血だらけで倒れていた犬とそれを冷たく見下ろしている忌がいた。忌の手には犬が取ったはずのぬいぐるみがあった。


 もし、それが再来するならば…


 桜と桔梗が顔を見合わせる。

 これが再来するならば…、昴は死んでしまうのではないか。


もう少し進めたかったのに、目が不調に…

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