ー立食パーティー・お見合い2-
呪紋家の館は三階まである。
一階はキッチン、食堂、応接室が少々、そして呪紋 忌の父親である、呪紋 狂の部屋、母親の呪紋 若もとい、旧姓、贄 若の部屋がある。
忌の命令により、忌以外はその部屋に入ることを固く禁じられている。
なので、二人が亡くなった時よりその部屋の時間は止まっている。
一階には忌の両親の部屋があるが、二階には忌の部屋がある、その部屋の隣にはたくさんの服を収納できる衣装部屋がある。あとは大浴場と今は使われていない部屋、ほとんど物置部屋状態の部屋が一室。
三階にはお客様用の寝室がほとんどだが、三階の奥に二部屋ほどあり、左の部屋は呪紋家当主しか入ることが許されない部屋と、もう一つは遊び場である。
その遊び場というのも、お客様を退屈させないようにビリヤード、卓球、ダーツなど暇つぶしにはちょうどいい部屋である。
忌がガラス戸の前でファントムと会話していたころ、その部屋では立食パーティー参加者10人が集まっていた。
「にしても、相変わらずこの屋敷は不気味だよな~」
「兄さん、それを口にするのは固く禁じられていますよ、まあ、わからなくはないですけれど」
ビリヤードをしながら会話をする兄と妹。
彼らの名前は贄 真と贄 花という、実花の子供であり、忌のいとこである。
真の印象は染めた金髪が肩につくくらいの男子にしては長い髪に健康的な肌。がたいも良く、少し目が赤っぽくつりあがっており、鋭さを感じさせるが軽い感じのイケメンだ。軽い女は引っかかりそうだが、自分のことを大切とする女には嫌われそうな性格と容姿だ。
花は黒髪が兄と大層変わらない長さで肌は白く、真みたいに目は赤くもなく、目尻がつりあがっているが二重のこともあり、印象が丸い。かわいいというより、真面目な美人、委員長タイプだ。
真は忌の許婚候補で、花は次期当主、なのだが、二人とも忌のことが嫌いであることは周囲でも承知済みだ。
「忌は何を考えてるかわかんないし、この館は不気味だし、気持ち悪いのオンパレードだぜ…」
染めた金髪の頭をかきむしりながらため息をつく。
「そうですね、彼女は喋るはずもないぬいぐるみとずっと会話している、不気味できっと、どこかのねじが外れているに違いないですね」
淡々とした口調で毒舌を吐く。彼からの忌の印象は「頭のおかしい女」とういう認識らしい。
というか、大抵の人間は忌のことをそう思っている。使用人の間でも「両親を失ったショックで幻聴が聞こえる」だとか、「前から精神に異常がある」だとか、「そういうお年頃」という意見もある。
忌がパーティーを出たくない理由もうなづけなくはない。いやいやと自分と会話している人たちを見なくて済むから。
「彼女はそんなに不気味な方ではありませんよ。僕が保障しますよ。」
「そうだよ~、僕がこの館で倒れたときとか看病してくれる優しい人だよ~」
忌の悪口を言う贄兄妹に対して、異議を申し立てるのがニ使塚 桔梗と三贄 翔である。
誰にでも優しく接する黒髪のショートでチャームポイントは目元にあるほくろであり、目がかすかに緑青に見える美青年が桔梗。
ニコニコして、何かと気弱そうな天然パーマの金髪、目が夏の空のような色で、忌ほどではないが小柄な少年が翔である。
二人とも忌の許婚候補で、数少ない忌のことをよく思っているひとたちである。
「はぁ?なに言ってんだ、桔梗と翔。お前らにはぬいぐるみと会話しているあいつの姿が見えねえのかよ。」
馬鹿にしたように真がいい、その言葉を隣でうなづいている花。
「ん~、俺は彼女のことを不気味とはおもわないけどねぇ~」
また一人、真の言葉に反論する。
五香贄 昴。がたいも真と変わらないくらいで、真とは違う系統の金髪で目が少し赤く見える。軽い感じの印象を受ける真とは違って、スポーツ青年だ。
彼は決して、忌のことが好きとかは思っていない。
ただ、おもしろい。それだけの理由だ、忌のことを恐れもせず、ただおもしろい。彼の腹は決して白くはない、逆に真っ黒であろう。
「僕は昴くんとは違って、本当に忌ちゃんはいい子だと思いますよ。」
昴のことを苦笑しつつ桔梗は言う。彼の目はかわいい妹を思い浮かべているような目だった。
「兄貴、キモイ。あれのどこがそんなにいいんだか。」
ビリヤードの球を打った桔梗の弟、ニ使塚 桜が哀れみの視線を桔梗に向けつつ言う。
彼は真たちと同じで忌のことが嫌いな人たちの仲間である。
茶髪で目が黒い、ほくろがないこと以外は桔梗とほとんど顔は似ているのにここまで性格が違うと兄妹?と疑いたくなる程度だ。
「こら、桜。お嬢様…。忌ちゃんの悪口を言ってはいけませんよ。あなたはお父様の跡を受け継いで当主になる身なのですから。」
先ほど、実花と忌が応接室で対談していたときに紅茶を運んできた使用人は、桔梗と桜の母親である。名前をもう一度いうと、ニ使塚 葵である。
「お前たちって、会うたびに雰囲気悪くなるよな…」
みんなの様子を呆れつつ見ている平凡くん。彼は四使 夕陽。ニ使塚家の分家にあたる四使家の許婚候補である。
「貴方にはこの雰囲気など関係ないのです。貴方は好きな人と結婚して、自立するのですから。次期当主は養子でも構わないでしょう。」
「いや、母さん。忌が俺を許婚として選ぶ可能性もあるんだから、まだ早いよ…」
「これが親ばかというのかしらねぇ」
自分の息子を忌の許婚にさせまいと憤慨している夕陽の母親の四使 美雪を呆れながら注意する息子と、逆に感心している実花がいた。
「そういえば、忌って確か『ファントムと結婚するから許婚いらない!』って言ってなかったか?」
真がふい思い出したようにあごを親指と人差し指ではさんでつぶやく。
その言葉にみんなが『そういえば言ってたような…』と記憶をめぐらせていた。
「ということは~、ファントムは男って事になるね~。まさか、女なわけではなさそうだしね~」
ニコニコしながら翔がのんびりとした口調で言う。
「あの子の中でファントムは男、ねぇ。」
何かを考えながら昴はいう。みんなは経験からか、こういう態度を昴がとると、まともなことを考えてないことがわかる。
そのことを考慮してか、桜と桔梗が兄弟が諭すように言った。
「なんかあんま悪いこと考えないでください。」と桜。
「そうですね、忌ちゃんに何か悪いことをするとそのまま悪いことが自分に跳ね返ってきますし」と桔梗。
その言葉を聴いて、「ああ、うん」と適当に相槌を昴はうつ。
ここでちゃんと注意をしておけば、立食パーティー中にあんなことにはならなかっただろう。
だが、そのことは誰一人として知らない。もちろん、忌自身も…。