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ーお茶会の準備・ダンスの誘いー

 不気味な雰囲気がその屋敷には漂っていた。森の中にひっそりと佇む館は近所では有名な『幽霊屋敷』である。

 近所の噂では「魔女が住んでいる」や「死神が住んでいる」と、化け物の類が住んでいるというオカルトなものだった。

 森と噂で孤立された館には住んでいる人間などいないと思っている者がほとんどであったが、それは違った。

 所詮、それは人間の想像や空想で作った虚像であり、誰かが実像として確認したものではない。

 『幽霊屋敷』と称された、不気味な不気味な館にはちゃんと人が住んでいるのであった。


 住人の名前は呪紋(じゅもん) (いみ)。長い漆黒の髪をお尻まで伸ばし、外には出たことないような真っ白な肌理の細かい肌。顔に二つほどついているガラス玉は片方ずつ色合いが違い、一つは桔梗色で桔梗の花を思い出させる古風の紫色。もう一つは色が薄く明るい灰色にかすかに赤味を感じさせる色合いの灰桜色である。

 少女の小柄な体は黒を主体としたゴシックロリータで包まれている。彼女は最初から隠す気もないのだろう。左手の肘から手首に隠しきれない黒い蛇のあざが渦巻いている。

 黒い蛇の渦巻いた左手で大切そうに抱きしめるのは黄土色のテディベア。

 忌はそのテディベアにしきり話しかける。会話でもしているように。

「ねえ~、ファントム、今日はお仕事もないから実花おばさんの相手をしなきゃいけないの…。」

 ファントムという名のテディベアからの返事を待つように一度話を止めると、また話をするために三日月形の口を動かす。まるで返事がきたかのように。

「うん、気をつける。ファントムは、いつも言ってるもん、『実花おばさんには気をつけるように』って、もう耳タコだよぉ~」

 また話をとめる、そして同じように返事がきたかのように話を始める。

「ファントムは用心深いなぁ~、私が三贄家が念には念を入れて作った脅威的な毒でも死なないことくらい分かってるでしょぉ~?信用できない?」

 また話が止まり、そして始まる。

「知ってるならいいじゃーん、大体実花おばさんのやり口は簡単だもの。ふふ、この私を殺そうなんてあのおばさんには早いよ…」

 ゴシックロリータを見せやすいように天井付きベッドの上にファントムを置くと忌は真っ黒なプラスチックの目に自分の姿を見せる。

 そこで一回、くるっと回ると漆黒の髪が忌の体から少し遅れてついてくる、その様子がとても可憐で黒薔薇の花びらが舞い散っているかのような錯覚を覚えるくらいだ。

 首をかしげて少女は笑ってぬいぐるみに問いかける。

「どう?今日新調したゴスロリなんだけど?似合う…?」

 ぬいぐるみから褒め言葉をもらったようで忌の笑顔はさらに明るくなる。

「似合ってる?よかった~。一緒に踊りたいって?じゃあ、踊ろうよ!」

 忌は無邪気にぬいぐるみに問いかけるが、今度の返事は嫌なものだったようでがっくりと肩を落として唸り声をあげてファントムに抱きつく。

「やだやだぁ~、ファントムと踊りたい!実花おばさんの相手するくらいならファントムと踊ったほうがいい!」

「え?実花おばさんの相手が終わったら踊ってくれって?…あー、その後は確か五使贄族の許婚候補と立食パーティー…」

 ベッドに顔をうずめて、何回も「いやだないやだな」とつぶやいている忌のことも知らずに、コンコン…とドアをノックした音が部屋に響く。

「お嬢様、実花様がお見えになりました。」

 使用人の声が響く。この声は忌にとっては地獄の合図である。しかし、何を隠そうと森と噂で隠された不吉な館にきたお客様であることは否定できない。

「わかったー、今、行く」

 忌はベッドから顔をしぶしぶとあげる、そしてファントムをベッドから拾い上げて抱きしめ、少しベッドから離れたドアを開く。

 忌は仕方ない、とため息をつく。彼女は世界で数人しかいない『呪いの執行人』なのだから。

 


 

 


 

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