第五話 「てんぷれはうるさい」
最近屋台の食べ物がおいしく感じるようになりました。
不添加物になれてきたせいでしょうか?
詰め所を出てからは順調だった。
ギルドの場所をNPCに聞いて、さくさくと移動する。
なんか道を聞いたNPCがどもっていたけど理解できたので問題ない。
早くギルド登録して新しい冒険の扉を開くのだ。
前回の隠れ住む生活におさらばして街一番の冒険者と名乗りを上げるのだ。
前回は【ゴッド】系の体でロストすることは出来なかったけど、今は【エンシェントヒューマン】の体を利用しているからロストの被害は少ない。
多少無理が通る体で新大陸探索も面白い。きっと有意義な時間になるだろう。
そんな考え事をしながらギルドに向かって歩いていると人の視線が突き刺さる。皆が唖然とした表情でこっちを見ていた。
NPCだとしても本物そっくりだから意外と怖い。内心怯えまくりである。
視線を受けながらギルドに到着する。二階建てのこげ茶色の建物だった。伝統を感じさせる、いやただ汚いだけか。
ギルド前は広場になっており、屋台が出ているために妙に旨そうなにおいが漂ってきた。
お腹がキューと鳴る。そんなに催促しても買い食いなんて行儀の悪いことしないんだからね。絶対にだ。
じゅうじゅうと炭火(?)で焼かれる肉の串、滴り落ちる脂のいいにおい。
「一本下さい」
タレの匂いには勝てなかったよ。銅貨を一枚渡して串を手に入れる。
なんの肉かと聞いたら一角ウサギの肉らしい、あんなかわいい動物を食べるなんて!なんと野蛮な!
前言撤回、意外と旨いな。淡白な中にも肉のうまみが凝縮している、肉汁がたれるたれる。
口からこぼれた肉汁をぬぐっていると親父の目が怪しくなってきた。何故だ。
傍から見たら白い肉汁を口から出している俺は扇情的に映っていたらしい。
そんなことを露とも思わず肉をかみながらギルドの前をのんびり見ていると、ギルドから冒険者らしき者たちが出たり入ったりしていた。
ほとんど皆、皮の鎧に鉄の剣といったファンタジーファッション、おっ全身甲冑の厳ついアンちゃんがいる。戦えんのかな、視界が悪そうだ。
中には魔法少女らしき派手な魔法使いもいたがアレはプレイヤーだろうか。
プレイヤーとNPCの判断がつかないのがSSOの特徴である。長年付き添った相棒がNPCだと知ったときのショックはでかいらしい。
まぁ俺はボッチプレイヤーで引きこもりだったから関係ないけどさ。
その代わりNPCとはたいてい友達だぜ!、言っていてむなしくなった。
食べ終わり、串を店に返してギルドに入ることにする。
周りの視線を受けながらギルドをくぐる、扉は常時開けっ放しらしい、なんせ扉自体が無かったからな!、雨の日とかどうすんだろ……。
しかしあれだな俺の格好は凄く浮くな。今も周りの視線が俺を射抜いている。
振り返って考えよう、今の自分の姿を想像した。
流れるような銀の長髪、真珠のように決め細やかな白い肌、瞳は青く輝き、年のころは17歳、だが柔らかな笑みのせいでもっと歳が上のように感じるだろう。
スリットの入った上質なローブを着ており、ときおり視線がスリットに集中しているのを感じる。
中身は短パンだから白い足が丸見えになることもあるから要注意だ。
胸は大きく、ローブを盛り上げている。こちらは視線が若干低い、どうやら貧乳が好みの大陸らしい。
ちょっとまて思考を戻せ。よく考えて見るんだ。
さらわれて高値で売られそうだな、奴隷制度もあるし。
一人で街を歩くと確実にさらわれるんじゃないか?汚いヤクザどもに売られて太ったデブの愛妾……、ぶるりと体が震えた。
これは早く強くなってそんなことをさせない様にしないと。
"山猫"になるにしても、そう頻繁に憑依体に降りるわけには行かない。
【神卸し】というスキルでリリーシャの体を強化することが出来る反面、使用回数に制限があるのだ。
強力なスキルとはいえそう簡単には使えない。
しかしあれだな。
「キャラ設定間違えた」
かすかにそんな声を口に出してしまう。
なんせ別大陸だと思ってはいても、未開の中世真っ只中の原始大陸に飛ばされるとは思わなかったからである。
【超高位魔法】が使えるなら相当発展した場所だろうと思っていた俺が馬鹿だった。
ここは完全未開拓の大陸だ、奴隷がそのいい証拠だ。
そんな奴隷が生まれるほど豊かでないなら必然的に服に金を掛けるやつなんて居ない。
掛けている奴は貴族かそれ以上だけだろう。
そもそも容姿もまずい、プレイヤーなら自分のキャラクターは美男美女で作るから気にしてなかったが、よくよく考えたらNPCにとって明らかに美が集約した姿になる。
注目されるに決まっている。というか気合入れて作っちゃったよ、プレイヤーでもここまで整ったキャラクターはいないんじゃないか?と思う。
「女神だ……」
誰だ!俺を女神と呼ぶのは!やめろ!そんな恍惚として表情で俺を見るな!身の危険を感じる!
とりあえずギルドの窓口に向かう。何人受け付け嬢が居るが誰もが俺を見て固まっている。中には泣きそうな目で俺を見る方も。
「えぐっ――完璧に負けてるよ――」
その声をした方をむくと、眼に一杯の涙をためた美人さん受付嬢が居た。
なにこれ、俺って存在しているだけで泣かれるの?そんなに落ち込まないでいいですよ、貴方もかなりの美人ですよ、と言いたい。
NPCだといってもこのゲーム、人間の脳をトレースしてるからな、性格とか感情とかがほぼ人間と同じなんだよ。やりにくい。
人がまったく居ない受付嬢の前に行くと、ギギギと音を立ててこちらの顔から眼をそらした。
おい仕事をしろ。
「ぼる……冒険者ギルドへようこそ!ご依頼ですね!ご用件を承りまじゅ!」
最初と最後でかんだな、まあ言いたいことは伝わったから俺はいいんだが、顔を背けられるのは少し傷つく。
ただ顔を見て喋れとは言いがたい雰囲気だな、既に顔が真っ赤だし、震えているのか泣きそうな表情だ。
というか今にも逃げ出したいという感じがバシバシ伝わる。
ちなみに依頼じゃないんだが、俺の格好はお世辞にも冒険者とは言えないからな。
そんな勘違いをしてしまうのも無理はないだろう。
「あの冒険者になりたいのですが登録はここで受け付けてもらえるのでしょうか?」
俺がそう言うと受付嬢は唖然とした表情でようやくこっちを見た。
ダークブラウンの髪を方まで伸ばし、淡い栗色の瞳がめい一杯開かれる、小さな唇は限界まで開けられ。かわい――
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
いや、煩い受付嬢だな、が俺の印象だった。
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作者が感謝して踊りだします。