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閑話 王国偏 1

王国反撃を受ける。

「これだ!このときだ!帝国め!受け取るが良い!」


叫び声をあげて魔法が発動され、超高位魔法(オーバーマジック)【エンドオブファンタズム】が瞬時に地平線に飛び出す。

重い荷物が石畳の上に投げ出される音と何人かが倒れる音、苦痛にのた打ち回るくぐもった声と叫びが木霊する。

自分の体にも幾重にも反動である痛みが走っているが、帝国の崩壊を確信した今その痛みも快感となっていた。

すでに後ろを振り向けば数名の魔法使いが完全に事切れており、生き残りも無傷の者がいない。


べっとりとした赤い塗料を踏みつけながらアセムは一歩一歩確かめるように歩きながら周りを見回した。


(代償はここにいる奴らだけではない……)


神殿がここ百年、秘密裏に捧げてきた供物の姿を連想して嫌な気分になる。もっと他には無かったのか、誰も止められなかったのかと。

『自分のことを棚にあげて何を』という不快な気分が痛みと共に襲ってきた為、回復魔法を唱えようとすると、部下の一人が叫んだ。


「大司教様!進路が変わっております!」

「なんだと!?」


由々しき事態だが呪文を唱える。痛みと疲労にさいなまれる体を震わせながら、未来視すら可能な王国の至宝【カロティアセールミラー】を覗き込む。

【エンドオブファンタズム】は森に突っ込みながら目標に到達しようとしている為か、風景が全く変わらなかったが。表示を斜め後方に設定し表示速度を五分の一まで落とす。

そこには五つの黒い光となって突き進む【エンドオブファンタズム】が軌道を変え地面すれすれに飛びながらある子供を目指しているのが分かった。

なんだあれは、と目を凝らしてみると、そこには少女がいた。透き通るような白い肌に、丁寧に整えられた足首まで届く白髪、服は見たことも無いような異国の服。

はっきりと遠くからでも分かる。誰もが息を呑む美しさだ。同時に「なんで軌道が変わる」の答えが出た。このままでは直撃することを知り声を荒げた。


「クソ!この子供は超高位神格能力保持者(スペリオル)か!【エンドオブファンタズム】のカルマ・善の優先破壊に引っ張られるほどの!」

「ですが、それでしたら帝国に到着するのは間違いありません!子供を突破し本来の進路に戻るはずです!」

「帝国と無関係の者が死ぬのだぞ、気にも留めんのか!?ましてや百年に一人の割合でしか生まれぬ希少種を殺すのだぞ!」


帝国の崩壊と子供一人では帝国の崩壊が優されるのは当然だ、だがこの少女の種族はきっと【ゴッド】系の筈だ。この種族はほとんど生まれない。百年に一度のチャンスだ。

勿体無いと思うと同時に、次の疑問が浮上する【ゴッド】系の何の種族か?という疑問だ。普通の【ゴッド】系ならカルマ・善は300ほど。

だが【エンドオブファンタズム】が進路を変えてまで食らおうとした存在をどう評価すればいいのか?

もはや止めることも出来ない魔法に焦燥感を覚えながらも「まさか…」という疑問が頭にひらめき歯を鳴らしながら鏡を見続けた。


直後、殺到する黒い光は、五個全てが子供に直撃した。高位魔法を越える超高位魔法の直撃を五発もうけては唯の【ゴッド系】でも、もはや魂すら残らない、はず…。


「……!?」


激突の寸前に爆音とともに中空に上昇する子供、それを認識し同時に叫び声をあげた。


「愚かな、それでは避けられぬ!【エンドオブファンタズム】は魂を消し飛ばすまで追尾する!

空に逃げたことも不味い、とっさの機転であろうが体勢を崩したまま上昇するものがあるか!」


叱咤し、慟哭の意図を漏らすアセムは鼻息荒く手を握り締める。

通常、SSOの世界では空中で行使できる魔法に限りがあり、また体勢を崩した場合、魔法の行使が不可能となる。


しかし、反射的に構えた手は確かに攻撃を受ける体勢になっていた。

その子供は指の一本一本で【エンドオブファンタズム】を迎撃したのだ。

驚愕の事実と興奮でついに子供の種族を理解する。

【ゴッド】の忘れ去られた伝説の(スキル)を。神話に登場する唯一にして絶対の不可侵存在を。


「【ゴッド・オブ・ゴッド】が扱った【ファイブティカウンタークロー】だと!信じられん!本物か!?」


看破し、そう興奮していると【カロティアセールミラー】が発動者へ返って来る魔法を捕らえる。

【ファイブティカウンタークロー】の効果【速度上昇50%】を上乗せされた魔法は後十秒もしないうちに届くだろう。それを見て青ざめた部下が叫ぶ。


「逃げましょう!我々の解き放った魔法が帰ってきます!」

「そんな暇があるか!そんな無駄をするならさっさと【マジックフィールド】でも張っていろ!」


皆が魔法を唱え始めたのを見て。自分の周囲を覆うように魔法を発動する。

『どうせ防げんがな』と疲れた笑みを浮かべた。

魔力の底を尽いた我々では耐えられて瞬きが許される程度、ここにいる高位の司祭、助祭にいたっては瞬きすらも許されない。


(アセムよ、何処で間違った。お前のすべてを引き継いだわしは--)


直後に響く爆音とカルマ・善に特に効く暴風によって全てのものがミキサーに駆けられたように中空を舞った。

バリバリと何かを齧るような音が広がり、血が撒き散らされる。


風が去り、ボロボロになった神殿内では焼け焦げた死体の山が積み重なっていた。

ペキペキと嫌な音が神殿に響く。枯れ枝をへし折ったような乾いた音。

生存を許さぬこの魔法によって、魂が悲鳴を上げる音が現世にまで聞こえてきたのだ。

辺りを見回しても誰一人として生きては居ない。

絶対的な自信と百年にも及ぶ努力が一瞬で跳ね返されたのだ。

あれはなんだったのかと思い出す前に、口からどす黒い血反吐を吐き出していた。

一気に体の自由が失われ、口からは掠れた息だけが吐き出される。

その瞳孔が開く前に老人は言葉を口にした。


「……神か」と。



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