第十二話 「くっきーのはなし」
シリアスは次です
俺は捕まっていた。
「ねぇねぇ前にやった呪文教えなさいよー」
アーゼに。
昨日宿にいないと思って安心したら、場所特定して次の日突貫してきたのだ。
朝飯も一緒に食うことになった。
そして食事が気に入ったから自分もここにとまると言い出したのだ。断固反対する、と言ったがお客はお客である。アルマさんに拒否権が通じるまでもなくアーゼはここの住人となってしまった。
「私、ギルドに用事がありますので」
「私も行くわよ、お爺様の顔を見てやんないといけないから」
ギルドに到着するとギルド長室に通される。
お菓子の取り扱いに注意を払わなければならないと決まっていたのだ。
「で、例のものは」
オスマン・ギルド長が大層偉そうに言った。
「これぐらいでいいかしら?」
深皿にこんもり取り出す、目の色を変えて飛び出すギルド長。拳骨でだまらせるともんぞり討って椅子から転げ落ちた。
「お爺様がこんなに取り乱すの始めてみたわ」
ん、お爺様?ってことは。
「アーゼ、この人知り合い?」
「私のお爺様よ」
なんてことだ世間は狭いというが、こんなに狭いとは。どちらにせよギルド長とかかわったからには孫であるアーゼともかかわらなければならないんだろう。
どちらも茨の道だな、とはいわない。
「酷いではないか、少し味見をしようと思っていただけなのに」
「昨日アレだけ食べてらして、まだ食べたり無いのですか?」
もう既にクッキーもんスター化しているぞ、この爺。
「お爺様、それおいしいの?」
アーゼが言うとオスマンは大きく体を動かして、ポーズを取った。意味は無い。
「うまいぞぉぉぉぉぉ!歯にあたる感触、舌触り、後味、全てにおいてバランスの優れた芸術品的価値を持つ旨さ、一枚金貨かと同じ重さと言われても買うものが後を立つまいと私は推測する!というか私は買うぞ!」
その独白を覚めた目で見ていた二人。
二人の心はあまりにも馬鹿な爺に対する共通見解を導き出していた。
「うちのお爺様がごめん」
「ええ、そうね」
早速値段交渉に入る。金貨一枚と入ったもののそれで売れるほどクッキーを買って試して見ようなどと言う酔狂なものは出ないと手思われた。
だから――
「クッキー一枚、銅貨一枚ね。購入制限掛けて一人五枚以上は買えないようにして頂戴、売切れたら即終了と言うことで」
「ならばワシが全部買う」
「購入制限って言ったでしょお爺様!」
どうしても未練があるらしい。
現にもう五枚食べ終わっている。
今はアーゼに小分けにされたクッキーを狙っている有様だ。
「ううむ、最近からだの具合が……アーゼよ
。老い先短いワシにクッキーを進呈してくれんかのぅ」
「爺はだまっていなさい」
ぴしゃりと孫に言われてしゅんとなるオスマン。可愛くない。
「でもお爺様が躍起になるほど美味しいんでしょ、凄い人気になるんじゃない」
「こういうお菓子はなかったの?」
「ここら一帯は乾した果物とかそのままとかがデザートだったからこれは革命ね!」
他の地域にはあるらしいが遠すぎて輸入できないとのこと。
パンの種類も少なかった気がする。というか
毎日同じ形ち同じ味のパンだった。
ナンとか果汁が練りこんだパンも知らなさそうな勢いだ。下手すると巻きパンも知らないかもしれない。あるけど、それが何?ってスタンスなのかもしれない。
食文化の違いか、あまりにバリエーションが少ないと思ったらこんな弊害を生み出していたとは。
その分肉料理は豊富だったので、単純に菓子類が登場する機会がなかっただけかもしれない。
今日は俺が作ったのはソフトクッキーだ。
しかし材料の時点で今は足りず現在の知識では作れない。
悲しい無駄知識になっている。
そのかわり在庫はあるので、EXクッキー(ソフトクッキー)を大量に売ることが出来る。
正し、今あるEXクッキーは効果が高すぎる(回復量)なので五段階落としたレベルⅤクッキーを売ることにする。料理Ⅴ+【マクロ】のクッキーは恐るべき旨さを提供するだろう。
回復はほとんどしないが。
これには二人とも賛成だった。
というか旨くて供給できれば賛成らしい。
「ああ、食えるなら何でもいい」
店主も賛成、っていつ入ってきた!
「俺に入れない扉は無い」
「というか店とつながっとるぞ、この部屋」
爺があっさりばらす。
「あ、いうんじゃねぇ、オスマン!」
「けち臭いこといいなさんな。グレン、嫌な客がいるといつもわしの部屋に逃げよって。迷惑なんじゃ」
迷惑な客、この人に苦手な客とかいたのか、
凄いな。
「この前嬢ちゃんが入ってきたときはそそくさといなくなりおって、美人は良くてそれ以外はお断りの店なぞ聞いたこともないぞ」
激しく最低の事を聞いてしまった。
あれか、顔のよしあしで客を判断してたのか、
あの唸っているシーンは、客を吟味する合図だったりするのかな。
「最低」
アーゼの言葉にうなだれる店主グレン。
「良いとこなしじゃのう、いい気味じゃ」
「お爺様もですよ。いい大人がみっともない」
うなだれる二人の老人、シュールだ。
「でもこれ何処で売るの?やっぱりポーションとか薬草とかと一緒?」
「回復アイテムに間違われそうね」
「受付で売ればいい、かわいい受付に、どうですかといわれたら値段も手ごろだし、はいと首を縦に振ること間違いなしじゃ」
その通りなんだけど、オスマン、もっと言い方ってもんがあるでしょ。
「受付はダメだろう。日々依頼業務があるのに物品の販売なんかさせたらパンクしちまうぞ、ギルド付きの売店が一番だぜ」
グレンの株が上昇した。
おいグレン、さすがだやはり経営者は一味違うぜ。
「ふん、働きすぎて女に逃げられた爺が偉そうに」
グレン、ちょっとつらい過去あったんだね。
「女を追いかけすぎて女房も出来なかったお前が言うな!」
どうやらオスマンは浮名を流していたらしい。
「アーゼ、本当に血が繋がっているの?」
「怪しくなってきましたわ」
そういえばと、店主グレンが手をたたいた。
「子供で思いだしたな。そう言えば子供は石貨で払うのではないか」
「ああ、石貨か、あれ作るのには苦労したな」
「石貨って一番低い貨幣ですよね、子供のお駄賃に使われる」
アーゼも興味しんしんだ。どうやら子供時代にお小遣い制度がなかったせいで憧れていたらしい。
「魔法の授業の一環でな。寸分の狂いもなく石貨を作るんじゃが、作れないと「お前は石貨一つ分の価値も無い」って言われて怒鳴られてたんじゃよ」
「大した収入源じゃない。あくまで子供の駄賃だから多く使いたがるところも無い」
グレンが何かを考えながらいった。
「子供は半額にしよう」
考えていることはこうだった。石貨というのは非常に嵩張る、こどもの駄賃と言えば石貨なのだ。
ならば石貨の必要枚数を減らしたほうがこちらも助かる、と言うことだった。
「それで利益出るの?何のために売るのよあんたら」
アーゼの偽り無い本音である。
「肥やしになっていますから、だってお金稼ぐのが目的じゃないですし」
というか大量にありすぎて困るんだが。
「俺は食えたらいい」
「ワシもじゃな」
三人が自分勝手な意見を言い始めると収拾がつかなくなるのでこれにて会合は終了した。
とにかく今日は販売をしてみるだけだったが。売り上げは完売、全員が職員だったということは言うまでもないだろう。騒ぎすぎた。