第十話 「たすけたしょうじょ」
8/15 ルシア→リシアに改名しました。
踊る刃がグレーターゴブリンの胸に刺さりあっさりと絶命してしまった。
力なく足元から崩れ落ち、そのままひざたちのまま息絶えたグレーターゴブリン。
とりあえず息絶えた他のゴブリン達の耳を確保する。
グレーターゴブリンの討伐部位がわからなかったのでアイテムボックスにそのまま収納する。
「酷い匂いになっちゃったわね……」
俺がそう言うと金髪ちゃんが済まなそうに頭を下げていた。
「ごめんなさい、【ウォーター】と【ウィンド】、まだ覚えていないんです」
そう言ってポケットからハンカチを貸してくれる、俺はありがとうと言って顔についた血を拭った。
【ウォーター】に【ウィンド】か、それがあると体を綺麗にできるとのことだ。
SSO時代は眷属(NPC)にきれいにしてもらっていたからどうも下位魔法の使い方が分からない、兎に角覚えるに越したことはないので明日辺りに覚えておこう。
魔道書もストレージにあったはず。
「新しいのを買って返しますわ。ごめんなさいね」
「いえ、差し上げます!お礼です!」
確かに、ゴブリンの血が着いたハンカチもらっても嬉しくないし、返しても迷惑だろう。
こちらで処分しよう。
「あらそう、ありがとうね」
必死な顔が可愛くてくすくすと笑うと、顔を真っ赤にしてうつむいた。
苛めすぎたか?確かに彼女は12、3歳ぐらいだからいじめっぽくなってしまうのかもしれない。
「貴方、ここからひとりで帰れる?それとも私が送って行きましょうか?」
「頼めますか?」
非常に不安そうだ、ノーマルゴブリン程度なら問題ない戦闘力を有しているのだがグレーターゴブリンは話が別だ、この少女なら出会ったら死ぬ。
今日は俺が通りがかったから良かったものの、普通なら噂で聞いた命を落とした商人の仲間入りをするところだった。
「私の名はリシア・アルセイフです、シアと呼んでください」
「リリーシャ・エル・アルマータよ、リリーシャとだけ呼んで頂戴」
とりあえず自己紹介をかわす。人間の潤滑益の一つである。
俺達は、街へと戻ることにした。戻る最中に敵は無く、他愛な事を話して街道を移動する。
「どうして一人でゴブリンと戦っていたの?」
「便乗していた商団が、私を売り飛ばす、って話をして、怖くなって逃げてきたんです」
そこでゴブリンに襲われたわけか、しかしその商団ゆるせんな。
ゴブリンの被害にあえば良い。
「そういえばなんでこの街に来たの?」
「えっと、父に会いに」
良い難そうなシア、これは父親になんかあるな。あまり突っ込まないでおこう。
そんな話しをして街についてすぐ――
「ありがとうございます!このお礼は必ず!」
そう言って走っていってしまった。何か急用でもあったのだろうか。
そういえば連絡先聞いてない。しまった名前だけでは探せるかどうか分からないぞ、デートぐらいしたかったのに。
その後、俺は街の入り口で兵士に出会ったのだが、悲鳴を上げられた。
血と臓物まみれになっていたため怪我をしたと思っていたようだ。
最初は医者を呼ばれたが、最後は医者自ら【ウォーター】をかけてばっさり綺麗にしてもらった。
ありがとうお医者様と言うと。俺は洗濯屋じゃないぞ、とか聞こえてたけど、ちゃんとやってくれるなんていい人ですね。
お医者様についでに【ウィンド】をかけて貰って乾かすと、銀貨を数枚お礼に支払った。
「いつでも呼べ」というからには相場より高かったらしい、次はもっと控えめに渡そう。
ギルドに到着すると、マールと奇声女がいたのでマールのところにいく。
「ゴブリン討伐をして来たので換金してもらいたいのですが」
はい、とマールは銀色のトレーを置く。これに出せというのか。
耳を七匹分トレーに置く。もはや子供には見せられないグロ映像だ。
「ゴブリン七匹討伐、おめでとうございます。ゴブリン一匹10リラになりますがよろしいでしょうか?」
「はい、おねがいします」
後で知ったのだが、10リラは日本円にして1000円らしい、因みに10リラは大銅貨。1リラには普通の銅貨だ。
前に宝石売買で手に入れた純正フォルク金貨は通常の金貨の二倍の価値、所謂10万ぐらいになるらしい。
リオネス白金貨は100万、つまり俺は宝石を3050万で売り払った計算になる。
そんなに価値があるとは、知らなかったとはいえ後で冷や汗をかいたことを覚えている。
「それとグレーターゴブリンを狩ったのですが討伐証明部位がわからずそのまま持ってきてしまいました」
マールの顔が引きつるも奥に通される。なんか周りに職員が集まってきた。
アイテムボックスからグレーターゴブリンを出すとどよめきが聞こえる。
「まさか本当にいたとは……」
「冒険者の失踪も商人が襲われたのもこいつが原因か」
「何処からから流れてきたんだろう。コブリンリーダーより強いから統率力もあるしな」
「だとしたら森に別働隊がいる可能性もありますぞ、討伐隊を組まなければ」
口々に意見交換を始める職員たち。おいてけぼりにイラついたがここは平常心。
「あの皆さん。今は査定を始めないとリリーシャ様が困っていらっしゃいますよ」
ナイス、マールさん!もっと言っちゃってください。
「おお、そうでしたな。見目麗しき勇者殿の功績に報いなければ」
普通に査定しろよ。とは口が裂けても言えない俺であった。
現にマールも申し訳なさそうにこっちを見ている。
グレーターゴブリンの討伐報酬は、金貨10枚だった。予想以上に高い。
どうやらグレーターゴブリンらしきものはいたらしいのだが確認が取れなかったのが原因らしい。
危険手当と発見報酬がほとんどだ。
報酬をもらってギルドを出ると、今日の宿を探しに宿屋街と呼ばれる区画に入る。
ここには荒くれ物の冒険者たちがベッドタウンとして利用するため立てられた宿が所狭しと並んでいる場所だ。
宿屋街をうろうろしていると。
「そこの君~宿が決まってないならうち来ない~」
なぜか目の前で小さな少女がしなを作って誘っている。
「アハ、オネイサンガサービスしちゃうよ~」
というか幼女だった。誰だ、こんなことを教えたのは。
手を引っ張ってきたので、そのまま着いていった。別にサービスに心引かれたんじゃないんだからね!
「お母さん!お客さん連れてきたよ!」
「あら、貴方がお客さん連れてくるなんて珍しい。
いらっしゃい、まぁ綺麗なお客さんね。私のことはアルマって呼んで」
どうやら泊まることに決定したらしい。まあいいけど。ほかに宿知らないし。
宿帳に名前を書く、リリーシャ・エル・アルマータっと。
「一泊大銅貨五枚。もちろん朝食と夕食つきよ」
すこぶる良心的なので、一にもなく頷いた。
「味には期待してね、すぐに食べます?」
「お願いできますか」
アイテムボックスの中身は保存だな、腹が減ったらつまみ食いしよう。
「お母さんの料理は街一番なんだよ!」
幼女が元気よく答える。
直ぐに厨房からアルマさんが出てきてテーブルに料理を並べ始めた。
茸のシチュー、パン、ソーセージ、サラダ、うむ、うまそうだ。
パンは柔らかくシチューに合う、ソーセージはぽきっと折れる音が聞こえるほどの熟成具合だ。
うむ、一杯欲しくなってきた。今は自重するが。
「おいしいですね。特にソーセージが気に入りました」
「ソーセージは自家製なのよ。うれしいわぁ」
アルマさんがうれしそうにそう言う。
料理談義に花が咲く、実のところ、俺も料理好きで色々と研究しているのだ。
食べ終わり、一息つくと、自分にあてがわれた部屋に入り、ベットの上で今日一日のことを振り返った。
飛ばされたこと、未知の大陸だったこと、熊に襲われたこと、グレーターゴブリンを倒したこと。
あの少女のこと。
そして自分の姿がばれてしまったこと。
監視の目はつぶしたが報復がないとは言い切れない、短距離転移で距離は稼いだつもりだが追跡される可能性は捨てきれないのだ。
超高位魔法を放てる存在が、俺を追跡できないはずはない。
だが、もし自分の平穏を乱す者が存在するなら、容赦はしないと誓う。
それよりも明日のことだ。今日レベルは8になりポイントは30となった。
チートスキルのために貯めておくか、使って能力の底上げを狙うか、どちらも選びがたい。
とりあえず明日はお休みで魔法の一つでも覚えよう、まず【ウォーター】か【ウィンド】あたりがほしい所だ。
考え事をしているととたんに眠くなってきた。あくびをして明日また考えることにする。
明日は明日の風が吹くさ、とどうでもいいことを考えながら眠りについた。
戦ってばかりなので落ち着いた話が欲しいですね。