第九話 「ただのごぶりんじゃない」
8/6 加筆、修正しました。
街からゴブリン退治に出発しようとすると、門に移動する前にいい匂いが漂っているのに気がついた。
ギルドの前で食べた肉の味が思い出させる。
ふ、この街には俺を魅了するトラップが多いな。
俺はいいにおいを漂わせている串焼きに目をつけ、一本買った。
店主に銅貨二枚を渡し、串を受け取る。
じくじく焼けた音が聞こえ、パクつくと肉の甘みと油が丁度よく俺の腹を満たした。
噛むごとに油が口の中ではじけるようにあふれ出てくる、これは当たりだ。
「おいしいですね」
一気に食べてしまったので、もう一本注文して、残りはお弁当にしようと更に五本注文する。
「まいどあり、またどうぞ!」
声を掛ける店主に手をふり、門へと再度移動する。
門番に冒険者カードを見せて通過する。
冒険者カード、それは通行税がなくなる魔法のカード。
いやそれだけではないけども。
門から出て暫く街道を進むと森が見えた。
ゴブリンは森に生息し、獲物を見つけると平原に飛び出して襲うらしい。
現に商人の何人かが襲撃され、命を落としたらしい。
門番さんが「貴方にだけ」と赤い顔で教えてくれた。
これで冒険者同士の情報共有はないと考えていい、飯の種だタダで渡すお人よしはいないだろう。
現にあの門番には下心があったと見える。
(うーん。この格好だと有用な情報が入りやすいな)
美人は得、それを肌で感じた。
さてゴブリンと戦うには森に入るか平原を移動して襲われるしかない。
ならばと、こそこそと平原をしゃがみながら移動する。声が聞こえた。
≪スキル【隠密Ⅰ】を獲得しました≫
順調にスキルを稼いでいるようだ。ゴブリンと会うときは【隠密Ⅱ】ぐらいになっているといいな。
そういえば少し気になっていることがある。
街のNPCの能力が低いのだ(もちろん冒険者を除く)、ポイントはあまっているはずなのに使わない人間が多かった。
これはNPCはポイントの使い方を知らないと仮定してもいいのではないだろうか。
その癖、教官はポイントを使い切っている気配があった。同じNPCでも秘匿された情報なのかもしれない。
そんなことを考えて平原でうろうろしているとゴブリンが数匹現れた。情報どおり、獲物を見つけると森から出て来るようだ。
ゴブリンは、緑色の肌と突き出た牙、棍棒を持って現れた。その数八匹。
口々に「ギギャ」とか言っているが、あいにく俺はゴブリン語をマスターしてないので内容はわからない。
しかし問題があった。見つけたゴブリンは少女を襲っていたのだ。
「くっ……近づかないで、【アイス・ニードル】!」
少女が魔法で応戦するも狙いが甘いのか旨く当たらない。
ゴブリンに接近されているんじゃあ、魔法使いの精神集中もしにくいだろう。
アレでは、あたるものもあたらないだろう。
それにしても典型的なゲームのイベントである。
助けて「名乗るほどのものではない」と言えば解決する簡単なイベントである。
金銭は取らない、後々にイベントが発生して、ややこしいことになるのだ。
パーティに勧誘とか戦争参加とか傭兵イベントとか、な。
(面倒は回避するのが一番だけど、助けましょう!)
ゲームの中だからこそ見殺しにするのも後味が悪い。
「行け!踊る刃!」
吸い込まれるように少女を襲っていたゴブリン達の首元に命中する魔法道具は踊る刃と名づけられた武器。
少女を襲っていた四匹のゴブリンは一気に絶命し、俺は戻ってきた長剣を周囲に浮かせて少女の側に近寄る。
一瞬で半数を殺されたゴブリン絶賛混乱中だ。
「怪我はない?!」
助けたのは金髪碧眼の釣り目の美少女だった。一瞬見とれたが、次の言葉で意識を戻した。
「貴方は?」
その答えが聞きたかったんじゃないが。
「悪の敵よ」
にやりと笑い、昔アニメで見た正義の味方になり損ねた男の言葉を言った。
ゴブリンはすでに半数倒されたというのに誰もが交戦の意思を隠そうとはしなかった。
敵意だけはあるらしく鉄の剣をもったリーダーらしきゴブリンが俺に剣を向けた。
統率が取れている?、そのとたん走り出すゴブリン達、どうやら数で押せば勝てると思われたようだ。
すぐに【鑑定】を掛ける。
名前 なし
種族 ゴブリン
性別 雄
年齢 1
LV2
弱いな。ゴブリンといえば初期ステータス最弱のモンスターの代名詞だ。
レベルアップすれば強者になれるとしてもこのレベルでは弱すぎる。
「貴方はそこで見てなさい!その魔法道具が守ってくれるわ!」
踊る刃を金髪ちゃんの元に全て配置する。
これで手元にあるのは背中にしょった、鉄のブロードソードのみだ。
また金髪ちゃんの手助けは期待できない、こういった接近戦で無理に援護されても邪魔なだけだ。
魔法の誤射が一番怖い。
それでも金髪ちゃんが動こうとしたのを見て叫んだ。
「絶対に手を出さないで下さい!戦闘の邪魔になりますから!」
俺の言葉にびくりとなる金髪ちゃん。
とりあえず目の前に来たゴブリンを刈る、ゴブリンの胴体が横なぎに飛んでいき、周りのゴブリンの足が止まった。
しかしそこで待っているほど聖人君子じゃない俺は、ゴブリン達をブロードソードで切り殺していく。
ゴブリン達はあせって逃げようとするが遅い、すでに間合いに入った。
切り倒すたびに血しぶきが上がり、臓物が飛び散る、切った感触がダイレクトに反映されるのもSSOの特徴といえよう。
しかし臭い、血と臓物で体全体が臭い。そんなことを考えていると最後のリーダーらしきゴブリンが飛び出してきた。
「――何?!」
瞬間、リーダーらしき茶褐色のゴブリンの攻撃を受けて驚愕に顔を染める。【鑑定】に恐るべきことがかいてあったのだ。
名前 なし
種族 グレーターゴブリン
性別 雄
年齢 3
LV14
どういうことだ、草原であうレベルを明らかに超えている。フィールドボスなのか?
ゴブリンと同じサイズだが明らかに強者のオーラを身に纏っている。【危機察知】がないため、まるで判断つかなかったのだ。
鉄の剣を装備しているのは一緒だが、明らかに相手が格上であることは肌がチリチリと燻るような感覚で分かった。
≪スキル【危機察知Ⅰ】を獲得しました≫
遅い!しかし退路はない。敵は格上だが俺はそんな敵に何度となく戦ってきた。
レベルは目安に過ぎない、戦いはスキルで決まる。更に言えば【マクロ】が強ければ従来の反射神経では不可能な動きも可能となる。
剣を突き出すグレーターゴブリンの攻撃をかわし、なぎ払った。とたん、ぎゃり、と言う音がしてたたらを踏む。
鉄の剣が相手の皮膚を切り損ねたのだ。だがかすり傷程度は与えられるらしい。
その証拠にかすり傷から血が滴り落ちていた。
それに怒った相手の攻撃を受け止められず腕に傷を負う。
腕をかばい後退する俺に相手がニヤニヤと笑うが、こちらも笑い返し。
「ヒール」
と唱えた。傷は一瞬で治り、相手は更なる怒りと大声でこちらに向かってきた。
だが俺には奥の手があるのだ。既に一匹となったグレーターゴブリンに対する切り札が。
「踊る刃!」
少女を守っていたはずの魔法道具が少女の下を離れ、グレーターゴブリンの背中から胸まで達する傷を負わせる。
ぐしゃっという音ともに血しぶきが俺の顔面に掛かっていた。
粘々した液体が顔全体に掛かってあまりにも臭い。泣きそうになった。
名前リリーシャ・エル・アルマータ
種族エンシェントヒューマン(眷属)
性別女
年齢17
LV8
職業なし
※固有能力
【創造神の加護】
【鑑定】
※スキル
【剣術Ⅲ】
【身体能力強化Ⅲ】
【危機察知Ⅰ】
【隠密Ⅰ】
【投擲Ⅱ】
※魔法
【ヒール】
残りポイント30
ちなみにゴブリンの血は緑色で粘着質です。
匂いも強烈です。