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第七話 「おとこのいじ・こうへん」

おやマルク・ハーマンさんに異変が……


【マクロ】によって教官に突進した俺の体は教官の木刀を奪い取るような動作を見せた。

教官はそれを丁寧に払い、こちらに木刀を向ける。


教官が振るう木刀が胴を払うように迫り、ぎゃりと音を立てて受け流すことに成功し、反撃とばかりに相手の手元に木刀を振り下ろす。

しかし既に教官の姿をなく飛び掛るように右側から木刀を凪ごうとしていた。

受け止められない、と判断し地面を転がるように移動する。教官は更にこちらをつめるように動いていた。

教官が更に胴を凪ぐ振りで木刀を振るうが、一気にしゃがみこんで木刀をかわした。教官の顔が驚きにゆがむ一瞬を逃さず木刀を切り上げた。


(当たらんな)


刹那の見切りにてかわされる。その状態のまま俺を掴もうとする教官。

相手の体に足を掛け後方に宙返りをする。追撃をかけようとした教官が足を止める。


(流石に気がついたか)


空中で反撃の構えを取っていたのがばれたのだ。

苦し紛れで後方に飛ぶのは良くあることだが準備して後方に飛ばれた場合、絶対に追いかけてはいけない。

どんな攻撃が飛び出すか分かったものじゃないからだ。

そして俺が追撃された場合、はなったスキルは【空割斬】だ。

剣術Ⅲで覚える技で、これを空中ではなち尚且つ相手に当たった場合、相手は数秒のスタン状態に陥る。


「さすが元Aランクです。追撃していただければ勝機の一つも見えましたのに……」


その言葉に弾かれたように周りのざわめきが聞こえた。教官は苦々しくこちらを見ていた。


「リリーシャ、お前は誰に剣術を習った?お前の種族はヒューマンであっているんだよな?それと魔物と戦ったことはないか?」


ヒューマンのレベル2がこれだけ強いのはそりゃおかしいと思う。俺でも思う。

でもこのSSOで忘れてはいけないのは【マクロ】の強さだ。【マクロ】が強ければ人間だって神を殺せる。


「はい。私はヒューマンです。一度だけ熊と戦ったことはあります、ですが剣術は他の者が使っているのを見て学びました」

「見て学んだ?それであの動きが出来るのか?とんでもない眼をしているなお前は、いや目だけじゃない身体能力も異常だ。

熊、ブラッドベアか?初心者に狩れるモンスターじゃないはずだが……信じられん、が事実なのだろう。

……お前の剣には迷いがないが実行しようとして無理に体を動かしているような感じがする。まるでそんな戦い方を知っているかのように体が動きやがる」


教官がうれしそうに笑った。回りから驚くような声が聞こえるが教官から目を離すことが出来ない。

何故なら眼だけがらんらんと輝き獲物を狙っているからだ。


「たしかに剣術は拙い。身体能力は俺にも及ばない。魔法も使えずスキルも少ないだろう。

だが状況判断が的確すぎる。身体能力がそれについていけばお前は誰にも負けないほど強くなる」


ギリギリと木刀が力いっぱい握りこまれた音が聞こえる。教官の顔が悪鬼に染まる。


「将来お前に超えられるのが容易に想像できるな。まあいい、一勝はもらっておこうか」

「敗北するとは限りませんよ?」

「なら一撃で決めてやろう」


僅かな沈黙の後、爆音を立てて教官が地を蹴った。

土煙が上がり、真正面から木刀が俺に振り下ろされる。

正面から受ければ腕を持っていかれる!そう判断し地面をけって射程から逃れつつ衝撃を空中に分散させるように体を丸めた。

バゴォと凄まじい音がして俺の木刀が砕け散る。

衝撃で俺の体は訓練場を土煙を立てながら転がりピンポン玉のように上下に跳ねる。悲鳴が上がった。

だがそれは俺の悲鳴じゃない。受付嬢の悲鳴だろう、俺にとって吹き飛ばされることはそれほど恐怖を感じない。

鈍い痛みが体を襲うがそれを無視して冷静に景色を観察する。高速で景色が変わるも地面の接触に十分と判断し足を伸ばした。

足の裏が地面を捉え土煙によって訓練場の視界をさえぎり、周囲に煙幕を作り出す。


(一矢報いさせてもらうぞ)


土煙の中で"山猫"が現れる。手に持っていた木刀の柄だけを手首の"スナップ"だけで投擲し、素早くリリーシャに戻る。

土煙を突破し投擲された木刀は教官が危機察知を感じて慌てて飛びのくほどの速度だった。

教官を通り過ぎた柄は圧倒的な威力を持って訓練場の壁を破壊した。

轟音を立てて崩壊する訓練場の壁、突きさったと同時に飛び出した壁の破片が見物人達を襲った。

だがそこは冒険者、せまる破片を振り払い誰も無傷。マールも教官が守ったのか怪我一つ折っていなかった。


「残念です。避けられてしまいました」


土煙が晴れるとリリーシャが舌を出した、体は土まみれだが大した怪我も無く疲労した感じはしない。

それを見ていた多くがこう思った。ありえない、と。


「今の投擲はユニークスキルか?受け止めたら死んでしまうところだったぞ!」


そう怒りながらも内心うれしそうな教官。バトルジャンキーめ、同類だな。

俺とて最後の一撃は完全に腕が潰されると思ったために、思考が本気モードに移行してしまったほどだ。


「はい。一日一回のユニークスキルです、疲れるので余り使いたくありませんが」


嘘をつく。"山猫"の身体能力で投げただけ。まあ知らなければユニークスキルに見えるから大丈夫だろう。

ウィンクしながら口元に指を添えると教官が笑い声を上げた。


「ハハッ!いいな!これが次世代の英雄か!おいマール!リリーシャはEランク判定だ。明日、いや今からDランク判定試験受けさせろ!」


マールが目の前に迫る興奮した教官を押し返しながら叫んだ。


「マルク教官だめです!Eランク判定は受け付けますがDランク判定は功績がないと受け付けられません!」

「ならさっさと功績を挙げさせろ!こいつならオークキングもソロで殺せるぞ!」


冒険者殺しで有名なBランクの怪物を例に挙げられ周りが口の端を引く付かせた。

俺にしても最初からBランクの魔物と対戦したくない。まず定番となるゴブリンと戦いたい。

そこで剣の使い方を学んで、レベルアップしつつ魔物の質を上げるつもりだった。

だから討伐ができるEランクには入りたかったがいきなり怪物の前に差し出されるのはごめんだった。


「あの教官。私は新人ですから、いきなりそのようなモンスターと戦うのは怖いのですが……」

「なにを言っているんだ。お前が恐怖を感じるのはもっと上の魔物だ。Bランクはお前の装備しだいで楽になっていく部類だぞ。なんにせお大抵の魔物はお前のユニークスキルで一発だ」

「一日一回と言ったではないですか教官。大物をしとめられるのは一度だけ、それもカンがいい場合はよけられる危険性もあります。けっして慢心していいスキルではありません」


そう言うと教官はばつの悪そうにうなずいた。


「そうだった。凄すぎたんで一回だけだというのを忘れていた。まぁいいすぐにでも装備を整えてゴブリン討伐にでもいけ。

奴らは数が多いからなすぐにランクが上がるだろう」

「女性に一番嫌われるゴブリン討伐を進めるのはデリカシーなさすぎです……お父さん」


今お父さんって言ったよね!言葉尻が消えて誰も聞いては居なかったが。お父さんとは……似てない親子だな。

マールってハーフなのかな?その割には耳も尻尾もないが。



二人とも戦闘狂でした。

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