※今日で神様辞める!
あるところに一本の竹があった。竹やぶの中にある、何の変哲もない若い竹だ。
そんな竹が光りだした。正確に言うならば竹の一部が輝き始めた。なぜ光ったのか。竹には分からない。しかしその日、竹が特別な竹になったのはたしかな事実だった。
「おやっこれは」
竹が光るようになって数日が経った頃、1人の老人が竹やぶに入ってきた。老人は光る竹を見て、目を大きく開いた。
「なんと神々しい光じゃ。ありがたや」
老人は両手を合わせて竹に一礼をした。
「こりゃいかん。みなにも教えねば」
村に帰った老人はみんなに光る竹のことを伝えた。最初は半信半疑だった村人たちも、たしかに光り輝く竹を見て、拝んだ。光る竹はあっという間に村中に広まった。
毎日のように竹の元には人間が来て、両手を合わせて礼をしていくようになった。いつしか『ご神竹』とまで呼ばれるようになった。
しかし竹の毎日はあまり変わらなかった。ただそこに立ち、風にゆれ、季節に合わせて葉を散らし、子を作る。竹は人々とは無縁にただそこにあった。
満月が昇ったある日、月から牛舎に乗った人々が竹の元にやってきた。
「おお、ここにおられましたか、姫様」
竹に向かって……いや、竹の輝いている部分に向かって彼らは声をかけた。安堵しているようだった。彼らは竹を切ろうとした。
「ご神竹さまに何をする!」
不審な灯りを見てやってきた村人たちだった。彼らは月の住人から竹を守るように立ちふさがった。月の住人たちは竹の中に自分たちの姫がいるのだと説明したが、村人たちは怒るばかり。話し合いは難航し、ここに『竹取合戦』と呼ばれる戦いが幕を開けた。
一本の竹をめぐって人々は争った。怒号が飛び交い、血が地面へしみこみ、周りにあった仲間の竹たちは刈られていった。
あるところに一本の竹があった。竹やぶの中にある、何の変哲もない青い竹だった。
さわさわ、さわさわ。
強い風が吹いた。
赤い葉が何枚も地面に降り注ぎ、何かを覆い隠していく。
竹は揺れる。
揺れる。揺れる。何かを訴えるように、揺れる。
戦争、をテーマに書いたものなんですが、珍しく文学的かもしれない(笑)。
戦いの結果どうなったのか。想像してみてください。おそらくいろんな答えがあると思います。
竹が竹であることを辞めて戦う理由がなくなったら、戦いは終わるかもしれないし、どちらかが死に絶えるまで続くかもしれないし、どちらかが負けたかもしれない。
あなたの想像する未来はどれでしょうか。