第1章―(5)
放課後特訓からの帰り道、俺はひたすらヘッドフォンから流れる透明感溢れるハミングと、心地良く跳ねるようなピアノのアンサンブルを聴いていた。
奏は買い物をしてから帰るということで、学校を出てすぐに別れた。
買い物に付き合ってほしいと誘われたのだが、どうにもそんな気分にはなれず、曲を覚えたいからという理由で断ってしまった。
耳元で流れる明るく前向きな曲調とは対照的に、俺の足は鉛のように重い。繰り返し聴く毎に気分も下降の一途を辿る。
暫く無気力に歩を進め、時折道路に向かって盛大なため息をついていたら、気がつけば家に辿り着いていた。
「ただいま」
玄関で定型の挨拶を発し、廊下を通ってリビングに顔を出す。相変わらず中ではタンクトップとハーパン姿の木葉が、ソファーにねっころがりながら雑誌を読んでいた。
リビングには八十年代の洋ロックが流れている。
「光太郎おかえりー。あ、あんたの部屋に落ちてたCD借りてるわよー」
「わかった」
俺はリビングのドアを閉めて、自分の部屋へ篭ろうとふらふらと階段へ。
すると再びけたたましい音を立ててリビングのドアが開いた。
「ちょ、ちょ、ちょ、光太郎!? あんた熱でもあるのっ?」
慌てて飛び出してくるなり、木葉が宇宙人でも見たような表情で俺の肩を掴んできた。
「別にねーよ」
「そんなはずないわ。いつもの光太郎だったら、『はーい。……っていいわけあるかこんちくしょーめ!』とか『勝手に部屋にはいるんじゃねーぜべらぼーめ!』なんて言葉が帰ってくるものっ」
「俺は江戸っ子かっての」
「ほらそれよ! 今日の光太郎はツッコミが雑っ。誠意が足りないわ」
ツッコミを真面目にやってるのなんて芸人ぐらいなものだろ。
「それにあんた眼が濁りきってるわよ? いつものんきな光太郎を絶望の淵に突き落としてる要因は一体なに?」
そう言ってどんどんと顔を近づけて迫ってくる。
木葉が俺に何かあった時、決まってお節介を焼いてくるのは昔からだ。
子供の頃はそれに随分助けられたこともあったけど、今回ばかりは欝陶しく思えてしまう。
そして思わず飛び出す舌打ち。
「姉貴には関係ねーよ」
「むぅ。その言い方はちょっと酷いんじゃないの?」
「大きなお世話だっての」
つい零れた本音ではない言葉の刺に、木葉は膨れっ面で応戦する。
「あーはいはいそうですかー! じゃあもう光太郎にはロヂャースのCD返してあげないからね!」
「話はそれだけか? 俺は夕飯まで一眠りするから」
俺の素っ気ない態度にか、はたまたCDについても突っ込まなかったからか、木葉は「あっそ! どうぞご勝手に!」と言い残して、再び喧しい音を立ててリビングに戻っていった。
俺はそんな木葉の様子にため息をついてから、踵を返して二階へ上がり、そのまま逃げるように部屋に飛び込んだ。そして鞄をほっぽって、制服のままベッドにうつ伏せでダイブした。
「うぅ〜!」
布団に顔を埋めて頭を掻きむしる。
……はぁ、やっちまったなぁ。完全に八つ当たりだ。後でCDの二、三枚持っていって謝りに行かないとな。
しかし今は、顔を合わせればまた嫌味が口を突いて出そうだ。
まともに会話もできないほどに打ちひしがれているのには当然理由があって。
「……っ」
俺はうつ伏せのまま首に引っ掛けて流しっぱなしだったヘッドフォンを耳へ。ちょうどリピートしたところだったようで、奏のカウントからキャッチーなピアノの旋律が溢れ出した。そこに寄り添うように茜先生のハミングが重なる。
片足でリズムを取りたくなるような高揚感。高低音の連続で飽きさせない音創り。シンプルな音の中にも見え隠れするストーリー。歌詞の全容がわからなくとも、奏の世界観が滲み出てくる。これぞ和泉奏の真骨頂だ。
しかし比類なき才能というものは、時に残酷なまでに持っているモノの違いを突き付けてくる。何度も何度も奏の世界を覗き込んできたからこそ気付くもの。気付かされてしまうもの。
その圧倒的なスケールの、唯一無二なその世界を、俺にはどう足掻いても表現することができない。
誰しも他人に成り代わることなんてできないのだから。
結局軽い気持ちだったのかもしれない。滅多に歌うことをしない下手くそな俺が精一杯声を張り上げることで、奏に何かしらの影響を与えることができれば、再び歌えるようになるきっかけにでもなるかもしれない。……なんて、どこか簡単に考えていた部分があったのだ。そんなに上手く事が運ぶのであれば、とっくに奏自身で解決していることだろうから。
そしてその甘さは今、ブーメランとなって自分の元に帰ってきている。
一定のレベルにも達していないのに、人の心を動かせるわけがない。
そう思ったが最後、頭の中で雑念が毛糸のように絡み合って収拾がつかなくなる。せっかく録ってもらったデモテープもなかなか記憶に残ってくれない。
奏に納得してもらうにはどうすればいいのか、そのことだけが頭を支配していた。
うつ伏せから仰向けに寝返りを打って、天井を見上げる。
依然として耳からはピアノとハミングが聴こえてくる。
歌詞がない今の時点でも、既に俺の中では今後の奏の代表曲になってもおかしくないレベルの曲だと感じている。それほどに、この曲は輝いている。だからこそ、その曲に応えてやれる技量がないことがとても歯痒かった。
今はもうなんだか聞いていられなくなって、耳から乱暴にヘッドホンを剥ぎ取ると、そのまま床へとヘッドホンを発哺った。
部屋の中は必然的に無音になる。時折自分の身動きで、ベッドが軋む音が聞こえる以外は静かだった。
腕で目を覆い隠すようにして暗闇を作り出す。
するともう聞こえてこないはずの奏のピアノがどこからともなく聞こえてきた。ブラックアウトした景色の中に残像が浮かび上がってくる。視認したのはピアノとそれに寄り添う奏の姿だった。奏は一人で『旅立ち切符』を弾いている。
俺は状況が飲み込めず立ち尽くしてその様子を眺めていると、歌い出しに入ったところで俺を一瞥し、ピアノを弾く手を止めた。
奏は表情を変えずにもう一度最初から弾き始める。そしてまた歌い出しのところで弾く手を止める。
何度も何度も繰り返されるそれは『どうして歌ってくれないの?』と問い掛けられているようだった。
口には出さないが、だんだんと強められるピアノの一音一音がそう伝えてくるようだった。
けれど、今の俺には到底歌うことなどできなかった。
きっと幻滅させてしまう。
綺麗な世界を汚したくない。
そんな恐怖心ばかりが邪魔をして、鼻歌さえも出てこない。
俺は自分のふがいなさに嫌気がさして、奏に顔向けできず、ただただ俯いてひたすら繰り返されるイントロ部分に耳を傾けているしかなかった。
暫くしてピアノの音が止んだ。
ふと顔を上げると、奏の姿はなかった。
「奏!?」
慌てて周りを見渡すと、いつの間にか暗闇の奥底へと吸い込まれていくように、奏の後ろ姿が揺らいでいた。
「まってくれ奏!」
叫ぶ俺の声に一度振り向いてくれたが、まるで靄がかかったように表情は窺えなかった。
やがて奏は吸い込まれるように暗闇の中へと消えていった。
「かなでぇぇぇぇ! ――――…………はっ!?」
気がつけば自分の部屋の天井が目に入った。
まるで全力疾走した後のように息が切れて、体も重く、汗もびっしょりだった。
いつの間にか寝むりこけていたようだ。部屋の中はすっかり暗くなっていて、窓から漏れる街灯の明かりだけが部屋内を照らしていた。
「夢、か……」
まさかこんな台詞を吐く日が来るとは思わなかった。
普段夢など見ないのだが、今もしっかりと記憶に残っている。
夢というものは、現在の自分の状況とリンクしてしまうものなのだろうか。
だとしたら、いやにリアルで末恐ろしいものだ。
正夢にならないことを切に願うしかない。
ほっと安心の一息をつくと、同時に部屋のドアが叩かれた。
「光太郎、入ってもいい?」
声の主は木葉だ。珍しく殊勝な声音。きっと木葉も先程のことを気にしてくれているのかもしれない。
「あ、ああ」
俺がそう声を掛けると、木葉はおずおずと扉を開いた。
「ごめん、寝てた?」
「いや、今起きたとこ」
俺が身体を起こすと同時に、部屋の明かりが点けられた。
「お母さんがもうご飯だから呼んでこいって」
「そか、悪い……」
時計を見ると既に七時を回っていた。どうやら一時間も眠ってしまっていたらしい。
「ねえ、光太郎」
「ん?」
「覚えてる? あんたが小学生で、あたしが中学生だったころ、あんた当時好きだった女のコに猛アタックして盛大に振られたことあったじゃない?」
「……また唐突に思い出したくない思い出を持ち出してきたな」
だが木葉はそれを馬鹿にするわけではなく、くすりと淋しげに微笑してから部屋の中に入ってきた。そしてベッドの端に座る俺の隣に腰を下ろした。
「光太郎は昔から不器用なのよね。その好きだった女のコに厳選した自作ラブソングベストをひたすらプレゼントしまくるとか、今思い返せばどんな小学生よって感じだわ」
「容赦なく古傷をえぐってくるな」
「そしてあんたはこれでもかってくらい凹んでたよね」
「……まぁそりゃあ凹むさ。好きなコに『清水くんホント気持ち悪いから……』なんて断られた日にゃ自己嫌悪と自信喪失のスパイラルだもんよ――ってむぐっ!?」
人生最大の汚点を思い返して苦笑いを浮かべていたら、木葉は急に俺の両頬を二つの手でサンドイッチにしてきた。
「今のあんた、あの時と同じ表情してる」
「――っ」
その言葉と見透かされているような真っ直ぐな瞳に圧倒され、俺は声も出せず眼を見開くばかりだった。
あの時もそうだったのだ。
素直な気持ちを伝えることができず、感情をモノに代えることで逃避して、それを一方的に相手に押し付けただけの自分がとても嫌になった。
加えて自分という存在が否定されたような気がして、とてもいたたまれない気分になったのを覚えている。
振られたという事実よりも、そんなことばかりが心をつっついてふさぎ込んでいた。今思えば随分と賢しいガキだったな、とも思うわけだが。
でもそんなとき木葉は必ず、
「あたしじゃ力になれないのかな?」
といって心配そうな表情で俺の手を掴むのだ。
今回もまた俺の手の甲にはすらっとした木葉の手が置かれている。
「今までもあんたが落ち込んでたりしてたトコは何度も見てきた。その度話を聞いたりもした。だからなんとなくわかるの。今回もかなり大事なんじゃない?」
「……姉貴はどうしてそう俺の気分に敏感なんだ――っていででで!?」
俺がぶうたれながらそう答えると、今度は突然俺の両頬を抓ってきた。
「あたしはあんたの何よっ?」
「はねき――っていだいいだい!」
「お・ね・い・さ・までしょー?」
「ふぁい、ふいまへんおねえはまでふ! ――ったぁぁぁ〜……!」
木葉は従者を躾た女王様のようにうれしそうに頷き、俺の頬から抓る指を離した。そして、
「そう。あたしはあんたの姉。姉は弟助けるのがシゴトなの。……だから心おきなく話してくれていいんだから」
一転して聖女のような笑みを浮かべてそう言った。
俺のピンチにはすぐに駆け付けてくれ、どんなに些細なことでも親身になって考えてくれる。そしていつでも正しい方向へ導いてくれる。
普段はやかましくて欝陶しい姉だけれど、それでも俺にとっては小さい頃からの身近なヒーローだったのだ。
「………………そんなん言ったとこでなんもでないかんな」
「お気遣いなく。勝手に光太郎の部屋から持ってっちゃうからっ」
「そりゃ結構なことで」
何となく気恥ずかしくなって、目線だけ逸らす。
「全く光太郎は、普段はなーんも気にしないでちゃらんぽらんしてるのに、想定外の壁にぶつかると途端に考えこんじゃうんだから」
「そうだな……」
認めるしかない。結局自分はとてもちっぽけで弱い。切替が早いのが長所だなんて奏に豪語していたが、いざってときになればこのざまだ。
「ごめん姉貴、さっきはむしゃくしゃしてて、心にもないこと言っちまって」
だから俺は、すぐに観念して先程の非礼を詫びた。
「ううんいいの、もう気にしてないから」
「そういってもらえると助かるよ。ちとかなり参ってたからさ」
「じゃあ話してごらんなさいな。友達とかには言えないことも、あたしにだったら話せるんじゃない? スッキリすると思うし、何か協力できることもあるかもしれないしね」
「……そうだな。一人で考えてたってしょうがないもんな」
「そうよその意気よっ! さぁあたしに打ち明けてみて! 奏さんと何があったのかを!」
「え?」
「ん?」
目一杯腕を広げて胸を張る木葉の言葉に、些か不可解な部分があり、俺は眉を潜めた。木葉もそれに釣られて首を傾げる。
俺の頭の中でふつふつと疑念が沸き立つ。
「………………なんで奏のことだってわかるんだ?」
そう言って睨むと、木葉は一瞬明らかに肩を震わせた。
「俺、姉貴に奏とのことで悩んでるなんて一言も言ってないよなぁ?」
「そそそそりゃぁ姉だもんっ! 弟の悩みなんてお見通しよ!」
「ふーん……面白がってるだけ、とかじゃないよなぁ?」
「あ、当たり前じゃない! あたしがいままで光太郎のお悩み相談で面白がって聞いたことあった?」
……まぁなかったけどな。
「でしょでしょー? だからほら、あんたの心のしがらみを安心してあたしに見せてみなさいよ。楽になるって」
明確な理由が見つからず答えられない俺を見て、木葉が鼻高々に豊かな胸を強調する。
結局俺は観念して、奏との出会いから今日に至るまでの事のあらましを隠すことなく打ち明けた。
音楽室での出会いから、ひょんなことから文化祭で奏と発表することになったこと、更には何故か俺が歌う羽目になってしまったこと、そして奏の作る新たな曲を歌うことになったということ、しかし果たしてその役が俺に務まるのかということに悩んでいる現在まで。加えて奏が今歌えない状況にあるということまで包み隠さず話した。これには奏のプライバシーが関わるため大変迷ったのだが、奏の大ファンである木葉がそんな重要機密を触れ回るはずがないと信用した。
木葉は今日までの濃厚な一週間を聞いて色々思うことがあるらしく、「ちょっと、考える時間ちょうだい」とこめかみの辺りを揉みながら苦悩していたので、一先ず夕食をとってから話をしようということになった。
うーん、本当に話してしまって良かったのか正直不安だ。
♪♪♪
夕食も平らげて、順番に風呂で温まったところで、再び俺の部屋にて木葉と落ち合った。
俺と木葉は先ほどと同じ位置関係で座り、テーブルにお茶を用意した。
とりあえず俺は木葉の第一声を待って、対談の開始を見計らう。
「光太郎」
「ん?」
木葉は俺を呼ぶと、俯いていた顔を上げた。
「あんたはラブコメの主人公かっ!」
「はぁ!?」
芸人も顔負けの突っ込みが俺の胸に入る。こ、これが誠意ある突っ込みってやつなのか……!? ってそんなことはどうでもよくて!
「どんなアドバイスがくるかと思えば飯中に一体何考えてんだよ!?」
「ここは重要なことよっ!? 何よそれナンなのよー! 夕暮れの音楽室で運命的な出会いをして、重大な秘密を知って手助けすることになって、更には文化祭で共同作業の約束して、そこまでの道中に葛藤まで挟んでくるとか……きー!」
だめだこの姉貴。
木葉はダークブラウンの髪の毛をわしゃわしゃと掻き毟る。
「姉貴に話した俺がバカだったよ」
「わー、ちょちょ、ちょっと待って待って! わかったよぅ、ちゃんと話すから座って座って」
「ったく……」
呆れて部屋を出て行こうとする俺を、木葉は縋るように引き止める。
「……真面目に話すとね、光太郎はまだ覚悟ができてないのよね」
「覚悟? なんの」
「奏さんを本当に助けてあげたいって覚悟」
「それは聞き捨てならないな。それは今日までいつ何時も忘れたことのない俺のポリシーだ」
「だったらどうして奏さんの気持ちがわからないの?」
「奏の……気持ち?」
「そうよ。奏さんがわざわざ文化祭のためだけに曲を作ったとは思えないもの」
いまいち木葉の真意が理解できない。
俺は今歌うことができない奏の代わりを担っている、いわば分身なのだ。
だったら俺のするべきことは、奏の世界に少しでも近づくこと。
もしも肩を並べることができたなら、一緒に歌ってくれるような気がするから。
「姉貴は当事者じゃないからわかんねーんだよ。俺には奏が作ってくれた曲を表現する義務がある」
「光太郎、それは違うわ」
「何が違うっていうんだ」
若干語気が荒くなる。興奮してきた俺をあしらうかのように、お茶が入った急須に手をつける木葉。
「……あんたが奏さんと知り合った日、私に話してくれたじゃない? 音楽室であの六曲目を歌ってたって」
「あ、ああ……」
「そのときわたし、彼女の心をきけーみたいなこといったじゃない?」
確かに部屋から帰り際にそんなことを言っていたっけ。ヘッドフォンを被せられてあまりよく聞こえなかったんだが、奏を助けたいと思ったのもその言葉があったからだったな。
「あの時わたしは、そのままの意味で『歌』って言ったわけじゃないの。彼女が曲にして伝えたがっている『心』、つまり彼女のキモチを聞いてきなさいって意味で言ったのよ」
木葉はお茶を一口啜って続ける。
「だからね、そんなに根つめて奏さんになりきろうとか考えなくていいと思うの。上手かろうが下手だろうが、あんたはただ奏さんが伝えたがってる心の声を実直に代弁する、それだけでいいのよ」
「……ホントにそれだけでいいのか?」
「いいと思う。きっとそれが奏さんが光太郎に求めてることだと思う。そうじゃなきゃ、わざわざ光太郎に感情移入させやすい男性視点で書かないと思うしね」
奏は男性視点の曲を書いてみたかったと言っていたが、それならこの機会に、というのも納得がいく。
「まぁとりあえず明日、完成の歌詞が貰えるんでしょ? だったらそれをよーく読んで、奏さんが何を想ってそう綴ったのか、それを感じながら歌うこと。上手い下手は関係ないわ。それが一番奏さんの世界に近づくことになるんだから」
本当にそれが正しいのだと言わんばかりに真っ直ぐな瞳を向ける木葉はやはりとても頼もしく見えた。
普段は人の部屋から勝手にCDを掻っ攫って、それ聴いてリビングでごろごろしながら雑誌に目を通しているような姉貴だが、伊達に俺より長く生きていないなと関心させられる。
「なんかサンキューな。お陰でなんとなく肩の荷が下りたわ」
「よいよい! お礼は奏さんをウチに連れてきてくれればいいからねっ」
「おうわかっ……ってだからそれは無理だっつーの!」
「なによ光太郎のケチッ! 奏さんを独り占めなんてズルいわっ! お姉ちゃんにも少しくらい甘い蜜吸わせてくれてもいいじゃない!」
「ケチとかじゃないだろっ! まだ知り合って一週間で家に招待とか不可能だから!」
「もう名前で呼んじゃってるくせにー! あーもー奏さん連れてきてくれなきゃヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダー!」
「子供かっ!」
やはりそれが目的だったか! ……まぁでも明日少しは努力してみてもいいかもな。