start!
ここが俺の高校生活の本拠地になるのだな。
ここがベースだ。まるで中学の部活と同じような感覚で道場に踏み込む。さあ、突撃だ。
先輩方・・・。ああ、高校生だッ!道場の中にいる人たちを見て最初に思ったことだ。
いやいや、何を言ってんだ。俺も高校生だろ!
気合入れて行くか・・・!
「こんにちわ~。」
・・・我ながら力がないな。
思って出来そうでも意外にできない事ってあるものだ。
先輩方の驚愕の顔。中からこんな声が聞こえる。
「え?新入生?いや、早すぎじゃない?だって今日が・・・・」
まあそう思われて当然だよな。心の中で少しの特別感を楽しんでいた。
先輩の一人が
「部長、新入生来たよ~」
そう言われて出てきたのは女の先輩だった。
「え~と・・・どうしたらいいのかな・・・?と、とりあえず畳に座ってくれる?」
やはり俺の様な新入生の登場は想定外だったようで動揺を隠せ無いようだ。
この時思った。
”ああ、大丈夫。俺も一人の高校生。普通に先輩も普通の高校生。緊張する必要はないな。”
だがやはり思ってることは実際表に出てこないもの。
緊張はしてしまう。
が、向こうも緊張しているようだ。
「え~と・・・何か質問ある?」
・・・どうやら見学に来たと思われているようだ。
まあそれならそれで通すもありか。
「弓道の道具っていくらくらいするんですか?」
我ながら現実的な事を聞いたなと今でも思う。
「・・・どうだろう? ねえ、あの紙持ってきて~多分あれに書いてあるから~。」
おいおい、去年自分がいくらで道具準備したか把握しておいてくださいよ。
内心そんな気持ちだった。
弓高そうだなぁ・・・。そればっかり頭をよぎる。
「えーと弓は買わなくていいんだ、学校にあるやつ使うから。それで・・・」
ああ、弓買わなくていいならそんなにお金かからないかな?
「買ってもらうのは弓道着と矢でね。全部合わせたら・・・まあ買う矢にもよるけど3万でおさまるよ」
うーん、簡単に言ってくれるじゃないっすか。3万って大金ですよ??
・・・?あの手にはめてるグローブみたいのは?あの胸につけてるやつは??
そう思いながら
「え?あの手の分と胸につけてるものは弓道着に含まれてるんですか??」
「ああ、弽は弓と一緒で学校のを使うから大丈夫。胸当ては男子はいらないから大丈夫だよ。」
うん、名前を俺は知らないのだが・・・とりあえず話の内容的に言えば
弽=手のグローブ 胸当て=胸につけてるやつ
そういうことで良いのだろう。
そして男子はいらない?
だって片っ端から皆つけてるじゃないっすか・・・
あれ?・・・ あれ??
男子の先輩はどこ?
え?
・・・ええええぇぇぇ!?!!?
緊張からずっと下か部長しか見てなかった俺はそこで気づいた。
男子がいない!
・・・
中学の時、俺は男子の内輪だけで過ごしていた
女子とのかかわりが一切なかったために「女子は怖い」そういう一般的な考えが頭に染み付いていて
俺は女子恐怖症だったのだ。
これは俺にとってこの上ない過酷な状況だったのだ。
「えっと・・・男子の先輩はいないんですか・・・?」
「え?いるよ!ちょっと荒井君、男子の後輩だよ!男子ッ!!」
明るくも命令口調になっている部長。
・・・ん?
あの細い柱の向こうに・・・見えているのは?
「え、いや、まあ、はい・・・よろしく!はは・・・」
あ、男子だ!! え?なんでそんな小っちゃくなってんすか!?
というか自信なさげ・・・どうしたんすか?!
・・・やはり女子の世界で暮らしていくのは辛いのか。
そう思い過酷な高校生活を覚悟したのだった。
工業高校は男子が多く、商業高校は女子が多い。
ここは商業高校。女子が多くても分かる。
けど男子一人って・・・。
「ああ、これは2年生で、本当は3年にもう一人いるから男子。」
“これは”って・・・男子、コレ扱いか・・・。
「・・・ッチ」
・・・え?誰?今の舌打ち・・・?
3年男子の話をして舌打ちって・・・。
こりゃ、最高学年の男子の先輩の扱いひどそうだな・・・。
ってか男子がもう一人いるって言う情報も気休めでしかない。
むしろ休んでんじゃないっすか。
このままひがんでいても仕方ない。
「と、ところで師範の先生がいるって聞いているんですけど。」
「ああ、滝先生は今日、県連の方に行ってらっしゃるから道場にはいらっしゃらないんだよ。」
いや、だからいきなり県連とか言われても・・・
そして名前は滝先生なのね・・・
まあどこかに行ってるのですね・・・。
もうちょっと説明欲しいっす・・・。
オット、この状態で沈黙は不味い
「え~と・・・今日は全然準備ないんですけど明日から何を持ってきたら・・・?」
「ああ、入部は来週の火曜からだから、ははは。」
笑いながら言われた。
・・・いや、だから入部届はもう持ってるんすよ・・・。
そんなことも言えない俺は
「あ、はいそうなんですか。じゃあ来週まで待ちますね!」
そういって道場を出た。
そして出てから気づく、
部長の名前聞いてない。しまった。
ただ、唯一の男子
荒井さん
この人は把握したぞ。
・・・よく考えたら今日同年代の女の人と話したのか。
うわッ!