私の婚約者を奪おうとした愚かな妹の末路
「お姉さまのものはわたくしのもの、わたくしのものもわたくしのもの・・・ですわ」
そう言って妹のマギーはいつも私のものを欲しがった。小さいころに大事にしていたぬいぐるみも、飼っていた猫も、服も、本やアクセサリーも、妹は何でも欲しがった。
両親はそんな妹ばかりをかわいがり、姉妹で喧嘩になると、必ずマギーの肩を持った。
その結果、私はいつも我慢しなくてはいけなかったのだ。
そんな私たち姉妹も大人になった。結婚をする年頃だ。
妹は男にもてた。見た目の可愛さと甘え上手でどんな男でもとりこにした。
私はあまりもてなかった。というよりも、恋愛に興味がなかったのだ。社交の場にもあまり参加しなかった。
ある時私に結婚の申し込みがあった。その相手は王太子だった。私は驚いたし、私の家族たちも驚いた。王宮で開かれた夜会で私を見た王太子が、私のことを気に入ったらしい。
我が家は公爵家だから王太子から結婚を申し込まれても不思議はないのだが、王太子が選んだのが妹のマギーではなく、地味な私だったことが意外なのだ。
「これはすごいことだぞ! 王家と親戚関係になったらわしの株も上がる」とお父様は歓喜した。
お母様も喜んだ。しかしマギーだけは喜ばなかった。そしてこう言ったのだ。
「わたくしが王太子殿下と結婚したいですわ」と。
また出た、と私は思った。
私のものを何でも欲しがる癖は、大人になった今でもまだ続いていたのだ。そしてそんな妹を過保護に扱う両親も変わってはなかった。
かくして、王家に交渉することになった。王太子アマデウス殿下の結婚相手は姉のルイーズではなく、妹のマギーにしてもらえないだろうかと。
王家からの返事は、一度顔合わせをしてみようというものだった。そして両家でお見合いみたいな感じで会食することになった。
我が家からは私とマギーと両親、王家の方は国王と王妃と王太子が出席した。
食事の席で妹はカチャカチャと音を立てて食事をした。物をかむ時もくちゃくちゃと音を立てて咀嚼する。親が甘やかしたのでマナーが全然なってないのだ。
「あら、パンを落としてしまいましたわ」
「もう、しょうがない子ねマギーは」
相手側は顔をしかめているがマギーや両親はそのことに気づいてない。
私は幼いころから厳しくしつけられてきた。ちょっとでも食器で音をたてたら叩かれる。姉妹で親の態度は180度違っていたのだ。
マギーはスープをこぼしたり、口の周りを汚したり、手づかみで物を食べたりして、まるで野生児である。むしろ、そういう下品な食べ方をしたほうが人に好かれるとさえ思っている。親が妹ばかりをかわいがってまったくしつけをしなかった弊害である。
食事が終わった後でお父様が、「こんなマギーですがよろしくお願いします」と言った。
当然マギーが王太子と結婚すると信じて疑ってない。
しかし王太子は端正な顔に笑顔を浮かべて、「それはご免こうむります」と言った。
「え? なんですか?」とお父様が聞き返す。
「マギーと結婚することはできないと言っているんです。そもそも僕が結婚を申し込んだのはルイーズなんだ」
「しかし・・・」
「しかしももやしもない。こんな下品な令嬢は王太子妃にはふさわしくないです」
「うむ、アマデウスの言うことはもっともだ」と国王陛下も同意する。「妹の方は下品極まりない。しかし姉のルイーズは立派な淑女だ。結婚するならルイーズに限る」
国王陛下の言葉にお父様は雷に打たれたみたいな衝撃を受けたようだった。
「ご、ごもっともでございます」
それで納得ができないのはマギーである。
「いやですわ! わたくし、アマデウス殿下と結婚したいですわ! ねえアマデウス殿下、わたくしと結婚しましょうよ」
席を立ってアマデウス殿下に近づき、胸の谷間を強調するポーズで体をくねくねとくねらせる。
「おい、いい加減にしろ! 僕はお前なんて眼中にないんだ! 近づくな! 僕が好きなのはルイーズなんだ」
鈍器で後頭部をぶん殴られたような衝撃を受けたマギーは愕然とした。この技法で落とせなかった男はいまだかつていなかったのだ。
「お、お父様! 何とかしてくださいまし!」とお父様に泣きついいたマギーの顔面にお父様は強烈なびんたを炸裂させた
「いい加減にしろ! わしはお前の育て方を間違えたぞ」
その後、私は王太子と正式に婚約し、マギーはその根性を叩き直すために修道院へ送られた。
お父様は自分の子育ての仕方に間違いがあったと認めて、私に土下座をして謝った。
「すまなかったルイーズ。わしはマギーばっかりをかわいがってお前に厳しくしてしまった」
「頭をあげて、お父様」と私は言った。「厳しく育てられたからこそ今の私があるんです」
×××
「なぜマギーじゃなくて私を選んだの?」と私は夫になったアマデウスに尋ねた。
「君を初めて見たのは王宮で開かれた夜会だった。僕は君を一目見た時に『この人だ』って、直感的にひらめいたんだよ。君には気品がある。きっと、つらい人生を乗り越えた人には、自然と、気品というか、オーラみたいなものが身につくと思うんだ。そういうのは、見る人が見ればすぐにわかる物なんだよ」
「自分ではよくわからないわ」と私は肩をすぼめた。
アマデウスは素晴らしい人物だった。両親も心を入れ替えて私にやさしく接してくれるようになった。
マギーからは定期的に手紙が来るが、その内容から察するに、彼女が変わるにはまだまだ長い時間が必要だろう。




