少女は今日も騙す
騙すことを得意(自称)とする少女。それは人の視界のみならず、言葉も巧みに操る魔術師⋯⋯のつもり。抜けている部分がある。
都会の夜空を彩る光の一つ、路上にて眩く、煌びやかな照明に照らし出される少女が一人、声高らからに、自身を取り囲む群衆に語る。
「さぁ、今宵もお集まりの皆様!最後にすごく、すぅ~んごくびっくりする、もはやマジックじゃなく、魔法を見せるよっ!」
群衆より頭一つ分高いステージにて、少女は自身たっぷりに辺りに叫ぶ。
その声は鈴の音が跳ねるようによく響き、少女の愛くるしい顔も相まって皆の注目を集める。
「ふふんっ、ちょ~っと待ってねぇ⋯⋯」
少女はその場でくるりと回り、黒の燕尾服をたなびかせる。
そのマジシャンの装いと、先程までの成功してきたマジックの数々が人を魅了し、パンツに黒のキュロットと、ギャップのように伸びる少女の健康的な足が叡智な魔力を持って人を惹きつけて離さない。
今夜は絶対に成功させる!
少女はぐっと祈るように拳を握り、目をかっ開いた。
「では⋯⋯」
少女は握り込む手のひらを上向きに開く。すると、ボンッと大きな花束が現れた。
おぉ、と群衆からは声が上がるも、少女は片手で制した。どうやらこの程度で喜ばれたくはないようだ。
「チッチッチッ⋯⋯まだ驚かれるのは早いぜ?皆様」
少女は被った黒のシルクハットをくいっと人差し指で押し上げて、大きな瞳をパチンとウインク。群衆の中にいた男性の何人かは心臓を射抜かれた。
少女はその花束を掲げて、躊躇なく上へと放り投げた。
すると花束を包んでいた袋は解け、ぶわっと舞った花びらが少女を隠すように広がる。
「では-」
少女はその可愛らしい口元に人差し指を立てて呟く。
その仕草は、可愛らしい少女から妖艶な色気を醸し出す。
花びらは少女を群衆から視界を切り、その一瞬の隙に、少女は小上がりのステージから姿を消していた。
数秒間の沈黙。皆あっけに取られていたが、一つ上がった拍手を始まりとして、それが一つ、また一つと広がっていく。
始まりはカードが消えるマジックに、杖、白い鳩と続いて、最後は自分自身すら消してしまう、魔法のようなマジック。
少女を囲っていた群衆は、残されたステージに向かって、いつまでも続くような鳴り止まない拍手をしていた。
「ぷはぁっ!」
そこから程近い川の縁から、荒い呼吸を繰り返して飛び出したのは、先程までマジックを行っていた少女の姿だった。
少女は目をかっ開いて、死にものぐるいで川岸に手をかけると、そこからずるずると這いずるように脱出する。
「⋯⋯し、死ぬかと、思った⋯⋯」
少女はふらふらと立ち上がる。
かっこいいシルクハットは無くなり、上服には柔肌が露出しており、肩紐の切れた下着のみとなっていた。
黒のキュロットは糸がほずれて可愛らしいお尻が露となり、靴先に星を装飾された可愛いらしいマジックブーツは、片方何処かに無くなり、もう片方には小魚が幾つか入っていた。
結ってあった自慢の桃色の髪は顔を覆い隠すように垂れ下がり、一見するとまるでゾンビのようなその姿に、誰も先ほどの少女とは思わないだろう。
「うっ⋯⋯うぇぇ⋯⋯⋯」
少女は込み上げてきた物を一気に放出する。それは先程まで扱っていたマジックアイテムの数々。
カードに杖、そして白い鳩と、立て続けに吐き出した。
「ぐはぁッ!死ぬかと思ったぁ!」
最後に吐き出された白い鳩は、大きく口をぱくぱくさせて、キッと少女を睨みつけると、その嘴で顔を突つきながら怒鳴る。
「やいやい!何やってんだぁおめぇ!帽子に俺を入れる予定だっただろうがぁ!てめぇ、殺す気かぁ!?」
「ご、ごめんなさぁい。急いでいたから咄嗟に」
「咄嗟にっておめぇ、何度練習したらまともに俺を帽子に隠すことができるんだよ!」
「だってだってぇ⋯⋯。あんな人前で、しかも一瞬だよ?帽子に掛ける手が滑っちゃったから仕方ないじゃん」
「だっーたらもっと簡単なものにしろって言ってんだろぉ?なーんど言ったら分かるんだよ!てかなんださっきの。自分が消えるマジック?ただ後ろの川に飛び込んだだけじゃねぇか!」
「だってぇ⋯⋯トリピーがそれで良いって言ったからぁ」
「そりゃ最終はな!?そもそもマジックじゃなくて”魔法”の練習の為に人前に出たんじゃ無かったのかよ!?」
「ううぇぇん⋯⋯」
震えながら涙を流す少女に、鳩は舌打ちをして、どこからが取り出した葉巻を嘴に咥えた。
「そんな調子じゃ、いつまで経っても魔法少女にはなれねぇぞ?」
「うぅ⋯⋯わかってるけどぉ⋯⋯魔法、難しいんだもん!トリピーには分かんないよ!」
少女は子どものように駄々をこねた。「あぁん?」とトリピーは少女に凄む。
「てめぇの代わりなんざ幾らでもいるんだよ。それでもてめぇがやりたいってっから、てめぇがどうしても叶えたいって言うから選んでやったんじゃねぇか?忘れたか?あぁん!?」
トリピーに睨まれた少女はわんわんと泣き出した。
「おいおい。そこまで泣かれるとは想定外だ。悪かったから落ち着け」
そう言われて落ち着きを取り戻したのは数分経ってから。
「まぁ、なんだ。お母さんとの約束なんだろ?」
「うん⋯⋯」
ようやくグズるのを止めた少女に鳩は話し掛ける。
「お母さんの為にも、私は彼女を⋯⋯捕まえないといけないんだ」
少女はその細い手をぐっと握りしめて、夜空に誓う。
「おう。その通りだ。しかもこっちの都合も同じだし、一石二鳥ってやつだしな笑」
「うん。トリピーの世界も、彼女のせいなんでしょ?」
「おう。だから取り敢えずは自身の姿を消す魔法を-と練習中だが⋯⋯先は思いやられるなぁ」
「でも私、頑張るよ!」
少女の笑顔に、トリピーは苦渋に眉を寄せていたが、観念したようにため息を漏らした。
「まっ、こっちもそれを見込んでの事だしな!期待してるぜ!」
そしてトリピーも、羽をバタつかせて空へと掲げた。




