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ノイアフォード

 ワンドマリガ東部最大の城砦都市カントマーズで奴隷狩り作戦の成功の知らせを待っていた城主サントラ将軍は緒戦での敗北とメーレム城陥落の報を聞き、持っていた酒盃を思わず握りつぶした。

「誰だ…蛮族共を率いているのは…⁉︎ サンブル族のランジャか‼︎」

 右手から赤ワインの雫が落ちる。その手は怒りで震えていた。破片で指を切ってしまっているがそれが気にもならないほどの怒りが彼の中で荒れ狂っていた。琥珀色の双眸が伝令兵を睨みつけた。

「い、いえ…奴らを率いていたのは一人の少年とのことです」

「何⁉︎ 阿呆めが、小僧如きにやられおったか! その小僧とは何者だ!」

 その獣のような荒ぶる殺気に伝令兵は萎縮した。

「う、噂ではありますが…東を荒らしまわっていたゴテン盗賊団を壊滅させているようです。名はノア。ライジス王国南部ラントフォード領主ロクラスの養子と聞いています」

「英雄ロクラスか…! なぜ奴の息子がこの国にいる⁉︎」

 ノアの養父ロクラスは偉大な将軍である。大陸は人類領と魔王領に二分されている。北部を人類各国が、南部を魔王が治めているが、魔王軍の侵攻のたびに人類は領土を奪われ続け、生息地域は大陸の半分にも満たない。しかしロクラスは魔王軍相手に一歩も退かぬ戦いを繰り広げ、領主の座にある三十年間、領土を奪われることなく守り続けている。ロクラスの勇名は大陸全土に響き渡り、彼が素質を見込んで養子にしたといわれるノアにも期待を寄せる者は多い。

「わ、わかりません!」

「おのれ、ラントフォードの小僧め! 儂自身が出陣して捻り潰してやるわ!」

 サントラは机を叩き、立ち上がった。筋骨隆々の体躯は二メートルに及び、魔王領への遠征時についた古傷が体を埋め尽くしている。

「お待ちください! 噂が真実であれば奴のそばには人類最強の戦士ラミナスがいるはずです。現にそれらしき強者を見たと報告が…!」

「構わん! 所詮は女、この大斧で首を刈り取ってやる!」

 壁に立てかけてある大きな斧を担ぎ、男は部屋を後にした。

 

 

 ノアたちはサントラ将軍率いる大軍が接近しているとの報告を受けて、逃げ散った敵軍が戻ってくる前にメーレム砦の城壁を破壊し、城内を焼いて退却した。ミラが言うにはもっと勝利を得ることはできるがこれからのことを考えるとこのまま退却するのが吉であるらしい。軍事のことは彼女に一任している。ノアは何の異議を唱えることなくそれに従った。

 途中で抗戦派の戦士たちと別れた。彼らを率いるのは部族連合で最も優れた戦士ランジャ。昨日、隘路で敵を待ち伏せしていた部隊の隊長だ。髪も髭も伸び放題で清潔感に欠ける風貌をしているがその戦闘力や統率力は本物だ。

「本当に一緒に来なくていいのか?」

「ええ。我らはもう少し、意地を見せたいと思います。それに、女子供がそちらに逃げるための時間も稼がなくては」

 男は笑う。

「我らの子らをお願いします。出会って間もない貴方に託すのは申し訳ないが貴方にしか頼めない」

「気にすんな。俺たちに任せろ。それと…もしお前らが捕まった時は俺が助けに行ってやるからあんまり無茶すんなよー」

「…!」

 ランジャは驚き、そして敬服した。その言葉にはひとかけらの虚偽もない。冗談ではなく本気で言っているのだ。出会って数日しか経ってないというのに一度共に戦っただけで少年は心から彼らを思っている。

「貴方には何から何まで世話になってばかりだ…。もし次に生きて会えたら時は貴方に私は貴方の将として戦うことを約束しましょう」

 男は頭を下げて忠誠を誓った。

「わはは、期待してるぜ。まー、捕まんねーのが一番だけどよ」

 二人は拳を突き合わせて別れた。ランジャたちは戦場に、ノアたちはライジス王国へ向かう。難民の群れにはすぐに追いつき、合流する。そしてライジス王国に入り、その南部ラントフォードに辿り着いた。ノアの領土ノイアフォードは大陸有数の大河ティベリウス川のほとりにあるラントフォード領の小さな都市だ。元は何もない平野で、魔人が支配していたが三年前にノアがその魔人を倒して配下に加え、町を築いた。住人の多くはノアが住んでいたスラム街の者たち、残りはノアが各国を巡って勧誘してきた人々、その噂を聞きつけて助けを求めてきた民で構成されている。肥沃な大地を開拓し、農耕や工業、放牧をした。近くに軍馬の名産地があることから軍事的にも発展している。兵士は騎兵だけ千騎。精鋭中の精鋭だ。他に千名の予備兵がいるが普段は建築に従事じたり訓練をしている。四万の流民が暮らすだけの食料はある。住宅も用意させている。

 ロクラスは政治面に関して決して無能ではなかったがラントフォードは三方向を魔王領に囲まれている。魔軍の侵攻への対応に追われて内政に集中できていない。優秀な政務官がいるものの、領内にはまだ未開拓な土地が多い。特にノイアフォード近辺の土地は手付かずだった。かつてはセインロットと呼ばれていたその土地だがノアが先住の魔人ファーレンを討伐し、配下にして切り開いた。

 ノイアフォードの住民たちは帰ってきたノアたちを歓声をあげて迎えた。ノアは彼らのことを大切に扱い、彼らはノアを敬い、力を貸している。暮らしているのは人間族だけではない。巨人族や小人族、ドワーフ、竜人、魔人、人魚、エルフ、獣人、有翼族、多眼族、単眼族、精霊など多様な種族が暮らしている。これだけの多種族都市を築くにあたりたくさんの困難があったが、ノアの持ち前の人の好さと、なにより住民たちの努力によりそれらは解決されていった。

「お前ら、新しい仲間が来たぞ! 仲良くしてやってくれ!」

「うおおおおお! またノイアフォードも大きくなるな!」

「長旅で疲れただろうから新入りには飯をたくさん振舞ってやらねえとな!」

 誰一人として嫌な顔をしなかった。皆、この都市の主に温かく迎えられたから。彼はこの都市に暮らす者は皆家族と呼び、分け隔てなく接した。だから彼らにとって新しくやってきた者たちはどんな経歴を持っていようと、異なる種族であろうと、共に支え合って生きる家族である。


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