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決着

脱走者は死刑だ…! 弱卒はいらねえ! 死にたくなきゃ奴らの首を取れェ‼︎」

 その一喝で流れが変わった。盗賊たちは踵を返してノアたちに襲い掛かってきた。

「あいつら突っ込んできた! ユミル、ラミナス、みんなを守ってくれ!」

 ノアは馬を器用に操り、押し寄せてくる盗賊の群れに突っ込んだ。

「え⁉ ノアはどうするの⁉」

「俺はあのでけえのを倒す! そうすりゃ流れもまた変わる!」

 剣に血を吸わせ続け、大男に斬りかかる。大男は大剣でその一撃を打ち払う。にやりと笑い、馬上のノアを見下す。

「てめえ、この俺を知って喧嘩を売ってんのかァ⁉」

「知らん。お前誰だ」

 ノアは首を傾げる。

「短い命だろうが覚えて逝け! 俺はここら一帯を支配する盗賊団の頭ゴテン! いずれこの国の王となる男だ!」

「王かー。なれるといいな」

 ゴテンが連続して繰り出す斬撃を避けてノアは言った。根無し草のノアにとって王宮に鎮座して政務に追われる暮らしなど御免だ。目の前の男がそんな雑務を行うかはわからないが。

「俺は王になる! 王になって全部手に入れて! 全てをひっくり返してやるのさ! 魔王も帝国も全て俺にひれ伏す!」

「お前が王になりてえなら好きにすればいい。けどよ、俺の友達に手を出すなら話は別だ。お前の野望はここで終わりだ」

 正面から大男を睨みつける。

 そこに北から一騎の盗賊騎兵がやってきた。

「お頭ァー! き、北の方を見回りしてたんですがあのビナレ山の中腹に氷の花がわんさか咲いてんですよ! あれを売ったら大儲けですぜ!」

「おいおいマジかよ! 今すぐ行く! おめえらはこいつらを始末しろ!」

 盗賊たちが雲霞のごとく現れ、去っていくゴテンを守った。ノアはゴテンを追うのを諦め、目の前の盗賊たちを討つのに専念することにした。無理に追えばこの村を守れない。優先すべきはこの村だ。

「だ、駄目よ…。私の…思い出…。約束の花畑が…!」

 シーナが走り出すのをユミルが止めた。

「どうしたんじゃ、シーナ! 血相を変えて…」

「お父さん、あいつらが『約束の白』を見つけたの! なんとかして止めなきゃ!」

 村長は目を見開いた。拳で膝を叩いて覚悟を決め、近くで戦う数十人の男たちに向かって叫んだ。

「ウェスター家の男たちよ! 我らが幾代にも渡り守り続けた約束が歴史も知らぬ愚者に侵されようとしている‼ それだけは…何としても…! 防がねばならん! 儂に続け!」

「「オオオ‼」」

 剣や槍を構え、盗賊たちに突進する。戦意は高く、面食らった敵を切り捨て、敵陣を揺らす。彼らは他の村人たちとは違い、戦闘の訓練を積んでいるようで個々人の技量は盗賊よりも高い。

 だがあのゴテンに比べると一回り二回り劣る。大人数で向かってもあの大剣で殺されるだけだ。 

「おっさんたちはここで待ってろ! 俺があいつを止める! ユミル! 村の周りの奴らを追い払ったら知らせてくれ!」

 ノアは嵐のような斬撃を繰り出して強引に敵の部隊を突破した。さすがに無傷とはいかず、あちこちに傷を受けて血を流していた。それでも足を止めず、北へ向かった。マントを破って傷に当てて止血する。

 彼の駆る馬シャディーンは大陸屈指の駿馬の名産地ラントフォードで生まれた。優れた両親を持ち、比類なき速さと体力を誇る。歴代最高の能力を誇っていたが父親譲りの気性の荒さゆえに乗りこなせる者はいなかったが唯一ノアが乗ることができた。ノアは彼を信じている。またシャディーンもその期待に応えて走る。

「ヒヒーン!」

「え、重いって? いやいやそんな訳ねえだろ。血流したから多少減ったくらいだろ」

 シャディーンの鬣を引っ張る。

「ヒヒヒーン! ヒヒーン!」

「え、後ろ?」

 振り向くと後ろにシーナが乗っていた。

「お前、なんでいるんだよ! シャディーンが文句言ってるぞ。重いって!」

「私だって剣も使える! 足手纏いにはならないわ! 体重のことは言わないで!」

 ノアは諦めて同行を許した。ゴテンは膂力と体格こそノアより優れているがその他はノアの方が上だ。正面から戦えば勝つのはノアだ。多少なことがあっても問題はない。十分シナと花畑を守り抜ける。

 山を登る。道を知っている分、特に苦労せず花畑まで辿り着けた。ちょうどその頃にゴテンも到着したようだ。

「ふへへへへへ、すげえなこの花畑! ぜーんぶ氷の花じゃねえか!」

「貴方にこの花畑はあげない! これは私たちの約束、私の思い出! 誰にも奪わせない!」

 シナが叫んだ。

「約束だの思い出だのくだらねえ! そんなもん、金の前にゃごみ同然! 安心しろ。俺が有効に使ってやるからよ!」

 ゴテンは一輪の氷の花を摘み、ノアに向かって投げた。

「見ろよ。この一輪で一千万レーネだ。どうしてあれを守る? この花は売ってこそ価値がある。守ることになんの意味がある?」

「俺の友達の宝物だ!」

 二人は剣を交えた。二本の剣を器用に滑らせ、大剣を受け流す。十年前からラミナスを師と仰ぎ、戦う術を学んできた。それより前はスラムで暮らしていた。生き延びるための動きは誰よりも得意だ。反撃を開始し、敵の刃を弾き返す。劣勢を理解したゴテンはにやりと笑い、懐からマッチを取り出した。

「手に入らねえのなら…全部燃えちまえ‼」

 マッチが宙を舞う。火を灯したマッチは回転しながら氷の花を赤く照らす。

「だめ…!」

 シーナが馬の背中から飛び出し、そのマッチを握りつぶした。間一髪で花畑への着火を免れた。そこにゴテンが大剣を振り下ろした。

「…!」

 大剣が飛び込んできたノアの肩を切り裂いた。鮮血が舞い、氷色の花を赤く濡らす。そしてノアは大地に崩れ落ちた。

「ノア君!」

「いってえ…! こんにゃろ…!」

 剣を振り上げ、ゴテンの膝を斬る。

「てめえ!」

「うおおおおおおおお!」

 左手は動かない。動く右手で剣を振るう。その一撃はゴテンの振り下ろした大剣を砕き、右手を吹き飛ばす。そしてそのままゴテンの首を空に舞わせた。そこで力尽きたノアは花畑に倒れこんだ。



 村に残ったラミナスたちは村の入り口から盗賊たちを追いだした。盗賊たちは大将の離脱により戦意はあまり高くなかった。ラミナスは風を纏わせた剣を振り回し、盗賊たちを空に打ち上げる。

「な、なんだあの化け物は⁉ なんでこんな村にいやがる!」

「に、逃げろ! お頭のところまで逃げるんだ!」

 盗賊たちは北へ向かって敗走した。ユミルらだけでなく村人ら数百人も彼らを追撃し、過半数を討った。

 盗賊たちは山を登り、ゴテンを追った。しかし、彼らの前に落ちてきたのは彼らが頼りにするゴテンの頭部だった。斜面の上に現れたのはゴテンを打ち破ったノアの姿だった。その剣からは血が滴っている。

「お前らの頭は俺が倒した! この村と山は俺の友達の宝物だ!」

 ノアは剣を振り上げて叫んだ。

「ラミナス、ユミル、あとひと押しだ!」

「ひ、ひいいいいい!」

 盗賊たちは悲鳴を上げて逃げた。ラミナスは馬を走らせて盗賊を容赦なく討った。一人も生かして逃すつもりはないようだ。

「ラミナス! やり過ぎじゃないか?」

「氷の花畑の存在を広められれば彼らは被害を受け続けます。ですのでその情報を知る可能性があるなら全て殺すべきです。それに盗賊が逃げた先で更生して無害になるとでも?」

 ラミナスの放った矢が武器を捨てて命乞いした盗賊の眉間を貫いた。

「…わかった。お前の言うことが正しい」

 ノアは剣を握り直して背を向けて逃げる盗賊の背を突き刺した。

逃げ惑う盗賊たちはノアたちに追い回され、全滅した。

 


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