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巨人族

 世界人類同盟の呼び出しに応じると決めたその翌日、ノアの元に客人が来た。しかしそれは人間ではなかった。そいつは地面を揺らしながらやってきた。大通りを歩いていたノアたちに影が落ちる。振り返ると十メートル以上の巨人の男がこちらを見下ろしていた。

「おう、お前がノアか! がはははは! うちのアホが世話になったな!」

「バンガスのことか! あいつ元気にやってるかー?」

ノアは見上げて叫んだ。

「ああ! 王にボコボコにされたがな! おっと名乗るのを忘れていた。俺はワンダーディ! ゴウディ王の友だ!」

ゴウディ、それは巨人族の王。ラントフォードの中央には巨人族の集落がある。そこには数百人の巨人が住んでいて外部との交流を断っていた。その軍事力は確かで、ライジス王国にありながら独立し続け、広い領土を持っている。

「ゴウディがお前のこと気に入ったらしくて村に連れて来いってよ! お前、うちの村に遊びに来るつもりはねえか⁉」

「行くー‼」

ノアは目を輝かせて即答した。巨人族の村サンドーンは閉ざされた集落であり、巨人以外は入ることはできない。是非とも行ってみたいと思っていたのだ。これは願ってもない好機である。

「よし来た! 行くぞ!」

ワンダーディはノアらを無遠慮に掴み上げ、肩に乗せた。踵を返し、北へ向かう。ノアは歓声を上げて高所からの景色を楽しんだ。ノイアフォードで暮らす巨人夫妻オンドとメノーがこちらに手を振った。

「ノア様とワンダーディ様! どちらへー?」

「決まってるだろうが色ボケ野郎ども! ゴウディが呼んでんだよ!」

「サンドーンに行ってくるー!」

ノイアフォードを出て、北に向かう。巨人たちが住むサンドーンは数百年の間閉ざされていた街である。どんな場所なのかはオンドとメノーから聞いていたが実際に行ったことがなかったので楽しみだった。まだ見ぬ土地への期待に胸を躍らせた。やはり冒険はわくわくする。

ワンダーディの肩に乗って北上すること数時間、巨人族の村が見えてきた。人間には越えられない高い柵と深い堀に囲まれ、各所に物見櫓がある。外部の人間を拒むその防御施設を越えてその村に入るのだ。門が音を立てて開き、彼らを中に招き入れる。中には数百人の巨人たちが暮らしている。彼らはノアたちを珍しそうに見た。

「うおおお! 恩人じゃねえか!」

地面を鳴らして一人の男が駆け寄ってくる。それはこの前、共にラフマートから脱出したバンガスだった。

「バンガスー! 元気にしてたかー⁉︎」

「王に殴られたが元気だ! お前たちも元気そうだな!」

二人は拳を突き合わせる。

「こらこらどけどけ。お客人だ。遅れると俺が怒られる」

バンガスをどかし、ワンダーディは村の奥にノアたちを連れて行った。村の中心にある王の家は大きかった。王が住むのだから当たり前だが、規格外の大きさだった。これといった装飾品はなく、無骨な風格が王の人格を表している。中に入ると、鎧に身を包んだ巨人兵が通路の両側に立っていた。ワンダーディは彼らを無視して奥に進み、王の間へ歩いた。通路にはたくさんの武具が並べられていた。しかも巨人族が使用する武器なので威圧感が途轍もない。

巨人族の王はその奥の巨大な玉座に腰かけていた。鎧を纏い、髭を伸ばした大戦士。それが閉ざされた村の主、巨人の王ゴウディ。

「よくぞ来た。ノイアフォードの英雄よ」

彼が喋るごとに床が震える。

「俺の部下が世話になったな。あやつめ旅に出て酒を飲んで眠ったところを捕まったらしい。情けない奴よ」

「あっはっは、ついでだし気にすんなよ。それよりこの村に初めて来たから見て回っていいか?」

「好きに見て回れ。俺はお前が気に入った。話に聞くより精悍な顔つきをしている」

「やったー!」

 ノアは建物を出て、村の中を走り回った。村の巨人たちはみなノアを快く迎えた。バンガスが村を案内してくれた。サンドーン村には外の世界と大きく異なった文化があった。ノアはそれを興味津々に学んだ。

 

 

 陰謀とはどこにでもあるものである。それは対魔族戦線上にあるライジス王国でさえも例外ではなかった。戦場から離れた宮廷では貴族たちによる権謀術数が渦巻いていた。それが内々に向けられるだけならまだいい。だがその毒牙は自らの利益を害しうる全てに向けられる。彼らの目は今、閉ざされた村サンドーンに向けられていた。先日、ノアが解放した奴隷の中に巨人族の者がいたからだ。もしこの件で巨人族とノアが結びつくようなことがあれば脅威になる。貴族たちのノアへの不満は大きい。英雄と呼ばれ、各地で彼を称える声も大きい。しかも彼の勝手な行動は国家に対する反逆心を抱いているのではないかと貴族たちに思わせた。本人には反逆の意思はないが、立ちはだかるのなら叩き潰すという考えである。

 王もまた、猜疑心が強く、ノアやそれと結びつきかねない巨人族を警戒し、排除しようと動き出していた。肥満体形のアンサッタ王は欲望にぎらついた瞳を配下に向けた。

「あの人形どもに巨人王を暗殺させよ。ノイアフォードの小僧が仕向けたようにしてな」

「はっ」

 

 

 ノアは数日間、村に滞在した。巨人たちとも仲良くなった。今日は巨人族の鍛冶場を見せてもらう約束だ。

 ゴウディはノアのことがより気に入ったらしく、ノアがノイアフォードから持って来させた酒や食料を一人で王の間で楽しんでいた。周囲に衛兵はいなかった。彼は巨人族最高の戦士であり、これまで護衛というものを必要としなかったのだ。

 ブドウに手を伸ばしたその時だった。菓子類が入っていた木箱の蓋が突然吹き飛んだのだ。次の瞬間、黒く長い糸がふわりと舞ってゴウディの胸にかかった。何事かと思ったときにはすでに遅かった。糸は鋭利な刃と化し、ゴウディの強靭な肉体を切り裂いた。噴水のように鮮血が噴き出し、王の体はぐらりと揺らぐ。

「な…に…」

 箱の中から出てきたのは黒髪の女。虚ろなその瞳は倒れ行く王を見つめている。

「貴方が巨人の王ですね?」

 抑揚のない声で彼女はゴウディに尋ねる。しかし返答は求めていない。相手が暗殺対象のゴウディであることを確信しているから攻撃したのだ。

「貴様…何者だ…!」

「ライジス王国、その宮廷の影。誰にも知られずに王の敵を消し去る者。」

 冷ややかな声で彼女は返す。ゴウディが受けた傷は致命傷だ。もはや助かるまい。与えられた任務は達成した。

 ゴウディが倒れ伏したのを確認した。だが万が一ということもあり得るのでとどめを刺そうと軽く手を振ってもう一度糸をゴウディに飛ばした。今度は首を切断するつもりだった。しかし彼女は見誤っていた。巨人たちの王の力を。

 巨人は血反吐を吐きながら筋肉に覆われた剛腕を振るった。女はそれを背中に受けて吹き飛んだ。壁にぶつかり、体中の骨が折れたのを悟った。内臓も傷ついたようで大量の血が口から零れる。それでもこの場から離れなければと必死に床を這って事前に用意しておいた抜け道に潜った。ようやく外に出た時、彼女は気を失った。

 重傷を負って気絶した彼女を介抱したのは周辺を散歩していたノアだった。彼はラミナスと共に彼女をノアたちの為に用意された人間が使える部屋まで運んで手当した。数時間ほど回復魔術をかけているとようやく彼女は目を覚ました。

「…」

「あ、起きたか。この村に俺たち以外の人間がいるなんてな。何があったかは知らないけど目が覚めてよかった」

 ノアは彼女に水を渡した。彼女は無言でそれを受け取り、飲み干した。そして軽く頭を下げた。

「俺ら以外に人間がいたんだな。俺はノア。お前、名前は?」

「私に名前はありません」

「南西の方に名づけの習慣がない部族があったけどそこの出身かな。じゃあ俺が名前つけてやるよ。そうだなー。ハナ。ハナでいいか?」

 青年は笑いかける。特に何の捻りも意味もない名前だが覚えやすい。ないよりはマシだろう。

「…ありがとうございます」

 俯いてハナと名付けられた女は答えた。

 家の外から怒号や足音が聞こえてくる。一人ではない。大人数が走り回っている。

「そういえば外がうるせえな」

 ロイトが窓の外から外を見た。

 窓の外では巨人たちが争っていた。

「出て来い! 人間め!」

「今すぐ殺してやる!」

「俺たちを騙しやがったな!」

 自分たちを罵る声が響く。ノアたちは何事かと外に出た。家はたくさんの巨人たちに囲まれていた。

「おい、ノア! 今は出てくんな!」

 バンガスがこちらに向かってこようとする巨人たちを抑えていた。

「何があったんだ?」

「お、王が何者かに襲われた! 今、治療を受けているがどうなるかわからん! みんなお前たちを疑ってる! 今は危険だ。家の中に籠っているんだ!」

 バンガスや数人の巨人たちが他の巨人たちを押しとどめている。ノアたちを睨む巨人たちの中には武器を持っている者もいた。まごうことなき殺意を現状を把握できずにいた彼らに向けていた。迫りくる危機を察したラミナスはノアの前に立ち、剣を抜きかけた。咄嗟にノアはそれを止めた。彼女が剣を抜いて戦えばノアは無傷でこの場を去ることができるだろう。だが、ノアはここに戦いに来たのではない。巨人族の者たちと親交を深めにやって来た。ここで剣を抜く必要はない。

「なんのことだ! 俺たちは何もしてねえぞ!」

 ノアは叫んだ。何が何だかわからないがどうにかしてこの場を収めなければならない。血だけは流れないように。

「そんなはずあるか! 衛兵は侵入者を見ていない! お前が持ってきた荷物の中に暗殺者が紛れ込んでいたに違いない!」

「あの中身は全部酒と食いもんだ! 誰も入ってねえぞ!」

 ノアは弁解するが巨人たちは聞く耳持たなかった。ただひたすらに興奮させただけだった。そこに斧を持ったワンダーディがやってきて両者の間に割り込んだ。ワンダーディは大声を張り上げて今にもノアたちに掴みかかろうとしていた巨人たちを制した。

「やめんか。お前たち。同胞を救った恩人を憶測のみで詰るとは! 大陸中にサンドーンが信義を知らぬ蛮族であると知らしめるつもりか!」

 王の親友の一声に村人たちは静まり返った。しかし納得できていない者が多かった。それだけ王は慕われていたのだろう。

「すまんな、ノアとその仲間たち。今は非常事態で我らも事態を全て理解できているわけではない。捜査に協力してもらえると嬉しいのだが」

「ああ! 俺たちの身柄はお前に預ける。腕のいい医者もノイアフォードから呼ぶよ」

「そうしてくれると助かる。我々巨人族はお前たち小さき者の使う治癒魔術とやらが使えないからな」

 ノアは伝球で事情をノイアフォードに伝えた。それを聞いたミラはそれはそれは深いため息を吐いた。

「臣下の分際で無礼な発言をさせていただきますが我が君、貴方はすぐ面倒事に巻き込まれますね。呪われているんですか?」

「呪われてんのかなー。俺が捕まってること誰にも言うなよ。戦争になるから」

 通話越しに苦笑が聞こえる。ワンダーディの言葉で動きを止めた巨人たちは冷静な方だった。ノイアフォードの住民や兵士たちはノアが殺されるかもしれないと知れば制止も聞かず戦争になったとしても助けに来るだろう。

 自分でもいろいろなことに巻き込まれすぎだとは思っている。第三者からみればほとんど自分から首を突っ込んでいるので仕方ないと思われているのだが。

「おそらくライジス王が派遣した暗殺部隊でしょう」

 ミラが言った。

「彼の王の暗部には魔導学院から払い下げられたホムンクルスで構成されている暗殺部隊がいるという噂を聞いたことがあります。まあどこの国もそういう集団がいるものですが。おそらく我が君と巨人族が結びつくのを恐れて刺客を送り込んだのでしょう。お気をつけを」

「もう嵌められてるっぽいけどなー。あっはっはっは。ま、無実だしもう少しサンドーンでお世話になるよ。サンドーンは植物も動物もでけえんだ。楽しいぞ」


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