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覚悟

 四人は山を降り、西へ向かった。寂れた街道を走ると中規模の村落が見えた。確かに盗賊に荒らされた後のようであちこちが荒らされている。

「あれが私の村。やっぱり壊されてる…」

 村の入り口まで辿り着くと村人たちが彼らを迎えた。その中に盗賊に拉致されたはずの村長の娘シーナがいたことに大層驚いた。村人たちは大騒ぎで人を呼んで回った。村長らしき男が出てきてノアの前に進み出てきた。

「旅人よ、こんな寂しい村までよくきてくれた。しかも我が娘を連れて」

「お父さん! この人たちが私を助けてくれたんだよ!」

 ユミルの後ろから降りてシーナは父のもとに駆け寄った。男は彼女を抱きしめてその無事をを喜んだ。

「たった四人であの盗賊たちに立ち向かったのか! なんと勇敢な。お転婆ながら大切な娘です。助けていただき真にありがとうございます」

「いいよ。飯奪い取るついでだったし」

 ノアは食料の残りや金品を村人たちに返した。

「ありがとうございます。今年は不作であまり食料がないのです。これだけでも取り返せてよかった」

「あー、わりぃ。飯は全部取り返せたんだけどよー、腹空きすぎて食っちまった。すまん!」

 こちらも空腹だったので仕方ないが謝っておくべきだろう。

「いえ、貴方たちが食べたのなら誰も文句はございません。何かお返しできるものがあれば…」

「うーん、飯もらえれば別に何もいらねーけどそうもいかなさそうだなー」

 賞金稼ぎやら傭兵をしているのではない。旅をしていて偶然襲いかかってきた盗賊を返り討ちにしただけのこと。彼らを助けようとしてした行動ではないのだから感謝される理由はない。

 食料を買ってすぐ旅立つつもりだったがここでの補給は無理そうだ。とはいえ次に食料を手に入れられる村は近くにない。

 頭を悩ませていると、一人の村人が大声をあげて走ってきた。

「た、大変だー! 大盗賊団がここに押し寄せてくるぞー!」

「何⁉︎」

 村民たちは悲鳴をあげた。

「どうした? なんか来るのか?」

「西のムクル山を拠点にしている大盗賊団です。よくこの村に来るのは奴らの一派です。とても大きな勢力で、その気になれば小さな都市ぐらいなら攻め落とせるほどです…。彼らが動くのは決まって集落を滅ぼす時と決まっています…」

 村長は頭を抱えて応えた。他の者たちは恐慌状態に陥り、武器を構えたり家の中に逃げ込んだりした。この村の人口は約五百人。女子供まで武器を持たせたとしても勝負にならない。抵抗は彼らの逆鱗に触れるだけだ。

「旅人殿、早くお逃げください! できれば…娘だけでも連れていってくれると嬉しいのですが…」

「だってさ。俺らと一緒に来るか?」

 ノアは少女に問うた。

「…い、嫌よ。この村は私が生まれた場所。みんなを置いて逃げるなんてできないわ!」

 恐怖で拳を震わせながら彼女は覚悟を決めた。ならばノアが彼女を連れて逃げることはできない。

「ノア君、ユミルちゃん、ラミナスさん、貴方たちは逃げて」

 シーナは三人に一輪ずつ氷の花を手渡した。先ほど摘んできたものだろう。

「これ、友達の証。私たちがどうなるかわからないけどこれは私の代わり。貴方たちがどんな時でも笑顔でありますようにって祈ったの。一緒に冒険に連れて行って」

 その時、村の西側の入り口から荒くれ者どもの声が轟いた。ある村民は死を覚悟して神に祈りを捧げ、ある者は泣き叫んだ。村一つ簡単に飲み込んでしまうほどの暴力がその敵意を非力な者たちに向ける。誰も逃げられない。死か死に等しい貢物を要求される。男は殺され、女子供は奴隷にされる。各々の運命に恐怖しながら村人たちは迫り来る終わりの時を待った。

 村人全員が村の入り口に集められた。村長とその娘シーナがその前に立つ。盗賊たちは薄ら笑いを浮かべて彼らを見ている。

「最近、この村から納められる貢物が少なくなってやがる。お前たちは俺たちに貢物を納めることで生存を許されてるだけの家畜だ。生かされてることに感謝してたくさんの貢物を納めるのが筋ってもんだろうが!」

 先頭の男が怒鳴った。村人たちはその声に体を震わせた。

「し、しかしここ数年は凶作であまり作物を収穫できないのです。お願いします。もう少しばかり要求を軽くしていただけないでしょうか」

 頭を地面に擦り付けながら村長は懇願した。

 だが盗賊の答えはあまりに残酷であった。

「村の男全員を殺して女を奴隷にすれば搾り出せるだろうが。それができなきゃ今ここでお前らを殺す!」

「やめてください! みんな生きるのに必死なんです! もうこれ以上私たちから何も奪わないで!」

 シーナが立ち上がって叫んだ。彼女は恐怖で涙を流していた。それでもちっぽけな勇気を振り絞ったのだ。

「お願いします。私はどんな目にあってもいいから許してください!」

「なら…ここで服を脱げ。全員に見えるようにな」

 残忍で冷酷に男たちは笑う。

「できねえってんなら…」

 男はシーナににじり寄った。下品に顔を歪ませ、欲望のまま彼女の肩に手を置いた。シナは逃げることもできなかった。

 その瞬間、風が吹いた。次いで鮮血が舞い、男は倒れた。

 シーナの前に立ったのは一人の少年。茶色の髪を風に靡かせ、血の滴る長剣を握りしめている。

「俺の友達に手を出してんじゃねえよ」

 シーナは彼を知っている。

「ノア君…!」

「私たちもいるよ」

 ユミルとラミナスが建物の屋根から飛び降りて盗賊たちに斬りかかった。盗賊たちは突然の奇襲に驚き、風のような斬撃を受けて次々と倒れていく。その凄まじい武勇に男たちはたじろいだ。

「て、てめえら何もんだ!」

「俺はノア! お前らをこの村から追い出す!」

 ノアは剣を走らせる。彼の振るう二本の剣は目の前に立つすべての敵を容易く切り裂き、血だまりを作る。

 五人の男たちがノアを囲み、刃を振り下ろす。二本の剣でそれを受け止め、強引に押し返す。その隙を逃さず、反撃を浴びせる。五人の盗賊は血を吹き出して倒れ、絶命する。そして休む間もなく次の敵に襲い掛かる。

「う、うわああああ! こっちに来るなー!」

「俺たちじゃ敵わねえ! お頭を呼んで来い!」

 ノアは馬に乗り、逃げる盗賊たちを追いまわす。

「な、なんて強さだ…!」

 村人たちは百人以上の盗賊たちを防いでいるたった三人の勇敢な戦士に見とれていた。彼らならばもしかしたらこの村を守ってくれるかもしれない。そんな希望が彼らの中に芽生えた。そして村を、家族や友を守ろうとする心に火を宿した。誰からともなく武器を手に取った。

「俺たちも…戦わなくては…!」

「俺たちで村を守るんだ‼」

 村人たちは雄叫びをあげて盗賊たちに斬りかかる。村の出入り口はあまり広くない。数で劣勢とはいえ上手く立ち回ればどうにかなる。それに村人たちの戦意は高い。村長の娘が身を挺して村を守ろうとしたのだ。男どもがただ怯えているだけではいられない。また、鬼神の如き戦士が味方している。何より戦いに敗れれば女子供は奴隷にされ、男は殺される。どうせ死ぬなら希望のある方へと闘志を奮った。

 ノアたちの勇戦や村人の抵抗にたじろいだ盗賊たちの一部が逃走を始めた。彼らにとってこの村は数ある支配地の一つ。失ったところで大した損失はない。命を懸けてまでこの村を滅ぼす理由がない。

「に、逃げろ! こんなことになるなんて聞いてねえ!」

「し、死にたくねえ!」

 その時、刃が唸り、脱走兵たちを切り裂いた。

「おめえら…あんな素人どもにビビって逃げ出すのかァ? 俺よりあのチビどもが怖えんなら…俺が叩っ斬ってやる‼︎」

 彼らの行手に立っていたのは大剣を担ぐ巨漢。分厚い筋肉を誇り、血に飢えた獣のようにギラついた目で戦意を失った子分たちを睨んでいる。


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