ラフマート
宴会は終わり、四人は寝室へ案内された。貴賓をもてなすための高級そうな部屋だ。あちこち旅をしてきたがこんなに良い部屋に泊まるのは初めてだ。普段は安宿の小さくて硬いベッドで寝泊まりしている。
四人は一つの部屋に集まり、セシリアとの通話に臨んだ。やはり一コール目で通話に応じた。
「ノア殿、私、思いました。貴方のプロポーズの言葉、今すぐにでも聞きたいのですが…プロポーズはやはり面と向かってされたいので先ほどノイアフォードに向けて出発しました! 式やハネムーンはそちらで行うつも…」
ラミナスが通信を切った。
「…なんか凄い怖いこと言ってる…」
ユミルが青い顔をしていた。どうやらとんでもない言動の彼女に苦手意識を持ってしまったようだ。
再び掛け直す。
「セシリア。何も言わずに最後まで聞いてくれ。ライジス政府は支援金の半分を横領してる。できるだけ早く調査してほしい。そんで北スーディル王国からの支援金を半分減らして残りを直接ノイアフォードに送れるようにしてくれないか?」
「その件は半年前から調査しています。私の管轄ではないのですが。調査結果はほどなく出るとのことですが調査班が呆れるような事態のようです」
そういえばロクラスは支援金が少ないことに文句を言って同盟政府に調査を依頼していたのを思い出す。当時、ノアはラントフォードにいなかったので見ていないがラントフォード中の文官が調査のために走り回っていたそうである。
「それよりもなぜ北スーディル王国の支援金を減額するのですか? 支援金受取国が要請すれば可能ですがラントフォードに利はありません」
「んー、あんまり詳しく説明できないけど友達が困ってるから」
「なるほど。北スーディルの経済状況の困窮具合は我々も把握しています。加盟国からの追放を脅しに使えばライジス王は減額を受け入れざるを得ないでしょう」
「ありがとう! 助かるよ」
ノアは笑った。
彼女はしばらくの間無言だった。
「プロポーズは…?」
小さな声でセシリアが尋ねた。
「知らん。あと俺ら今ノイアフォードにいねえから来てもどうしようもねえぞ」
「…わかりました。調査の件、しかと承りました。事情は聞かないでおきます。次会う時はノア殿が是非私を妻にしたいと思えるよう花嫁修行に励みますので楽しみにしていてください!」
「…? ありがとう! 助かるよ。お前にしか頼めないんだ!」
ノアは通信を切った。
ノアたちは数日間北スーディルに滞在し、ラフマートについての情報を集めた。手に入れたのは四日後にラフマートで開催される大市場の競りの商品についてのチラシ。どんな人種が何人売り出され、いくらで売り出されるのかが書かれている。人間が四千名、巨人族一名、竜人一名、小人族百名、長脚人二名、多腕人一名、有翼族十名、エルフ三名、ドワーフ三名、宝石族三名、妖精二名、戦乙女二名、狂病族一名。過去一番の品揃えだという。これでこそ暴れ甲斐がある。
三日後、セシリアから連絡が来た。
「お待たせしました。調査の方は完了しました。元からライジスには支援金の横領疑惑があり、調査中だったのでそれを引き継ぎ、完了させました。正式な決定は下されていませんがお望みの結果をお約束します」
にこやかにセシリアが言った。
「ありがとう! さすがセシリア! 頼りになる!」
「ふふ、これくらいならいくらでもお任せください。夫を支えるのが妻の役目ですから」
「よくわかんねーけどありがとうな!」
ノアはセシリアとの会話の内容をレイシアに伝えた。レイシアは床に膝をついて深く息を吐いた。
「…なんとか…首の皮一枚繋がりました。本当に…ありがとうございます」
彼女は頭を下げた。
「気にすんなよ。俺たち友達だろ。困った時はお互い様だ」
ノアは彼女の手を引いて立たせ、笑いかける。
「俺たちはもう行くよ。仲間たちを助けに行かねえと」
「待ってください。ラフマートは人類世界同盟公認の奴隷市場。帝国の属国であるミズラエタ公国が運営する施設です。手を出せば終わります! 悪徳商人を斬り殺して終わる話でもないのですよ!」
そう言ってレイシアがノアを止める。ミズラエタ公国自体の軍事力は大したことがない。しかし手を出せば同盟の軍が起こされることだろう。
「わかってる。わかってるつもりだ。世界と喧嘩するつもりでここに来た」
ノアはきっぱりと返した。彼の仲間たちももう腹を括っている。
レイシアは説得は無駄だということを悟った。世の中には常識や論理で動く者たちだけではなく自分の理にのみ従って生きる者たちがいる。覚悟を持ってここまで来ているのだろうから今更諭しても意味のない話である。
彼女は微かに笑う。
「そうですか。貴方は自由に…どこまでも歩いていくのですね。きっとそれは貴方にしか歩めない旅路。もし私に手伝えることがあれば何でも言ってください。必ず貴方の力になります」
四人は北に向かい、国境を越えてミズラエタ公国に入った。そこから少し北に行ったところにラフマートがある。驚くほど大きな建物で、周囲にはあちこちから来たのであろう馬車が停まっている。荷物や商品を運んできたような粗末な馬車もあれば貴人の送迎に用いられるような高級な馬車もある。
無言でラフマートに近づこうとしたノアをラミナスが肩を掴んで止めた。
「ノア様、どうやって奴隷たちを解放するか策は考えてありますか?」
「考えてねぇ! 突っ込んでぶっ壊すだけだ!」
ノアは走っていく。
「確かに! ってアホか!」
ロイトも走り出し、ノアを追った。その様子を見てラミナスとユミルは大きなため息を吐いた。止めるのも疲れてきた。止めても止まらない。死なない程度に好きにさせておけばいいという結論に至った。
「あれは放っておきましょう。馬鹿が騒ぎを起こせば私たちが動きやすくなる」
「あはは、そうだね」
二人はその場を離れた。




