北ス―ディル王国
四人は南スーディルを抜け、北スーディルへ入った。騎士の街として知られている王都レンヴェスタで一泊することに決めた。南スーディルと建物は同じだが街を歩く騎士たちが多かった。魔術を使う者はあまり見ない。南スーディルに比べて少し厳格な空気が流れる国だ。妹王女レイシアの人柄がよく分かる。
思えばいつも目的のない旅をしていた。放浪癖のあったノアだったが彼の旅は常に目的を持たずに揺蕩うように各国を巡り、出会いと別れを繰り返してきた。そして思い立ったようにノイアフォードへ帰る。ノイアフォードの住人はノアが旅で出会ってきた者たちばかりだ。
武器を集める奇癖に導かれて武器屋を探した。裏通りに入ると何やら怒号が聞こえてきた。何人かの男が叫んでいるようだ。声を頼りに近づいていくと五人の鎧を着た男たちが一人の少女を取り囲み、怒鳴りつけていた。彼らの顔は赤く、呼気は酒の臭いがした。
「別に死ねって言ってるわけじゃねえ。ちょっと俺たちの相手してくれって言ってるだけじゃねえか!」
「お前らが安心して暮らせるのは俺たち騎士が国を守ってるからだろ? 騎士様への感謝はなしか?」
フードを深く被って顔を隠している少女は首を横に振って後退りした。腹を立てた騎士の一人が彼女に向かって拳を振り上げた。次の瞬間、男は吹っ飛んで建物の壁に激突して気を失った。
「誰だ!」
そこに立っていたのはノア。他の三人と逸れてしまった。
「お前ら、あっち行け。あと武器屋の場所教えてくれ」
四人の男たちは剣を抜き、一斉に切り掛かってきた。ノアは剣を抜かなかった。相手は多数だが大して強くない。わざわざ剣を抜くまでもないと思ったからだ。問題事は起こすなとラミナスからきつく言い聞かせられていたし。一瞬で相手の懐に潜り込み、顎を強かに殴りつける。鈍い音がして男とノアが悲鳴を上げてその場に転がった。
「いったああああ!」
ノアは拳を抑えた。鉄の武具を素手で殴ったのだから当然である。剣を抜き、残り三人に斬りかかる。ノアの剣術は凄まじく、あっという間に三人を気絶させた。
「あ、ありがとうござ…」
「やっちまった! ラミナスに殺される!」
頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「ま、いっか。バレなきゃ問題ねーか。おいお前、無事かー?」
思い出したように少女に声をかけた。
「は、はい。お陰様で。助けていただいてありがとうございます。お礼に武器屋に案内させてください」
「マジで⁉︎ お前いい奴だな! ありがとう!」
少女はノアを連れて武器屋へ向かった。到着したのはこじんまりした武器屋。入店すると無愛想な店主がこちらをちらりと見た。
「ここはいい店です。きっとお気に召すでしょう」
ノアはいろんな武器を見た。剣、槍、斧、鎌、矛、様々な武具があった。彼女の言う通り、良品ばかり置かれていた。さすがは王都の武器屋。小遣いはたくさんある。店の武具の半分くらいは買っていける。
「立派な剣を持っているようですが武器を集めるのが趣味なのですか?」
「まーな。お、これにしよう」
数十本の武器を店主の前に置いた。
「これくれ!」
店主はノアが選んだ武器と彼の顔をまじまじと見つめた。参ったとばかりに唸り声をあげ、ノアに言った。
「あんた、名前は?」
「ノア」
やはりと男は笑う。
「道理で武器を見る目がある。これまでたくさんの戦場を越えてきたようだ。なぁ、ラントフォードの若き英雄」
「!」
何より驚いたのはフードを被った少女だった。ノアの肩を掴み、顔を覗き込む。目を大きく見開いている。
「本物ですか?」
「本物だよ。失礼だなー。ま、英雄じゃないけど」
ノアは会計を済ませ、店を出た。ラミナスから着信が来た。
「もしもーし」
「ノア様、どこにいるのですか! なんですぐにいなくなるんですか貴方は!」
「武器屋で武器買った。どっかで合流しようぜ」
近くの酒場を集合場所に定め、そこへ向かった。ノアは購入した武器に手を触れた。すると武器たちは姿を消す。ノアが使える魔術は一つ。自分の所有する物を遠く離れたノイアフォードの蔵に送ったり取り出すというものだ。戦闘に使えるようなものではないためあまり使ってはいない。つい最近になって荷物をそこに収容すれば身軽に旅ができることに気がついた。
「ありがとな。えーとお前、名前なんだっけ?」
「…レイです。お礼には及びません」
二人は酒場に入り、先に待っていた三人と合流した。
「ノア、その子誰だよ」
ロイトが茶を飲みながら尋ねる。
「レイだ。俺の友達! いい奴なんだ」
ノアは笑った。椅子に腰掛けて注文する。
レイはノアにたくさんの質問をした。旅の話、街の話、戦いの話。ノアは答えられる全てに答えた。彼女はノアの旅に興味を持ったようだ。
「貴方は本当に自由なのですね。とても羨ましい」
「じゃあお前も一緒に冒険しようぜ。楽しいぞ!」
いつものように誘いの言葉をかける。だが少女は首を横に振った。少し俯き、ノアに言った。
「ごめんなさい。私はこの地で守らなければならないものがあります。なので貴方たちと共に行くことはできません」
「そっか。気が変わったら言えよ。今日は俺たちの奢りだ。好きなだけ食って飲め!」
ノアは両手にグラスと肉を抱えて叫ぶ。
ノアとロイトは大笑いしながら食事をする。気が合う友人同士、話は盛り上がった。ユミルたちも楽しそうにしていた。
「あははははははは!」
次々に食事が運ばれてくる。笑い、語り、騒ぐ。小さな宴会は数時間にわたって続いた。店の食糧庫を空っぽにしたところで宴会は終わった。レイも楽しんだようで微笑みを浮かべている。
そこに一人の男がやってきた。背丈はそこまで高くないががっしりとした体躯をしている。男はレイを見つけると恭しく跪き、頭を下げた。
「探しましたよ。お忍びの際は護衛をお付けするので仰せくださいとあれほど申し上げているではないですか、陛下」
「すまない。どうしても一人で考えたくてな」
少女はフードを外し、立ち上がった。
「え? 陛下?」
四人は彼女の顔を見た。彼女はノアの顔を見て少し頭を下げた。
「騙してすみませんでした。私は北スーディルの王レイシア。王城で少しお話しませんか? ラントフォードの若き英雄」




