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ひとまずの勝利

「ノア様!」

 ラミナスが叫ぶ。魔族たちは彼女の周囲に集まり、その身を生贄に彼女の動きを封じた。流石のラミナスも自身の死を前提で抑えてかかってくる敵を対処するのは簡単ではなかった。纏わりついてくる魔族を炎の槍で焼き、新手を斬り殺す。

 セシリアも剣を振るい、統率個体の脇腹を切り裂く。しかしそれは致命傷に至らず、反撃を受け、吹き飛んだ。

 彼女の体はボールのように吹き飛び、地面に倒れ伏した。

「ぐっ…」

 そこにたくさんの魔族たちが押し寄せ、飛び掛かった。

「将軍を救え!」

 帝国兵たちは必死に将軍を救おうと突撃を仕掛けた。訓練と実戦によって鍛え上げられた精兵だが統率個体に阻まれ、次々に倒れていく。

「うっ…」

 セシリアはふらつきながらも立ち上がり、周囲の魔族を斬り伏せる。しかし魔族は捨て身で彼女に掴みかかり、押し倒す。

「離しなさい…!」

 彼女は必死にもがく。

「手伸ばせ!」

 少年の叫び声が戦場を駆け抜けて彼女の耳に届く。さして大きな声でなかったはずなのになぜか何よりもはっきりと確かに聞こえた。誰の声かわかるよりも早くとっさに手を伸ばした。一人の騎士が彼女の手を握り、強引に馬上に引きずりあげる。

「ノア殿...」

「大丈夫か?」

 茶髪の青年が言った。

「は、はい。大丈夫です…。それより貴方は…」

「…頭打った。でも…行ける。何とかなる」

 他の隊が統率個体に襲い掛かる。しかし周りを固める魔族は強く、兵士たちの攻撃は阻まれていた。

「行け! あと少しだ!」

 カストルが馬の背を蹴って跳び、統率個体を斬りつける。鋭く、激しい一撃だった。致命傷に至らなかったものの右目が潰れ、鮮血が噴き出す。それ以上の攻撃は棍棒に阻まれ、届かなかった。リケとユナが無理矢理接近し、注意を引きつける。

 リハーが敵の両足を掴み、押さえつける。彼を叩き潰そうと振り下ろされた棍棒をレナードが受け止めた。お膳立ては十分だ。後はとどめを刺すだけだ。ユミルたちが道をこじ開ける。ノアはその道を駆け、敵の首めがけて鋭い突きを放った。

 衝撃が体を駆け抜け、ノアの視界が大きく変わった。こちらを見上げる統率個体と地面。自分が奴によって空に打ち上げられたと理解するのにそう時間はかからない。統率個体は棍棒を振り上げ、ノアを叩き落とそうとした。ノアも二本の剣を構え、落下する。勝負は今、この瞬間に決定する。

 竜巻のように刃が走った。そして血が舞った。

 両者、大地に在った。そして大地に伏し、死者の列に加わったのは魔族の巨漢だった。

 落下しながら剣を高速で走らせ、棍棒ごと敵を輪切りにして見せた。大量の血を流し、統率個体は絶命する。

「よっし!」

 ノアは勝利に湧くことなく他の魔族の間をすり抜けてシャディーンの背に戻った。敵将は討ち取った。統率者を失った敵は敗走していく。逆にラントフォード兵は士気を上昇させ、更なる攻勢に出た。

「ノア様、お見事です」

「ああ、ありがと! お前の扱きのほうがよっぽどきついぜ」

 従者に軽口を叩き、走る。傷はもう治ってきている。ミラの予測通り、左翼と戦っていた魔族軍は一目散に南へと逃げだした。左翼軍は半数が逃げた敵を追い、残りは中央軍の救援に向かった。

 ノイアフォード兵は中央軍と交戦している敵の側面から奇襲を仕掛けた。

 中央軍も正面から魔族にぶつかり善戦していた。

「おおおおおおおお!」

 ロクラスは戦斧を振りかざし、魔族たちを屍に変える。彼は先頭に立ち、統率個体に向けて突撃を行った。

「親衛隊、ロクラス様を援護!」

 親衛隊長マイヨは親衛隊を指揮してロクラスの突撃を支援した。ロクラスは難なく統率個体の元まで辿り着き、斧を振り下ろした。統率個体は棍棒でそれを受け止めた。しかし体が重くなっていく。

 ロクラスの攻撃が絶え間なく叩きつけられる。棍棒は破壊され、統率個体は丸腰になった。仲間を予防にも他のラントフォード兵が寄せ付けない。

「死ね。怪物」

 斧が巨体を両断した。

 ロクラスは更なる突撃を命じた。



 右翼も圧倒的な劣勢の中、将軍ワンティンの指揮の元、善戦した。

「中央は敵の突撃を引き付けながら後退。左右の隊は前進。統率個体を突出させるのだ」

 兵たちは興奮状態でありながらもよく指示に従った。統率個体はワンティンの旗を目掛けて突撃を行った結果、ラントフォード軍の巧みな誘導によって敵陣深くまで入り込んでしまった。

「退路を閉じろ」

 ラントフォード兵は統率個体とその周囲の魔族を包囲し、孤立させた。そして遠くから弓矢や魔術による攻撃を行い、徐々に削っていった。

「ラントフォードを舐めるな!」

「殺せ殺せ!」

 魔族たちは次々と倒れ、そして統率個体だけが残った。統率個体は敵を殺すべく勇敢にワンティンの元へ目指したものの、集中攻撃を受けて倒れた。

ラントフォード軍の攻撃力と機動力、そしてミラの指揮によって魔王軍は瞬く間に打ちのめされ、潰走を始めた。

 右翼には北からの援軍が到着し、魔王軍を包囲して殲滅した。

「左翼の部隊は負傷者を連れて退却しろ! 残りは全部儂に続け! 魔王軍に追撃を仕掛ける!」

 一万五千騎が追撃に参加した。ノアたちももちろん先頭で魔王軍を追っている。ノアの後ろにはまだセシリアが乗っていた。

「ノア殿、どうして危険を冒してまで私を助けてくれたのですか?」

「お前は俺の仲間だ。この手が届くところにいるなら絶対に助ける。だからやばそうな時はいつでも言ってくれ。助けにいくから」

「…!」

 ノアは笑う。

「ありがとうございます」

 セシリアはノアの腹に手を回す。

 シャディーンが嘶いた。

「ていうかお前、いつまで乗ってんだよ。自分の馬に戻れよ。シャディーンが文句言ってんぞ」

「いいではないですか、少しくらい」

 愛馬が再び鳴き声を上げる。ノアに降りろと言っている。

「え、俺が降りるの? やだよ。お前、ほんとに俺の馬だよな?」

 

 

 ラントフォード軍の勢いは凄まじく、あっという間に魔王軍を追い払い、領土を奪還した。それでも追撃は終わらず、日が暮れるまで追撃を続けた。魔物の軍が守る砦を攻略し、二百年前まで人類領だった土地の一部を奪還することに成功した。砦攻略戦の先頭に立ったのはノイアフォード兵だ。ミラの指揮により瞬く間に砦を陥落させ、城壁にはノイアフォードの旗が舞っていた。

 かくしてラントフォード軍は魔王軍を退散させて領内に束の間の平穏をもたらし、国内外に武勇を示した。そして魔王領の奪還を果たした若き英雄の誕生に全人類は歓喜に湧いた。ロクラスの養子ノア。その名は各国に伝わり、希望をもたらした。そして彼の配下となった千年元帥の称号を冠する大将軍ミラ。彼女が再び歴史の表舞台に姿を見せたことに誰もが驚いた。

十億の人類の中で僅かな者たちだけが気づいていた。暴走する潮流、誰にも止められない時代の激流に。


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