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ラントフォードの軍兵

 ノイアフォード軍千騎のうち八百騎はすぐさま出撃準備を整え、南のヴァンティーユ城塞に向かった。残りの兵や予備兵には住民の避難の準備をさせている。もし戦いに敗れるようなことがあれば彼らが住民を連れて北へ逃れる手筈になっている。

 騎兵たちが戦場を目指して南へ走る。

「あれ、なんでお前いるんだ?」

 ノアの隣には百騎の帝国騎兵を率いるセシリアがいた。

「私は世界同盟の盟主国の将軍です。どこであろうと魔王軍の侵攻を受けているのなら助力するのが私の役目。寡兵ですが助太刀させていただきます!」

「ありがとう!」

 情報によると、ヴァンティーユ城塞には五千名の兵士がいる。それを三万の魔王軍が包囲しているという。三万もの大群が一度に攻め寄せてくるのは稀である。普段は数百から数千の群れである。ロクラスは直下兵五千名を率いてその救援に向かい、他の兵も準備が整い次第、出陣する予定らしい。

 ヴァンティーユ城はここからあまり遠くない。三十分もあれば到着できる。兵士たちの戦意は高い。

 やがて魔王軍に攻められているヴァンティーユ城塞が見えた。城兵はよく戦っている。地面や空から襲い掛かる魔物を防いでいた。

 ノアは剣を振り上げて叫ぶ。

「俺たちの力見せてやれ! 行くぞノイアフォード!」

 ノイアフォード兵は雄叫びをあげた。矢や魔術を放ち、遠距離から魔王軍を攻撃する。突然の攻撃に魔王軍はダメージを受けた。何度かの遠距離攻撃を叩き込んだあと全力で突撃した。

 魔物が吹き飛ぶ。絶叫を上げながら魔物の体の一部が切り裂かれ、無慈悲に踏み潰される。ノイアフォード兵の強さはミラやセシリアの想像をはるかに超えていた。魔術や武器が絶え間なく魔物を穿つ。一人一人が人間離れした武力を持っている。自分より何倍も大きい魔物も何ともないように斬り捨てる。

「ぎゃはははは、弱い弱い! もっと強い奴はいねえのか!」

「もっと殺させろ!」

 兵士たちは敵の血を浴びて叫ぶ。

 ノアも先頭で双剣を振るい、目の前の魔物を次々屠り去る。その勇姿を見て兵士たちも更に勢いづく。全員が各々思うように戦っているように見えて連携が取れている。誰一人として取り残されることなく分厚い敵の部隊を食い破った。ヴァンティーユ城の兵は門を開き、ノイアフォードと帝国の兵を招き入れた。

「はっはっは! 暴れた暴れた! 全員いるかー?」

 ノアは愛馬の背から降りた。

「ウィクトリア隊! 生存者数を報告せよ!」

 親衛隊ウィクトリアの総隊長レナードが各小隊長に命じた。

「カストル小隊、全員いまーす」

「リケ隊、同じく」

「ユナ隊もまあ全員いるんじゃないですかね」

「リハー隊も全員いるよ」

 他の小隊長たちも全て隊員たちの生存を報告した。通常のノイアフォード兵もほとんどが入城に成功していた。

「あれくらい楽勝っすよー。ウォーミングアップにもなりませんでしたよー」

「私たちまだ出番ありますよね?」

 兵士たちはまだ戦い足りないようである。彼らにとって獣を狩るのも魔物を狩るのも大した差はないのだ。

「大丈夫。父ちゃんの本軍が到着したら本番だ! 好きなだけ暴れさせてやる」

 魔物の血で真っ赤に染まったままノアは笑った。

「し、死ぬかと思った…」

 ロイトがその場に倒れ込む。ここまでの激戦になるとは思っていなかったらしくぐったりしている。ノアの後ろで剣を振るっていたようで、ノアらに劣るがたくさんの魔物を討伐していた。

「若様でごさいますか?」

 後ろから野太い男の声がした。振り返ると二メートルを超える背丈の大男が立っていた。彼はヴァンティーユ城城主の将軍ワンティン。ロクラスの幼馴染で初陣の頃からロクラスと共に戦い、彼からの信頼は厚い。ノアのことも気に入っているようで会いに行けば小遣いをくれる。

「ワンティン! 久しぶりー! 元気にしてたかー?」

 ノアは彼の元に駆け寄った。

「おかげさまで。そちらもご健勝のようで何より。またやらかしたようですね。全く、ロクラスの胃に穴が開く日もそう遠くはないでしょう」

 大男はノアの前に跪いた。

「父ちゃんの胃に穴が開くくらいでたくさんの人が救えるならそれでいい! 安いもんだ!」

「はははははは!」

 二人は大声で笑う。ラントフォード領主ロクラスの親友と息子。二人には似通ったところが多い。二人ともロクラスには多少迷惑をかけても問題ないと考えている。ロクラスにとっては災難な話だが彼らには関係ない。もっともロクラスも政務や面倒事を官僚に丸投げすることが多く、ストレスとは無縁の生活をしているのだが。

 そんなワンティンの大笑いが急に止んだ。彼の目は馬を撫でているミラの姿が映っている。

「若様、そちらのお方はまさか…」

 途端に声が小さくなる。

「ああ、ミラだ。ワンドマリガで仲間にした。自称千年元帥だってよ!」

「えええええええええ⁉︎」

 ワンティンは目を飛び出させて驚いた。腰を抜かし、叫ぶ。

「ほ、本物―⁉︎」

「偽者の可能性もちょっとあるな」

「貴方失礼ですね?」

 ノアとセシリアの兵は本軍が合流するまで休むことに決めた。ノア、ミラ、セシリアは北の望楼で戦況を見た。ミラとセシリアは絶え間なく続く魔物たちの攻撃を押し返すラントフォード軍のあまりの強さに何度も感嘆した。

「強いだろ、ラントフォードは」

 ノアは笑う。彼らと共に何度も戦場を駆け抜けた。最初はノアを認めなかった兵士たちも彼の勇敢さを認め、彼の他にロクラスの後継者なし、とまで言うようになった。ラントフォード軍は常に死と隣り合わせの戦いを行っている。だからこそ共に血を流して戦う者を大切にする。

「ラントフォード軍の総数は?」

「んー、四万くらい。ほとんどが騎兵だな。戦線が広いからあちこち走り回らねえといけねえし魔王領付近以外は遊牧民族だし」

 ラントフォード軍は兵士だけでなく将軍も優秀な者が多い。将にしろ兵にしろ無能で弱い者から死んでいくからだ。ロクラスの右腕にしてヴァンティーユ城塞城主ワンティンをはじめとして有力な将軍がラクラスを支えている。ノアの配下レナードもラントフォードの一兵士だった。レスターフォード奪還作戦の際にノアと知り合い、戦後、彼に勧誘され、ノイアフォードの将になった。

「ラントフォードは遊牧民族ですからね。しかし魔王領の拡大に伴い、各部族はライジスの助力を得るために王国へ帰属し、最も力のあった部族の長が領主に任命されました」

 ミラが言った。

「詳しいのですね、ミラ将軍」

「ええ、先の大戦ではラントフォード軍が勝利のカギでした。彼らの高い攻撃力、機動力、戦術、柔軟性が何に由来しているのか気になったもので調べたのです」

 四年前の大戦ではラントフォード軍はいつも危険な戦場にいた。最も多くの敵を討ち、多大な武功を挙げた。その割にラントフォード軍の戦死者が各国軍の中で最も少なかった。その強さは各国の知るところであり、ワンドマリガが一地方でしかないラントフォードに対して強気な態度を取れないのはそのためだ。

 休むのに飽きたノアは仲間たちと城壁の戦闘に加わった。矢を放ち、城壁を跳び越えようとするの魔物を狙う。

「くたばれ!」

 ノアが放った矢は明後日の方向に飛んでいった。

「惜しい!」

「惜しくねえですよ! 全然当たる気配なさそうですけど⁉」

 再びノアは攻撃するが全て外れた、

「もうやめてください! 矢の無駄です!」

「うおおおお! 次は行けそうな気がする!」

「オイ誰か止めさせろ!」

 仕方なく地上の魔物に剣を投げる。その剣は数体の魔物を切り裂き、吹き飛ばしてノアの手元に戻った。ノアはしばらく無心で剣を投げ続け、多くの敵を葬った。

 だがラントフォード軍は守勢での戦いを不得手としている。城での戦いも気風に合わない。城壁のあちこちが魔物に占領された。歴戦の将ワンティンも援軍の到着に合わせて出撃し、合流して野戦を挑むつもりであった。

そうしているうちにロクラスの本軍が到着した。包囲の外側から近づいてきている。

「よっしゃ、待ちくたびれた! 行くぞ!」

 ラントフォード軍は城門を開き、突撃を開始した。

 盛況を誇るラントフォード軍の突撃は熾烈を極めた。弓矢と剣・槍を使い分け、突撃と退避を切り替え、強引に巧妙に戦いを進める。外と中からの攻撃により、北側の魔物の群れは粉砕された。

「父ちゃーん!」

 北からやってきた援軍の先頭にいる男にノアは手を振って駆け寄った。黒馬にまたがった恰幅の良い男。右目は眼帯で隠され、残った左目でノアを見た。

「ノアか! 貴様、また友達を連れてきたようだな。小うるさいワンドマリガめがなにかほざいておるではないか」

「わり」

 ロクラスの鉄拳がノアの頭頂部に叩き込まれた。ノアは鼻血を吹き出し、頭を抑える。この養父はよく暴力を振るう。

「喧嘩するなら二度と立ち上がれんくらいにぶちのめせとといったじゃろうが! あ、そうだ、言い忘れたがお前のとこに帝国の将軍が行くらしいから準備しておけよ」

「もう来てるよ!」

 再び拳骨がノアの頭頂部に落ちる。

「一回帰らせてまた来てもらえ。それで問題なかろう」

 籠手を着けたままロクラスは鼻をほじった。

「あ、そっか。父ちゃん頭良い!」

「伊達にラントフォードの馬鹿どもの大将やっとらんわ!」

「あははははははは!」

「はははははははは!」

 二人は笑った。ノアが彼に拾われてから十年近く。ノアには放浪癖のあるため共に過ごした時間は少ないがそっくりな二人である。

「ラントフォードの人間はみんなこんな感じなのですか…?」

「そんなわけないよ。半分くらいはまともだよ」

「半分はまともではないのですね…」

 ユミルとセシリアは苦笑した。ユミルは普段からノアの無茶に付き合わされている。おかげで退屈はしないがストレスは溜まる。たまにストレスを爆発させてノアを殴って解消している。


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