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3・お試し奇跡

「ようこそ、おいでませ、我が居城へ!

 兄弟!」


「病院で騒ぐな」


その場でぴょんぴょんと跳ね回り、伸ばしきった髪と両腕を振り回す変人。

そして変人の叫びに白い目を向け…俺を見て、そそくさと離れていく周囲。


いつも通りだな。

何もしてないのに、警察を呼ばれたり職質を受けたりするからな。

面倒事にならないならそれで良い。


ここはあずま総合病院。

目の前で騒いでいる変人の両親が経営している大きな病院だ。

俺と変人が産まれた場所であり、腐れ縁が始まった場所でもある。

結構な頻度で変人に引っ張られてボランティアに強制参加させられたから院内のスタッフルームまで把握している。


そして俺達の学校から近い事もあり、魔法で廃人になったクラスメイトが全員、そろっている場所だ。


「さぁ、兄弟!

 準備はできているぞ!

 奇跡を起こしに行こうじゃないか!」


「うるさい」


ここに来た訳。

それは廃人になったクラスメイトを治す為に来たのだ。


変人が言うには魔法で壊れた精神は魔力に変換して俺に吸収させてしまったから元に戻せないらしい。


その壊れた精神の残骸で俺に好意を持つという馬鹿げた命令を実行しようとした状態が今だに続いたままだと言う。

このままだと日常生活は送れず、永遠にベッドに拘束され殆ど寝たきりのまま一生を過ごすだろうと変人は断言した。


そこで変人は提案をしてきた。  


まずは魔法を解く。

そして人格も記憶も元には戻せないが、成熟した身体に産まれたての赤ちゃんの精神を上書きし初期化する。

そうすれば時間はかかるが日常に復帰できるようになる。

それが変人の提案であり、見解だ。


一生をベッドの上で過ごす生活とまっさらな状態で第二の人生を始めるか、どちらを彼女達に与えたいか。

それを変人は俺に委ねてきた。


魔法は変人が俺に触れていないと使えないらしい。

つまり俺が彼女達の元まで行かないと何もできないらしい。


以前のクラスメイトの人となりを覚えてはいないが一生をベッドで生活するより断然、普通の生活を送れる選択肢の方を彼女達も望んでいるだろう。


変人が騒いで彼女達の身内の恨みが俺に向けられても面倒だし、俺は彼女達の初期化を望んだ。

精神的な死は免れない解決だが廃人で終わるより良いと思いたい。

被害に遭ったクラスメイトの身内からどちらにしろ恨まれそうだが。


彼女達を治す治さない、どちらににしろ面倒事に巻き込まれるなら後味が良い方を選びたい。


その為に俺は彼女達が入院している病院へとやってきた。


ちなみに赤ちゃんの精神を全員に上書きする魔力は彼女達の精神を破壊して得た魔力で補えるらしい。

魔力とはなんなのか今一度聞きたい気持ちもあるが聞くのが面倒なので変人が勝手に説明するのを待とう。


今は面会謝絶らしいが変人が手を回していたらしく止められる事もなく目的の場所に辿り着いた。


大部屋にベッドを並べて拘束された14人のクラスメイト。

無言だが顔は全員、俺達の方を向いており、ガタガタと拘束を無視して動こうとしていた。

ふわりと血の香りがする。

よく見れば拘束している布が赤く、手足の素肌が紫色になっていた。

鬱血や壊死と言った言葉が浮かんだ。

拘束を無視して無理に動こうとして怪我をしたようだ。

確かに、これでは日常は送れるとは思えない。

まずは彼女達の魔法を解いて動きを止めなければ手足を切り落とさないといけなくなるだろう。


「おい、俺は何をすればいいんだ?」


「頭を掴んでくれ。

 兄弟が触れれば魔法の精度が上がるからな」


そう言って変人は俺の手を女子の頭へと持っていたからそのまま乗せた。

俺の手の上にさらに変人が手を重ねてブツブツと何かを唱えていく。

すると数秒とかからず無理に動こうとしていたクラスメイトがピタリと止まった。

紫色になっていた肌がみるみるうちに綺麗な肌に変わっていく。


「ケガも治したのか。

 魔力は足りるのか?」


「ふふ、兄弟。

 心配するな。

 魔力はうちの病院に居る患者を全て治しても余るさ」


それなら大丈夫か。

手をどかすとクラスメイトは静かに寝ているように見える。


「今は深い眠りに入っている。

 騒がない限りは起きないぞ」


「そうか」


それから俺達は手を繋いだまま、次々とクラスメイトの壊れた精神を上書き、傷を治した。

そして静かに病室から出た。


「よし、次にいくぞ」


「は?」


こいつは何を言っているんだ?


「おいおい、兄弟。

 忘れたのか?

 俺達は奇跡を起こしに来たんだぜ?

 既に治せる範囲の患者はリストアップした。

 その中から同意を得た患者から治すぞ!」


あぁ、神になるってそういう事か。

魔法で傷を癒して、金を得ようって訳か。

絶対に面倒な事になる。


だけど今、向かって居る場所を思うと断る選択肢は取れない。


俺はこの先をボランティアによく来ているから知っている。

難病を抱えた子供達の病棟だ。

毒を食らわば皿まで、か。


「分かった、早く済ませる」


「うひひ!

 流石、兄弟!

 察しが良いな!

 奇跡を起こしに行こうぜ、兄弟!」


はぁ、絶対に面倒な事になるぞ。

それでもクラスメイトよりも知ってる子共を見捨てる選択肢を俺は取る事ができなかった。

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