25話:旅立ち‥
ルビナはエメクに急に話しかける。
「ねぇ。」
まだ余韻に浸り、エメクはルビナを抱きしめ頭を撫でていた。
「ん?」
おでこにキスしながらエメクは言う。
「逃げよう!」
エメクが飛び起きる。
「ドラゴン倒した戦利品、ヴェーゼ王国の潜入任務の戦利品。これがあったら働かなくっても食べていくくらいのお金にはなるわよね?これで、別の町や旅だって出来る。逃げよう!この国から!」
「そうなると冒険者として冒険者ランクも関係なくなるが‥」
「そんなの必要ない!他の町で偽名を使って冒険者になればいいし、冒険者として生きていかなくても、人の為になる事は出来る。」
「孤児院のみんなや、ギルドには申し訳ないけど、逃げよう!私はエメクと居たい!離れるなんて考えられない。」
そう言って涙ぐませて言った後、エメクの胸に飛び込んだ。
「俺もそうしたい。ルビナと何気ない毎日を送りたいから。約束したから。‥逃げよう!まだ朝日が昇る前に出発しよう!」
「うん!」
ヴァイゼ王国で育って、孤児院にも感謝していて、この街で恩返しをする人生なんだと思っていたが。
この国にはもう二度と来る事はないと決心した。
「まず、どこへ向かう?」
「ルーイネンの町へ護衛した任務の帰りに、『ハイター』って町の商人に出会ったの覚えてる?
港町って行ってた。そこを目指さない?」
「場所がわかんないなぁ。とりあえずルーイネンの町で聞いて向かう事にしようか!」
「うん!そうしよう!」
ルビナに笑顔が戻った。俺はこの笑顔が大好きだ。守りたいこの笑顔。
「さぁ、出発しよう」
私達は宿屋の二階の窓から出発した。秒速で走り、ヴァイゼ王国を後にした。
一方城の中ではエメクが来ていないと騒めいていた。
ただの冒険者だし、約束を守らない事もあるんだろう。‥で片付いた。エメクは寛大に許された。
この事はギルドにも知らされたが、「逃げたんだろう。またひょっこり戻って来るさ!」と言っていた。
誰にもついて来られない程の距離を広げたので、二人は休憩をとることにした。
部屋にあったパンとエメクの水魔法で出した水。
「エメク汁美味しい!」
「それキモイからやめて!」
と言ってエメクはルビナの顔めがけて水魔法をかけた。
「きゃー!‥あはは!気持ちい!もしかして水浴びも出来る?」
「出来るけど‥火力調整するの難しいんだぞ。」
「いっぱい走ったから水、浴びたい!」
「え?もしかして脱ぐ??」
「うん、脱ぐ。」
「だめだ!お兄さんは許しません!お外で裸になってはいけません!」
「ちぇーっ。」
「私達、もう冒険者でもなく、『普通』の人なのよね。自由で、好きな所へ行って、誰にも何にも邪魔されずに、こうしてエメクと二人で『何気ない幸せ』を堪能してるのよね?」
「うん。孤児院に居た頃は、俺すっごく窮屈に思ってたんだ。
だから冒険者になって自由になりたいと思ったんだ。でも、冒険者も、なんだか人の目や噂ばかりが先をいって、俺の見た目だけで、俺を何も知らないくせに擦り寄ってくる毎日でさ。男も俺を敵視する。
結構つまらない毎日を送ってた頃にルビナに出会った。酒場でのルビナは俺の顔一切見ないんだ。俺に興味のない女が珍しいと思った。そんで危なっかしくてさ。そしたらいつの間にか好きになってて、離れたくない存在になったんだ。
同じ孤児院の出で、本当の愛とかよくわからない俺達は俺達なりに模索してるんだよな?」
「うん。でもエメクはいつも真っすぐに正直に言葉にしてくれる。」
「だって言わないと伝わらない。冒険者はいつ死ぬか変わらないから、後悔はしたくないだ。あの時言っていれば‥とはなりたくないんだ。失うのが怖い。俺は、ルビナを絶対に失いたくない。」
ルビナはエメクの頭をよしよしして抱き合った。
「私はどこにも行かないよ。ずっと側にいる。だから大丈夫。海の見える丘に住んで、毎日エメクに朝ごはん作って、起こしに行くの。『朝ごはん出来たわよ~』って言うの。一緒に食卓に着くの。毎日。」
「いいなぁ!海の見える丘に家かぁ!」
「旅しながらそういうとこ見つけよう!」
「うん!」
数日後、港町ハイターに到着した。機械仕掛けのギミックがあったり不思議な町だ。
見た事も無い装飾品が立ち並ぶ。魔導書や図書館もあり、錬金術の研究、魔法学といった時代を先駆けた町だ。露店を見ているととても面白い物ばかりで目を奪われる。
町を堪能した二人は、宿屋で夕食を取る事にした。
というのも、露店の食べ物は見た事のない物ばかりなので、色々食べたいという事になり、宿屋に持ち帰り食べる事にしたのだ。
「すごい町だったね!商人のメリンさん?だっけ。は、見当たらなかったけど、でも顔を知ってる人に見つかると危ないかもね。知らない人ばかりでよかったー。‥エメク、あのね!渡したい物があるの。」
「ん?なんだろう。」
「エメクは、私に魔除けの髪飾りとか、ローブとかプレゼントしてくれたのに、私から何もお礼してないなって思ってさ‥」
「ルビナ‥俺はルビナさえいてくれたらいいんだよ?で!で!何かな!」
「ブレスレット‥これ、魔法の効果を上げてくれるんだって。裏に名前も刻印してもらえたの!」
「エメクへ‥ルビナ。嬉しい‥俺、プレゼントって初めてかもしれない。一生大切にする!‥ルビナ、実は俺からも渡したい物があるんだ。」
「ちょっとー、やっとお返しが出来たと思ったのに‥なんだろう」
「これ」
エメクは指輪を二つ取り出した。
「わぁーお洒落な模様が彫ってある!素敵!」
「一個は俺。もう一個はルビナ。‥ルビナ、俺と結婚して。」
部屋の蠟燭の光が幻想的な空気を作ってくれている。ゆらゆら揺れるエメクの、照れ臭そうな整った顔が、優しく微笑んでいて胸がきゅんとなる。
「私もエメクと結婚する」
こうして二人は愛を誓い、エメクはルビナの指に、ルビナはエメクの指に指輪をはめた。
「愛してる。」
エメクは大事そうにルビナを抱きしめた。




