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第5話 決着と待遇

 そして今、ライリは私の作戦通りに動いてリーダー格の男を気絶させた。

 ライリによると、1番強いのがその男らしいので、身代金入りのカバンを持って油断している時に倒すことに決まったのだ。そのライリは、ナイフを手に男の前に立っている。ライリが持っているのはナイフの刃の方で、柄の部分で男の首筋を殴って気絶させたみたい。――たぶん私も、ああやってさらわれたんだろうな。


 おっと、そんなこと考えてる場合じゃないね。私は事前にライリに巧妙に緩く結んでもらった縄をほどいて、エドガーが入っている袋の方に駆けていく。そしてその袋をなんとか運んで、ライリのそばまで来る。


「お、お前ら自分が何してるかわかってんのか!」

 ようやく混乱から立ち返ったようで、配下たちが私たちを囲み出す。私たちの方からしてみれば、戦えるのはライリ1人で、私とエドガーは足手まとい。しかも、相手に多少の混乱はあれど囲まれている状況。勇気を出して反乱を起こしたはいいけど、絶体絶命――と、向こうも、こちらの状況を分析しているに違いない。


「この人数差でやる気か? 大人しくしてれば痛い目は見なくて済むかもしれないぜ」

 人数差があるのは事実だ。配下たちは5人ほど……いくらライリでも、私たちを庇いながらじゃ勝てない。


「よく言うよ。今更どうしたって結果は同じなのに」

 だけど、私は出来るだけ腹の立ちそうな笑い方で返す。

「このアマ、言わせておけば……」

 怯んじゃダメだ。あっちは私の挑発に乗っただけ、大丈夫。自分に言い聞かせて、叫ぶ。


「エドガー!」


 同時に、ライリが駆け出して配下たちの方へ突っ込んでいく。


 それから一拍遅れて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「なんだと!?」

 その反応も当然だけど、その隙を見逃す2人じゃない。私が危険な目にあう間もなく、配下たちは全員気絶させられてしまった。


「ありがとう、エドガー」

 男と配下たちを縄で縛り終えてから、私は言う。

「まったく……袋に入れて運ばれたと思ったら、事前準備なしのアドリブだもんな。突然ライリが出てきたのも驚いた」

「ごめんって。ライリとエドガーの間の関係だからこそできたことなんだから」

 そう。ライリがエドガーを袋詰めにする前に、ライリは囁いていたのだ。


 ――気絶したフリをして。


 そしてエドガーはその通りにして、まるでライリがエドガーをさらってきたように見えたというわけ。


「ライリ」

 エドガーの登場から一言も喋っていない彼女に、エドガーが声をかける。

「……」

 ライリは目を伏せた。エドガーと話せない自分がもどかしい、のかもしれない。だって、エドガーのことを話すライリの顔は、とてもエドガーを嫌っているようには見えなかったから。


「久しぶりだな。ずっと、会いたかった」

「そんなこと言わないでよ! あたしは、約束すっぽかしてこんなことしてるんだから、そんなこと……!」

 目に涙を溜めて、叫ぶライリ。


 もしかしたら、私は勘違いをしていたのかもしれない。ライリが言った約束というのは、次に会う約束ではなかったんじゃないか? それよりもずっと、大きくて大切なものだったんじゃないか?

「じゃあライリは、望んでこんなことしてたのか? 違うだろ」

 言い切ったエドガーに、ライリが目を見開く。


「ライリが好きでこんなことするやつじゃないのは知ってる。約束を守れなかったから、たかが1年会えなかったからって俺らの関係も思い出も、無くなったりなんかしない」

「でも、あたしはアリスを……」

「それだって、わざわざ俺と関係のあるアリスをさらってくる意味はあったのか?」

「――ぁ」


 やっぱり自分でも気づいていなかったみたいだ。わざわざエドガーに関係のある私をさらってきた理由は、エドガーへの未練があったからだって。


「なんで強がるんだよ。俺はライリに会いたかった。ライリも俺に会いたかった。それだけだろ?」

「エドガーっ……」

 これまでずっとライリの目に溜まっていた涙が、溢れ出す。

 エドガーは、ライリが泣き止むまでずっと、彼女を抱き寄せていた。



 あたしがちょっとした醜態を晒したあと、あたしたち3人は王国騎士団へとやってきていた。理由はもちろん、男たちを突き出すため。あたしたちだけで全員を運んでくるのは無理なので、事後処理を任せにきたというわけだ。


 ただ、これには問題が伴う。それは、アリスと(表向きとはいえ)エドガーは誘拐の被害者であり、あたしはエドガーの誘拐現場を目撃されている加害者であるということ。そのあたりは、とりあえずあたしがローブを着て顔を隠すことで誤魔化し、いろいろと説明した後に名乗り出る、という方針に決まった。

 

 ちなみに、あたしがローブを着た時の反応はこんな感じ。

「なんか、見覚えがあるような……」

「まさかお前、あのときも俺たちを?」


 あたしだって何枚も何枚もローブを持っているわけじゃない。というか、この1枚しか持っていない。当然、裏広場で最初に2人に後ろ姿を目撃されたときのものと同じローブを着ているってことだ。


「さぁ?」

 とはいえ、正直に話す気にもならなかったので、ぼかして答えておく。


 とにかく、そんなこんなで、あたしたちは騎士団の詰め所の門を叩いた。

「えっ? エドガー様に、アリス様?」

 さらわれて行方不明だったはずのエドガーたちが現れて、門番が面食らう。


「いろいろ説明しなくちゃならないんだ。とりあえず通してくれないか」

「はっ、はい」


 いかにも怪しげなあたしと2人の関係性をどう解釈したかはわからないけど、特にあたしのことには言及することなく建物の中に通してもらえた。


 吸って、吐いて。一度深呼吸をして、エドガーはいよいよ、廊下に並ぶドアの1つをノックした。

「エドガー・シュティル、ただいま戻りました」

「エドガー? 入れ」

 ドアの前にかかっているプレートには、『団長室』の文字。どうやら、あたしが夢見てきた騎士団のトップとの初対面は、こんな格好でやるしかないらしい。


「失礼します」

 エドガー、アリス、あたしの順に並んで入る。団長は部屋の1番奥にある革張りの高そうな椅子に座っていた。


「アリスじゃないか! 無事で良かった」

「はい、お父様。心配をおかけして申し訳ございません」

 父娘の再会をしばし見届けたあと、団長が本題に入るべく問いかける。


「アリスとエドガーが無事に帰ってきたのは喜ばしいが、君は誰なんだ?」

 君、とは間違いなくあたしのことだ。でも、大丈夫。台本通りに、白々しくやるだけ。


「わたくしはライリと申します。顔に傷がございまして……家名も名乗らず、このような醜い姿でのお目通りとなることをお許しください」

 ローブの裾をつまんで、一礼。良家の令嬢らしく見えるように振る舞う。実はこういうのは得意だったりする。


「それは構わないが、なぜこのようなところに?」

 どちらかといえばそちらの方が聞きたかったのだろう、なんとなく熱量が違う気がする。だけどここからは、アリスたちの出番だ。


「彼女には助けていただいたのです。彼女がいなければ、今頃私たちはどうなっていたか……」

「そうなのか?」

「はい。ですから、彼女には好待遇を約束していただきたいと思いまして」

 

 ……え?


「なるほど。エドガーも、それは間違いないんだな?」

「はい。彼女には本当に助けられました」


 おかしい。打ち合わせでは、ここで上手く事情を話して、あたしの罪を不問にしてもらうようにするはずだ。好待遇の約束なんてする予定じゃなかった。


「なら、間違いないようだな。娘と部下を救ってもらったんだ、可能な限り要望に応えよう」


 あたしの混乱など置き去りにして、話は進んでいく。

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