表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

第3話 誘拐と行方

 そんなやり取りがあった翌日。ライリによると、私が行方不明になったことは公にはなっていないそうだ。でも多分それは、気づかれていないということではなくて、ただ単に見栄と現実的な問題なのだと思う。騎士団長の娘がさらわれたなんてわかったら、それに漬け込んで誰が何を考えるかわからないしね。


 そのライリはといえば、どうやら私の監視係のようなものらしい。どうしてもライリが部屋から出ないとならないときは、縄で私の手足を縛って出ていく。

「ごめん。あたしもこんなこと、したくないんだけど」

 本当に申し訳なさそうに言うライリを見ていると、違和感を抱く。ライリは、私みたいな警戒心のない貴族の娘とはいえ、人ひとりくらいならさらってこられるというのに、なぜ大人しく男に従うのだろうか。間違いなく何か理由があると思うのだけれど、当然見当もつかない。


 そしてライリが出ていくと、誰か別の人が部屋に入ってくる。ライリを従えているあの男とは、あれ以来会っていないけど……きっとあの男がリーダー格なのだろう。

 結局、私を人質にしてまで通したい要求がなんなのかも知ることはできなかった。人質としては自由なのかもしれないけれど、何もわからないのに行動してしまえば、どんな結果を招くかわかったものじゃない。


 だけど――このまま待っていても、きっと何も変わらないから。

 私はライリに、ひとつの問いかけをすることを決めた。



 アリスが昨日から行方不明だ。

 俺が目を離したからさらわれたんじゃないか? だとしたら、アリスがもし取り返しのつかないことになったら、きっとそれは俺のせいだ。考えるだけで恐ろしい可能性を考えてしまい、自責の念に襲われる。王都の建物への立ち入りなど必死に捜索したが、結局アリスが見つかることはなかった。


 突然王城に手紙が投げ入れられたのは、そんな時だった。簡単に言うと、「アリスを傷つけられたくなければ金を出せ」という内容だった。アリスの行方不明は世間に公表されていない。それでもこんな脅迫文を書けるということは、信憑性は高いのだ。ちなみに手紙を投げ入れた人物はローブを着ていて顔は見えなかったらしい。


 なんの手がかりも得られないまま、俺たち騎士団員は金の受け渡し現場である公園のベンチの陰に隠れていた。手紙にあったのは、受け渡し金額と場所、そして時間のみ。騎士団員が来てはならないとは書いていない――そんな屁理屈をこねてやってきて今に至る。そして、公園に置いてあるベンチの1つに、騎士団員が大きめのカバンとともに座っている。そのカバンこそが金を入れたカバンで、犯人を捕まえる体制は万全というわけだ。


 そして、受け取りに来た犯人らしき人間は来ないまま、手紙にあった時間から1時間が経った。当然俺たちも待機しているが、さすがに集中も切れてくる頃。唐突に状況の変化は訪れた。


「――あの」

 誰かが俺に声をかけたのだ。その誰かは、しゃがんでベンチの陰に隠れる俺を、わずかに膝を曲げて見下ろしていた。


 ――え?

 俺の思考は、そこで停止した。


「大丈夫ですか? こんなところにしゃがんでいますけど……」

 特徴的なピンク色のツインテール。心配そうにこちらを見つめる瞳。


「あ、あの? 本当に大丈夫ですか?」

 記憶の中の彼女に、すべてが重なる。


「ライリ、なのか?」

 ようやく絞り出した言葉。けれど彼女は何も答えずにわずかに微笑んで、俺の耳元に囁く。

「――」

 そして次の瞬間、目の前が真っ暗になる。



 あたしはエドガーの様子を確認して、折りたたんであった袋をすばやく開く。サイズとしてはかなり大きい部類で、人ひとりくらいなら上手く入れれば余裕だ。袋にエドガーを詰める――というとなんとなく嫌な感じがするけど――まあとにかく詰める。一応通気性が良い材質だから、窒息の危険はない。その辺りの安全性については、アリスをさらってきたときにわかっている。


「エ、エドガー……?」

 戸惑いの声が聞こえてくる。まあ、いくらベンチの陰とはいえ、同僚が袋詰めにされてるのは見えてたはずだし、無理もないかな。呆然とした状態から抜け出される前に、行動を起こす。


 まずは、お金。ベンチに座っている騎士団員らしき人の横に置いてある、あのカバンだ。当然といえば当然だけど、その騎士団員らしき人も動揺しているみたい。

 片手で袋を抱えて、まっすぐそのベンチのの方へ駆け出す。数秒のうちにベンチに到達すると、カバンを掴み上げて踵を返した。


「あ、おい待て!」

 思い出したように怒鳴られるけど、待ってあげるわけにはいかない。片手に袋、もう片方にはお金でいっぱいのカバンという状態で再び駆け出す。


「くそっ……逃げ足の速いやつだな」

 後ろから苛立ったような声がかすかに聞こえる。いくらあたしの足が速かろうと、今は両手に大荷物を抱えているし、追いつかれるのも時間の問題かな。そうでなくても、今は顔を隠していないから、髪色くらいは間違いなく覚えられている。後始末の方が大変な作戦なのだ。


 でももちろん、それくらいのことはわかっている。あたしは通りを一本入り、裏道をひたすらに走る。この辺りの裏道のことはなんでもわかる――は言い過ぎにしても、騎士団員たちよりはわかってるつもりだ。そうして何度も何度も曲がるうちに、騎士団員たちを撒くことに成功した。


 それを用心深く確かめて、あたしは急ぎ足でボロ屋に戻った。

「回収したな?」

 男――あたしも名前は知らない――は、戻ったあたしに開口一番に問いかける。周りにいる男の配下たちも、こちらを見ている。


「はい」

 そう答えて、手に持っていたカバンを渡す。

「それが、お前の言ってた?」

「はい。都合が良かったのでさらってきました」


 そう。あたしがエドガーをさらってきたのは、都合が良かったから。あたしとエドガーの関係だからこそ、できたこと。王国側も、人質が増えたら容易に手出しはできないはずだ……とは、あたしが男に提言したことで、それが採用されてあたしは実行役にもなったというわけだ。大役ばかり任されているとアリスは不思議がったけれど、それはポジティブがすぎる捉え方だ。ただ単に、リスクの高い仕事が下っ端のあたしに押し付けられているだけのことなのにね。……今回はそのおかげで助かった面もあるんだけど。


 そして男がカバンを開いて、中のお金を数え始めた、その時。

 男はあたしの目の前で、意識を失って倒れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ