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第9話 正体と真実

 その声は、どこかで聞いたことがあるような、ないような声だった。だがそんなことよりも意識に残ったのは、その姿。


「リエラ……?」


 顔つきは少し違うようだが、背格好や髪色、瞳の色はリエラそのものだ。

 動揺していると、乱入者はこちらに向かって駆けてくる。

「――っ!?」

 動きからして、リエラを狙っているようだ。リエラもそれに気付き、怯えだす。


「エ、エドガー様!」

 そして、俺に助けを求めてきた。


 乱入者はリエラに手を伸ばす。今ならまだ止められる。そして、この場でリエラを助けられるのは俺だけだ。


 ――俺は、どうすればいい?


 問いかける相手なんていない。それに、俺の中で答えは決まっていた。これは、最後の確認みたいなものだ。


 そして、乱入者の手がリエラに届く。

 ()()()()()()()()()()()()()


「お前は……」

 ヴェールとともに、美しい銀色が宙を舞う。

「お前は、誰なんだ?」

 さっきまでリエラであったはずの人物の地毛―― 赤茶髪が現れた。




 乱入者の登場。そして、リエラであったはずの人物が、リエラではなかったという事実の判明。

 前触れもなく起こった2つの出来事に、式場は騒然となる。だが、そんなことを気にしている場合じゃない。俺は乱入者に聞かなければならないことがある。


「お前が、本物のリエラなのか?」

「そうよ」

 その答えを聞いて、何かがスッと落ちてきたような気がした。考えてみれば、5年も行方をくらましていたのに、その理由も告げずに結婚しようとするなんて、明らかに変なのだ。

「なら、こいつは誰なんだ」


 本題に踏み込もうとしたとき、突然別の声が割って入る。

「衛兵!早くその乱入者を追い払いなさい!」


 リエラの母親――ティオニアだ。リエラは、面倒そうに言い返す。

「何を仰るのですか? 私は本物の花嫁――どちらかと言えば、乱入者はそちらの偽物でしょう?」

「行動の問題よ!」

「行動? そのような言葉は自身を振り返ってから仰ることをお勧めしますよ」

 明らかに小馬鹿にした微笑で返され、言葉に詰まっている。


「彼女が誰か、でしたね。それならおそらく、わたくしのメイドだったメアリでしょう」

「メイド……やはりそうか」

 あのとき抱いた違和感は間違っていなかった、ということだ。


「だが、なぜこんなことを? まさか下剋上したわけでもないんだろ」

「もちろん。彼女たちは、どうしてもシュティル家との縁が欲しかったんです。けれど、めぼしい娘たちは嫁にやってしまった……あとは、わたくししか残っていなかったということです」

「ところが肝心の君は行方不明だったから、代わりを立てたってことか」

 目の前の彼女がリエラなのは間違いないのだろうが、なんとなくリエラと呼ぶのは気が引けて、君と呼んでしまう。


「少し違います」

「え?」

「彼女たちには、わたくしが行方をくらました訳も、そして行き先もわかっていたんです。それでもなお、わたくしを呼び戻すことができなかった」

「は……?」


 謎かけみたいな話だ。そもそも行方不明なのにその居場所がわかっているのも変だが、その上呼び戻すこともできなかった?その理由はしょうもないことなんかではないはずだ。偽物を使ってまで俺と結婚させたかったんだからな。


「だっ、黙れ! お前は本物のリエラなどではない! どうせお前のその髪もかつらなんだろう!」

 今度は、リエラの父――キアードが怒鳴った。

「なら、本物のリエラはどこにいるのでしょうね?」

 ティオニアに反論したときとは違って、少し面白がっているようにさえ見える。


「行方不明だ。そんなことも知らないのか!」

「本当にそうでしょうか」

「そうに決まっている! そんなことより、奴の髪を確かめろ、どうせ偽物だ」

 その言葉に、少しずつ衛兵がリエラの方に進み出る。


「その必要はありませんわ」

 そう言って、リエラは自分の髪に手をかけた。

 そして俺は、自分の目を疑うことになる。

「どうして、お前が……」


 リエラが使っていた銀髪のかつらの下から現れたのは、鮮やかなピンク。


 俺は、()()()()姿()()()()()()()()()




 それから1番早く発言したのは、キアードだった。

「ほらな、やはりお前は偽物だったんだ」

 俺には、何がどうなっているやらさっぱり……だが、彼は全てを理解しているらしい。


「何をもって、わたくしが偽物だと?」

 リエラ――ライリと呼ぶべきか? は尋ねた。

「お前のその銀髪が偽物だからに決まっている」

「それはあくまでわたくしの地毛が銀髪ではないことの証明であって、わたくしがリエラでないことの証明ではありませんわ」

「同じことだろう」


 そこでライリは、推定父親への反論をやめ、こちらに向き直った。姿はいつものライリだが、雰囲気が全く違う。

「では、()()()()()。わたくしのことはご存じですね?」

 わざとらしく呼び方を強調してくる。それに、お嬢様言葉をやめていないのならきっと、そういうことなんだろう。


「ああ、もちろんだ」

「どこでご存じに?」

「騎士団でだ。違法取引グループの検挙の際に、運び屋としての生活を余儀なくされていたのを助けた」


 俺にだって、聞きたいことはある。ライリは本物のリエラなのか? もしそうでないなら、なぜこんなことをしているのか?


 だが、それは今じゃない。ライリがわざわざあんな他人行儀な呼び方をしたということは、今は俺と知り合いだとわかると都合が悪いんだろう。


 それはそうと、再び式場はざわつき始める。それも当然、リエラ・ハーベストが運び屋をしていた可能性が出てきたんだからな。


「どうしてわたくしがそんなことをしていたのでしたっけ?」

「……家族に売られた、と聞いた」

「なっ、何を言う!」


「つまり、こういうことです。わたくしはある事情からお父様たちに売られ、違法取引グループまで流れ着き、運び屋として働いていた。それを知りながらも、呼び戻して全てが明るみに出るのを恐れたお父様たちは、わたくしを呼び戻さなかった。代わりに、メアリを使うことで解決しようとしたのですわ」


 この言葉で、俺がリエラやライリに抱いていた疑問のほとんどが氷解した。だが、まだ触れていない部分がある。

「その、家族に売られるような羽目になった『ある事情』って何なんだ?」

「わたくしは不貞の子ですから。ハーベスト家の証とされる銀髪を持たないのは、そういうわけです」

「つまり、君は本当の髪色を隠して社交の場に出ていたと?」

「ええ」

 なるほど……要は、こういうことだろうか。


 リエラは、生まれながらにハーベスト家の証である銀髪を持っていなかった。幼いうちはかつらを使うことで誤魔化してきたが、成長するにつれて家族に邪魔に思われるようになる。そしてついに、5年前に売られてしまったのだ。おそらく、この頃にはすでにかつらをやめていたはずだ。


 ところが、ハーベスト家側が政略結婚のために、リエラを必要とするようになった。しかし、今更リエラを呼び戻すと自分たちがしてきたことを広められてしまう可能性がある……それよりは、呼び戻さずにただの平民と同じような扱いをされるようにしておくことで、何を訴えても意味がないようにしたかったのだろう。


「出鱈目を言うな! 平民の言っていることを鵜呑みにするのか」

 まさにこんな風に、な。


 だが冗談抜きに、ここで自分の立場を証明できなければライリの身が危ない。ライリが平民として扱われてしまえば、それはハーベスト家の人身売買が否定されるということでもある。つまり、ライリは高位貴族に濡れ衣を着せたことになってしまうのだ。


 そもそも高位貴族なんて関係なく、人の結婚式を荒らしているという時点でまずいことになる。この結婚のおかしさを証明することに、彼女の命がかかっているといっても過言ではないだろう。


「なら、これから証言していただきましょう」

 ライリの口からは、意外な言葉が飛び出す。そして再び、式場の扉が開いた。

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