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【6】ロック・クオール

 おはようと挨拶しても、どこか笑顔がぎこちない。

 どうしたのと心配されても、自然に言葉を返すことができない。


 あれ以来、わたしはずっと心に仮面を付けて生きてきた。


 でも、このままではいけない。

 両親にはもちろんのこと、エリック様にも迷惑がかかってしまう。


 だけど、生まれ持ったスキルはどうすることもできない。

 誰にも相談できずに一人で悩み続ける毎日だった。


 そんなある日のこと。

 魔人討伐を果たした冒険者一行が、王都に凱旋するとの噂を耳にした。


 お茶会の途中でエリック様に訊ねてみると、興味を持っていると思われたらしい。冒険者一行の凱旋パーティーに、わたしも参加させてもらえることになった。


 その日の夕食時、わたしは王城に足を運び、エリック様にエスコートされながら凱旋パーティーを楽しく過ごした。


 誰も彼もがわたしに優しくしてくれるのは、もう仕方のないことだ。割り切るしかない。

 いっそのこと、『溺愛』を思う存分利用して生きてみようかとさえ考えてみた。


 とはいえ、そんな度胸はわたしにはない。

 だから大人しく『溺愛』を受け入れて流されるままに生きていくことにした。


 そうやって、わたしが自分の人生を諦めたときのことだった。


 冒険者一行との挨拶を交わす瞬間が訪れた。

 彼らはエリック様と握手を交わし、続けてわたしとも目を合わせて手を握っていく。


 だけどそのとき、一人だけわたしに興味を示そうとしない人がいた。

 下を向き、口を閉ざす少年……いや、青年だ。


 ――ロック・クオール。彼の名だ。

 エリック様から聞いた話によると、彼はわたしよりも三つ上の十六歳で、王国唯一の五つ星冒険者とのことだ。意味はよく分からなかったけど、とにかく強いことだけは伝わった。


 現に、今回の魔人討伐に関しても、ほとんど彼一人で追い詰め倒したらしい。

 だからだろうか、パーティー会場にいる人たちからは「英雄」と持て囃されていた。


 その彼が、わたしと目を合わせても一切興味を抱かなかった。


 ひょっとして、『溺愛』の効果がない?

 頭を過ぎったのはそんなことだったけど、すぐに思い直す。


 あの占師は言っていた。能動型の『溺愛』を防ぐ術はない、と。

 だから目が合ったのもわたしの気のせいに違いない。


 それから暫くの間、わたしはエリック様の話し相手を務めて過ごした。


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