表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/54

49. 永剣

竹香は飛べたけれど、まだ新米仙師なのでその距離は短く、時々休んだりもしたから、十六雲冠山に着くまでにまる1日もかかった。それでも人間時代と比べたら、ずいぶんと早く到着したと言える。


 山の麓まで来られたのはよかったが、そこから先は、どうすればよいのだろうか。


 そうだ。

 竹香には、離山がいざという時に吹きなさいとくれた笛があった。これを吹いたら、キャプテンが現れるかもしれない。

 ポケットから取り出して、思い切り吹いてみる。

 でも、いくら吹いても、笛は音が出ない。音の出ない笛なのだ。


 でも、吹き続けていたら、急に鳥たちの声が静まり、がさがさという音も一切消えてから、動物や鳥たちには聞こえているのかもしれない。

 

 不思議な空間にはいってしまったように、森全体から音が消えた。

 静寂。

 

 竹香はあたりを見回した。

 何かが起きる予感がする。


 その時、空に何か黒いものが走ったかと思うと、枯葉を空に散らし、強風が吹いた。

 嵐の中で、着地したのは永剣だった。


 竹香は永剣が急に現れたので驚いたが、永剣はそこに竹香がいたので驚いていた。


「冬氷じゃなかったのか」

「どうして、ケンケンがここにいるの?」

「その笛はおれが、あいつに与えたものだ。それをなぜ、チーチーが持っているんだ?」


「キャプテンがくれたんです」

「キャプテンが? キャプテンに何かあったのか」

「キャプテンがケンケンに仙術で傷を治してもらうために、ここに来ているのではないかと思ったのですが、来ていませんか」

「それはいったい、何のこと?」


 竹香は宮廷でキャプテンに何があったのか、手っ取り早く説明した。

「どこを、どのくらい切られたんだ」

 竹香は腹部のあたりを指さした。 

「あいつ、ばかだ。なんてばかなんだ。人間界なんかに行くからだ。だから、おれは何回も止めたんだ」


「でも、キャプテンは子供の頃から人間界に行くのが夢だったから」

「おまえ」

 永剣が険しい顔で竹香を睨んだ。


「チーチー、おまえは馬鹿か」

「えっ。わたしが、何かしましたか」

「何かしたかって」


 ああ、馬鹿だ馬鹿だ、と永剣が額に手を当てて、天を向いた。

「どんな思いであいつが人間になったと思っているんだ」

「だから、子供の時からの夢で」


「本気で言っているのか。おまえ以外に、どんな理由があるんだ」

「わたしのためなんですか」

 竹香が泣きそうになった。

 そう思ったことがないわけし、尋ねてみたこともあったけれど、自分が一番の理由なはずがなかった。


「まあ、気持ちがわからないことはないが」

 竹香がえっと永剣のほうを見たので、ふたりの目がかち合った。

「誤解するな。おれはおまえには気がないから。おれが好きなのは……そんなことはどうでもいい」


 永剣はくそっと言って、地面を蹴った。

「早く追いついておれが仙術を与えれば、冬氷は助かるかもしれない。この世でな」

「追いつくって、できるんですか」


「チーチー、すぐに行こう。話している時間はない」

「どこへ行くのですか」

「冬氷湖の方角だ」

「彼の名前の湖」


「そうだ。冬氷という名前が付けられたということは、彼が生まれた時からどのくらい期待されていたか、わかるだろう。仙師界みんなの期待の星だったのにな」

 永剣が悔しそうに上を見た時、その瞳に涙が見えた。


 竹香は父の言葉を思い出していた。

 仙師は死ぬこところを見せない。ある場所に行ってひとりで死に、別の世界で、生まれ変わる。



「仙師は死ぬ時には、冬氷湖に行くんだ。そして、次の世界に行く。次の世界で、また生きる。今、あいつを次の世界に発たせたくなかったら、最後の峰を越える前に、あいつに追いついかなければならない。おれが、仙術をかけて治してやらねばならない」

「ケンケン、追いついて、治してください。一生のお願いです」

「できるかな。やるしかない」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ