48. わたしだって、仙女子
その時、門を叩く音がしたので、キャプテンだ、と竹香が転がるようにして出ていくと、そこには中柿おじさんが立っていた。
「おじさん、どうしていたんですか」
「離山さまが山に向かわれた」
「それじゃ、キャプテンは今までおじさんのところにいたのですか」
「3時間くらい前までな」
「身体はどうですか」
「離山さまが、ご自分でこうやって施術をすると、」
と中柿おじさんが腹をさすって見せた。
「出血は少し止まったように見えた」
「山って、 十六雲冠山ですよね」
「ああ」
中柿おじさん自身が離山さまを十六雲冠山まで連れて行きたかったが、この脚では寝ないで走ったとしても、2日はかかる。だから、警戒網をくぐって早馬の慢人ところに頼みに行った。町一番の早馬の乗り手マヒトなら、1日かからずで行けるだろう。
路地の地図は中柿おじさんのほうが詳しいから、マヒトを案内して、都を無事に脱出させたところだという。
「知らせてほしかったです。どうして……」
「離山さまが、チーチーはすぐに都を出て、海辺で待つようにと何度も言っておられました。いつか、必ず会いに行くからと」
「いつかって、……いつですか」
竹香はもしかしてキャプテンが生まれ変わって、会いに来ようとしているのかもしれないとも思った。仙師が生まれ変わることができるのは父親から聞いてはいたけれど、どうやって。いつ?いつ会いに来てくれるの?
それって、生まれ変わったら、ゼロ歳からやり直すということ?
私が60歳になって会いにきてくれても、遅すぎる。
「今、会いたい。どうしても会いたい」
と竹香が泣いた。
「わたしも、これから山に行きます」
「これから?」
「夜中のほうが警戒も手薄で行きやすいと思うの。中柿おじさん、都を出る道順を教えてください」
「まさか歩いて行こうというのかい。そんなこと、できないですよ」
とアミノが首を強く振って、「だめですよ」と竹香に抱きついた。
「チーチーや、明日になって警戒が解けたら、わしが人力車で連れて行ってやるから」
と中柿がなだめた。
「わたし、都では屋根の上を、都の外に出たら、空を飛んでいきますから」
「チーチーさん、学校でもあなただけが飛べないのではなかったのではないのですか」
とアミノが言った。
「それがさっき飛べたのです。わたし、やっぱり仙師の子でした。飛行距離はまだ短いのですが、でも、やってみます。もっとできそうな気がしているんです」
アミノが竹香を外に連れ出して、あの屋根まで飛びあがることができますか。できたら、そこから少し飛んでごらんなさいと指さした。
「空を飛べることができたら、行くのに反対しません」
「わしも同意見だ」
竹香は両手を伸ばし、神経を集中させて、えいっと屋根まで跳び上がった。そして、呼吸を整えて、飛んでみた。
小鳥の子供の初飛行のようで、バランスに欠けてはいたが、飛んでいた。
人が飛ぶのを初めてみた中柿おじさんは、驚きすぎて腰が抜けそうになり、アミノおばさんに支えられた。
どうしても、この子は行くつもりなのだ。
竹香の表情を見て、ふたりは思った。
屋根まで跳び、宙を飛んだ竹香自身も、自分の中に仙女子としての能力があったことを知った。
わたしにも傷が治せるかもしれない。早くキャプテンに追いつかなければ。どうしても、会いたい。




