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47. 前夜の遠音皇子

 離山はどこへ行ったのだろう。宮廷の誰かがかくまっているに違いない。誰だ、私に逆らうのは誰なのだと遠音皇子は苦い酒をあおった。

 どいつもこいつも、みんな私から離れていく。 


 あの裁判の後で、遠音皇子は皇帝から呼び出され、「不甲斐がない。恥を知れ」とさんざん叱られた。


 皇太子候補からは外され、第二王妃の皇子を指名するつもりだと言われた。母親の身分も年齢も下の、あんなクズ義弟に仕えるのはいやだ、屈辱すぎると悔しがった。

 しかし、皇帝の言葉には逆らえない。


 いくら酒を飲んでも少しも気が晴れなくて、深夜になって大鶴に会いにでかけた。最近は冷たくて、前のようには慰めてはくれないこちはっている。

 それどころか、あの女ときたら、こともあろうに離山の味方をして、裁判で不利になるようなことをべらべらと喋ったようだ。だから、しっかりと灸をすえておかねばならないが、言い過ぎると田舎に帰るというから、やりにくい。


 今夜の大鶴ときたら、門戸を叩いても、あけてもくれない。冷たい態度は覚悟していたものの、まさか、中にいれてくれないとは想像しなかった。


 私に会ったら小言を聞かされると思って辟易し、出てもこないのだろう。

 ここは、私が買ってやった屋敷だということを忘れたのか。

 

 しつこく戸を叩くと、ようやく侍女がでてきた。

 しかし、そいつは「母子とも、流行病で休んでおられますから、今夜はお会いできません」と伝えて、門をしめやがった。


 くそっ。

 そんなのは、仮病に決まっている。

「私を誰だと思っているのか」

 と叫んでも、音ひとつしない。

「恩を忘れたのか」

 ばか女め。

 

 遠音皇子はその夜はそこに泊まる予定で、馬車は返してしまったから、御者は朝までは帰ってはこないのだ。またも失敗した。私の人生は失敗続きだ。

 だから、こんな時は特に大鶴が必要なのだ。叱らないから、話を聞いてほしいだけなのに、どいつもこいつも私の気持ちをわかってはくれない。


 くそったれ。


 遠音皇子は仕方なく、歩き始めた。夜道をひとりで歩くなんてことは初めてだ。お付きがいない夜は怖くて、足が進まない。

 なにもかもがおもしろくなく、辛すぎて、どうしてこんな不幸ばかり降ってくるのだろうと道端に座って泣いた。どうして皇子の自分が、こんな目に遭うわなければならないのだ。


 そこに用心棒風の男と浮浪者がやってきて、女々しく泣いている金持ちのカモを見て、金を要求した。

「無礼ではないか。私を誰だと思っているのだ」

「誰でも、かまわねーんだ。金を出せ。ださないと切るぞ」

 用心棒風の男が刀を抜いた。


 皇子は震えながら懐から金10個を1枚1枚出しながら、しかし、ふと、あることを思いついら、気が座った。

「金なら、もっとある。もっとほしいか」

「もっとあるのか」

「ある」

「もっともっとほしいさ」

 と浮浪者たちが言った。


「では、人を傷つけたら、ひとりにつき1銀。ある男をめった殺しにしたら、金10」

「ほほう。もう一声」

「金20」

「その話に乗った」

 と用心棒風が刀を肩に載せた。


「その殺したい男は誰なのだ」

「見つけるのは簡単だ」


 交渉は成立し、翌日、皇子は宮廷の警備を少なくしておいたのだ。

 その時刻、遠音皇子は皇帝のところに前日の無能ぶりをわびに行っていた。その時刻に浮浪者たちの侵入暴動事件が起きたのだから、遠音皇子の計略だとは誰も思わない。


 20人近くの者が傷つき、離山は腹部を刺された。しかし、死ななかったようだ。

 あれだけの血痕が残されていたのだから、助からないとは思うけれど、なぜだか行方がわからない。


 遠音皇子は深夜になって、狼藉者たちが収監されている暗い牢屋を訪ねた。

 看守に鍵をあけさせ、席をはずすように言い、それから中にひとりではいっていった。彼らは両手をそろえて、皇子の前にさしだした。


 遠音皇子はその手に銀を21個載せた。

 用心棒風が眉を上げた。


「話が違うではないか」

「傷をつけたのは、21人だろう」

「足の悪いやつを殺した金20はどうなった?」

「彼は死んではいなかった。逃げたから、その報酬はない」

「そんなことはない。あれだけ刺したのだから、生きて逃げられるはずがない。金を払いたくなくて、隠したのだろう。それなら、それでよい。事件の真相を世間に言いふらすだけだ」


「やれるものなら、やるがよい」

「どういうことだ」

「ここから出られるなら、やってみろと言っている」

 その時、皇子が叫び、隣室で控えていた家来たちが、彼らに斬りつけた。


「せっかくこの私が罪人に食料を持参して訪問してやったのに、この狼藉者たちが襲ってきたのだ。そう報告書に書くのだ」

 と皇子が看守に厳命した。


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