46. 瞳の灯
竹香は芍薬麗園に駆けて行った。花の中に離山が隠れているような気がしたからだ。
「キャプテン、キャプテン、いますか」
いくら呼んでも探しても、離山の姿はどこにもなかった。
もう二度と会えないかもしれないという予感に襲われて、竹香の心は焦るばかりだ。
宮廷にも、王都にも、外出禁止令が出され、集合活動禁止令が出され、通りや小路には、軍隊や警察関係者とのら猫の姿だけが見られた。
竹香は夕方になって、ようやく離山の屋敷に戻って来ることができた。
いくらかん口令を敷かれたところで、平民には独自の連絡網があるから、情報は伝わる。アミノは宮廷での事件、離山の怪我のことを知っており、無事を案じていたので、竹香の無事な姿を見て、涙を流して抱きついてきた。
竹香はアミノに、離山がうわ言のように何度も「必ず帰ってくる」と言っていたことを伝えた。
けれど、離山は家には戻ってはいない。
「ご主人様は必ず、竹香さんのもとに帰ってこられますよ」
「でも、あの身体で、どこに行かれるというのでしょうか」
「ご主人さまの帰る場所はあなたのところですからね。竹香さんのいる場所に、必ず、戻って来られますよ」
「わたしのところへ」
「いつも言っておられましたから。竹香さんのことばかり思っておられましたから」
「キャプテンはどうしてそんなにわたしのことを思ってくれるのでしょうか。わたしは、そんなにすばらしい人でもないのに」
「いつでしたか、あなたの瞳の中には、灯が見えると言っておれましたよ」
「灯、ですか」
「ご主人さまは子供の頃から、その灯を見ると、希望が湧いてきて、やろうという気になったと話されていましたよ」
「わたしの瞳の中に?どういう意味でしょうか」
「私は申しあげたのですよ、それはご主人さまご自身の灯でしょうと。その灯を映してくれるのが竹香さんの瞳だったのでしょう」
そう言われれば、キャプテンがこの瞳を覗いていたことが何度かあった、そのことを竹香は思いだした。
「わたし、キャプテンに会いたい。どうしても、会いたい。あの身体でどこに行ったのかしら」
「今は待つしかありません」
「待つのが、一番苦手です」
「そうですよね。ただ待つのはお辛いでしょうから、私がご主人さまのことを話してさしあげます」
「お願いします」
「私がご主人さまに初めてお会いしたのは、2年少し前でしょうか。山からこちらに官吏試験を受けていらした時で、私がやっていた小さな下宿に泊まられた時です。それがご縁で、こちらの屋敷でも、お世話をすることになったのです。ご主人さまはよく竹香さんのことを話されていました。学校の時に愉しいことはチーチーだけで、他にはおもしろいことは何もなかったって」
「そうなんですか。わたしのどこがおもしろいのかしら」
「きっとお好きだからでしょう」
「キャプテンは学校ではみんなに慕われていたし、わたしと違って友達もたくさんいたし、楽しいことばかりしているように見えていました」
「チーチーさまにに頼りきっている自分が心配になることがあるって言われたことがありましたよ」
「そんなこと! わたしが頼りですか。それ、まったく逆ですよ」
「あっ」
と竹香が叫んだ。
「わかったわ。キャプテンはケンケンのところに行ったのだと思います。きっとそうです」
「ケンケンさまですか?」
「永剣という親友で、彼は仙術ができて、怪我を治すことができるのです」
「山におられる方ですよね」
「はい。だから、キャプテンはそこに行って治してもらって、ここに帰ってくるという意味ではないかと思います」
「そうかもしれません。きっとそうです。でなければ、こんなに大掛かりな捜索で、見つからないはずがありません」
「わたし、十六雲冠山に行ってみます」
「それはできませんよ。町には厳重な警戒網がめぐらされていますから、出かけられません。ここでお帰りを待ちましょう」




