44. 待ち合わせ
竹香はお昼頃から銀杏の下で待っていたのだが、午後遅くになっても、離山は現れないのだった。不安が落ち葉のように積もっていく。一カ所にたまっていた落ち葉が風で乱れて、四方に飛んでいった。
いやな予感。
でも、そんなことはあるはずがない。ないないと竹香が首を振る。
わたし達は今日から同じ道を歩いていくのだから、どうかその道を邪魔しないで行かせてください。もう二度とお願いはしませんからと天に祈る。
そう、あと少しでキャプテンは現れるはず。
でも、今日は、朝から胸騒ぎがひどいのだ。
幸せ過ぎた後だから、何でも心配になるのだろうか。
でも、こういう胸騒ぎは前にもあった。胸騒ぎがしたから、何かが起こるほど、自分に霊感なんかないはず。
すごく愛しているから、すごく不安なだけなのだと思う。
人を愛するということは、心配が増えることなのだ。
時に、気持ちが弱くなる。
でも、強くなろう。
こんな時だもの、もっと強くなろう。
社の寺の前を通る人々の様子がなにやらおかしい。
「宮廷で、暴動が起きたらしい」
という男の声が聞こえた。
暴動ですって。
竹香は頭に血が上り、何も考えられなくなった。ただ、これでキャプテンと会えないことになったら、どうしようと思うばかりである。悪い方悪い方へと考えが走っていく。
そんなはずがない。
そんなの、いやだ。そんなの絶対、いやだ。
でも、キャプテンに何かがあったとは決まってはいないと思い直して、竹香は人波に逆らって、宮廷まで走って行った。
あたりの空気がいつもとは違う。何かおかしい。
正面の扉が貝のようにしっかりと閉められていて、前に、赤い字で書かれた立入禁止と書いた札が立っていた。
大勢の人々が集まり、口々に何かを語っている。竹香が耳を傾け、集中する。
「浮浪者の一団が、なだれ込んだらしい」
「与太者達が宮廷に侵入して、手あたりしだいに、人を切りつけたようだ」
「中に、殺し屋がいるらしい」
竹香は裏門のほうに回ったが、そこの扉も閉められていて、入ることができない。
竹香は塀を見上げた。高すぎる。
わたしに仙術が使えたら、あそこまで飛べるのになぁと悔しい。
でも、飛べることを想像していたら、飛べる気がしてきた。
竹香は両手を伸ばして、神経を統一させ、飛び上がってみた。
だめか。やはり、できない。
4度5度と失敗したが、なぜか諦めるという気持ちがわかなくて試し続けたら、6度目に、成功した。
なんと、竹香は屋根の上まで飛べたのだ。
やれば、できるのだ、わたしにだって半分は仙師の血がはいっているのだ。
学校にいた時は落ちこぼれで、一度も飛べたことがなかったというのに。
あの時には、飛びたいという熱がなかったからなのだろうか。自分にはできるはずがないと思っていたし、無理無理とすぐに諦めていたような気がする。
そうか、やめないことが肝心なのだ。
わたしは奥手だった。
大人になった今になって、竹香は飛び方のコツを少しつかんだような気がする。
広い前庭には靴とか、帽子とかがあちこちに散らばっており、血痕と思われるものも見えた。大惨事が起こったらしいのに音がなく、誰もいないのはどうしたことなのだ。この静けさは異様で不気味。
階段の横に人がひとり倒れていているようだ。
あれは、だれ。




