41. 海辺の村へ
離山はこの屋敷をアミノに譲ることにして、すでに手続きを始めていた。
「管理する資金もおいていくけれど、足りなくなったら、屋敷を売ればよい」
「いいえ、そんなことはいたしません」
アミノが力強く首を振った。
「ご主人さまが戻られるまで、ここをしっかりとお守りいたししますから、必ず、いつかは戻ってきてくださいませ。ところで、おふたりは、どこへ行かれるのおつもりですか」
「急なことで、まだ決めてはいないのだけれど」
「どこへ行って暮らそうか」
離山がどこに行きたいところはあるのかという表情で竹香を見た。
「わたし、地理がよくわからないので、どこでもいいです」
竹香はキャプテンとなら、たとえどんな場所に行っても、がんばってやっていけると思った。
「チーチーは海が見たいと言っていたよね」
「そう。わたしは海のそばで暮らしてみたい」
「じゃ、海辺の村の小さな村に行って暮らそうか。ぼくはそこで子供たちに勉強を教えようか」
「わたしは裁縫を教えたり、畑を耕したりしたい。洗濯もできるし」
「チーチーは踊りが上手だよね」
「キャプテンはわたしの踊りが好き?」
「大好きだよ」
「じゃ、踊りはキャプテンだけに見せることにしようかな」
「おお、特別待遇だ。でも、無理しないで、好きにすればいいんだ。踊りたい時には、踊ればいいんだよ」
「はい。じゃ、毎日、踊ります。それから、海で、魚釣りができますね。浜辺というところには、きれいな貝殻が落ちているかもしれない。大きな亀さんがいて、背中に乗れるかもしれないし」
「それは楽しそうだな」
「うん。毎日、楽しいよ」
竹香は海辺の村に行って、キャプテンと一緒に暮らせると思うと、うれしさがこみ上げた。
竹香は夕食後、アミノを手伝って、食器を洗ったり、片付けた。竹香はもしお母さんがいたら、きっとアミノのようなあったかい感じの人なのだろうと思った。アミノと別れるのはさみしい。
竹香がアミノに抱きついて、その大きな胸に頭をうずめた。太っているアミノはふわふわとしていて、気持ちがいい。
「どうしちゃったのですか。竹香さん、子供に戻っちゃいましたか」
アミノは手を離させて、竹香の顎を指ではさんで、右を向けたり、左に向けたりした。
「顔が、どうかしましたか。変ですか」
「いいえ。おかわいいお顔です。竹香さんのお顔は誰かに似ていると思っていたのですが、やっぱり似ています」
「どの人?」
「そう、多美杏さまというお名前でした。ご存知ですか」
「いいえ」
「もと宮廷の舞踊部にいた方です」
「踊りが得意なのですか」
「そうです。それも特別に上手で、皇帝がお気にいられて、後宮にはいられたのです。私はその頃、宮廷で働いていて、お世話をしたことがありました。でも、多美杏さまはその後、宮廷を出られてからは、お会いしてはおりません。でも、風の噂によりますと、しばらく町に住んでいらっしゃいましたが、そこで子供を産んで、そのあと、いなくなったそうです。だから、どうなさったのかとは思っていたのですが、」
「その多美杏さまとわたしが似ているのですか」
「はい。特に、目と顎がそっくりです」
「わたし、お母さんを探しているのです。わたしも、踊りが大好きなのですが、母の名前は桃風です。多美杏さまの子供の父親はどなたなのですか」
「それが、皇帝だという噂です」
「皇帝ですか?」
「あくまでも噂ですからね、当てにはなりませんが」




