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4. お父さん

 その日、 竹香は義母に頼まれて、晩餐会の会場作りで忙しい父親の爽頼ソウライにお弁当を届けに行った。


会場の屋根を支える8本の柱は太く赤く、破風板と呼ばれる部分は青く、見ているだけで、ここで何か特別なことが行われるのだということを感じる。これは陰で支える仕事。こんな目立たない仕事ばかり与えられると義母は不服を漏らしていたけれど、竹香はお父さんがここの責任者なのだと思うと、とても誇らしい気持ちになる。

 

「お弁当をもってきました」

「ありがとう」

「忙しそうですね」

「誰かから、晩餐会のお誘いはあったのかい」

 父親が書類から顔を上げて訊いた。

 

 ううん。

 竹香は首を振りながら、あの時、「はい」と言っていれば、父も喜んでくれただろうに。

 昨晩はあの申し込まれたことはもう忘れてしまおうと決めたけれど、父の顔を見たら、また後悔が襲ってきた。

 後悔というのは、蜂みたいなもので、追い払っていなくなったと思っても、何度も襲ってくる。時には、集団になって、おそいかかる。

 

 こういう引きずる性格、いやだな。

 竹香という名前をもらっているのだから、竹を割ったようなさばさばした人になりたいのに。


「チーチーはまだ子供だからな。次の時だな。その顔の傷はどうしたんだい。ひどい傷だ。またいじめられたのかい」

「違いますよ、お父さん。わたしがおっちょこちょいをして、怪我をしただけです」

「そうか。いじめられてはいないのか」

「はい。もう痛くはないし、仲のよい友達もできましたから、わたしのことは大丈夫です」

 うんうんと父親は頷いて、よしよしと竹香の頭を撫でた。


「今年の選抜メンバーは優秀だから、よいパレードになるだろう。特に冬氷くんはすばらしいよ。全科目トップだ」

「キャプテン、すごい」

 竹香が小さく手を叩いて、ぴょんぴょんと飛び上がった。

「誰を誘うのだろうとみんなが注目している」


「お父さん、人生で大きなミスをしたことってありますか」

「それは、あるよ」

「それって」

 父の言葉はそこで止まった。

「それって、もしかして」

 ん?

 竹香は言うか言わないか迷った。


「それって、わたしが生まれたことですか」

「何を言っているんだい。チーチーを与えられたのは、父にとって一番の恵みだよ」

「一番ですか」

「一番だ」

「ありがとう、ございます」

「お礼を言うのは、こっちだ」


「お父さん、取り返しのつかないミスをした時はどうすればいいのですか?」

「それが取り返しのつかないことなら、諦めるしかないだろう。何かあったのかい」

「ううん。わたし、まだ子供だもの、そんな大きなミスとか、してない。心配性だから、いつかしたらどうしようって、聞いてみただけ」

「そうか。心配性は……いいや」


「わたしの本当のお母さんは、心配性だったの?」

「そうだったかな。わしは仕事に戻るから、続きはまたの時にしよう」

「はい。お父さん、お仕事、がんばってください」


 父は母の話題になると、いつも逃げてしまう。

 浮気は自慢できることではないから仕方がない、と竹香は思っている。


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