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36. 皇帝の親心

 遠音皇子としては、竹香を振り向かせようと、少し脅しをかけたつもりだった。しかし、意固地になって、やりすぎてしまったかもしれない。

 竹香が相手だと、なぜか向きになってしまう自分がいるのだ。


 本当のところ、従順なだけの女達はおもしろくない。すぐに飽きる。だから、大鶴に惹かれているのも、それがあるかもしれないが、最近の大鶴は頑固すぎて手に負えない。顔だけの女は面倒くさい。ずるい女には吐き気がする。

まったくどれもこれもといらいらしていた時、庭で働いている竹香を見つけた。


 これまで付き合ったどの女子とは違うタイプで、蹴鞠のよう子だ。蹴鞠はどこへでも飛んでいきそうで、おもしろい。

 蹴鞠がそばにいれば日々に変化があり、飽きないだろう。毎日退屈しないで暮らせるだろうという気がしてきた。そう想像しているうちに、竹香がいなければ幸せにはなれないという考えに取りつかれたのだった。

 

 自分は朝起きた瞬間から、充実した時間がほしいのだ。

 ただそれだけなのに。

 幸せになりたいだけなのに、と遠音皇子は涙ぐんだ。

 皇子にとってはただそれだけのことかもしれないが、他人にとってはそれだけのことではないということに、彼の考えは及ばないのである。

 

 しかし、ことは大ごとになっていった。

 竹香が逮捕されたという情報をいち早く得て、動いたのは小菜だった。今は第二王妃の侍女として仕えているので、そのことを王妃に伝えた。

 第二王妃は自分の息子を皇太子にしたいと考えていたので、遠音皇子を排除する絶好の機会だと読んだ。

 しかし、自分だけの力ではどうしようもできないので、皇后のところに出向いていって、そのことを話した。

 皇后も、年少の愛息のために、この好機を逃してはならないと思った。

 

 皇后が皇帝にその事件のことを仰々しく伝えたので、皇帝が興味をもったようだ。

「反逆罪の犯人を追跡し、それは深夜の大捕り物だったようでございます。さすがに遠音皇子さまだと、人々が申しているそうです」

「そうであったか」

 あの皇子がついに活動し始めたのかと皇帝はうれしくなった。


 それで、この裁判は、後宮の庭で、皇帝の御前で行われることになった。

 光楽皇帝は寵妃麗音を自殺に追いやってしまったことを口惜しく思っている。自分にもっと配慮があれば、ああいう事態は避けられたはずなのだ。

 そのこともあり、息子の遠音皇子には多分の期待をかけ、彼を皇太子にして、後を継がせたいと思っていた。


 しかし、それにその親心に反して、遠音の悪い評判ばかり流れてきて案じていたが、今回は彼の大人の力量を知る好機だと思ったのだ。

 反逆罪に当たる男を逮捕し、それを裁いてみせるというのだから、それは皇子の手柄である。皇帝は、長男の成長ぶりをその目で見てみたいと思ったのだった。





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