32. 本当のこと
離山の上には竹を刻んだ小箱があった。それはキャプテンが竹香の誕生日のために、工作室で作ってくれたものなのだ。
でも、一度、竹香は真相を聴くために、キャプテンに会いに、校舎まで出かけたことがあった。キャプテンはケンケンが廊下を歩いていたのだけれど、急にいなくなってしまったから、自分は避けられて避けて隠れていると思ったのだった。
今考えると、わかるのだけれど……。
夕食の後、これからのんびりと甘いお菓子でも楽しもうというところなのに、竹香は顔を緊張させていた。
竹香はあの晩餐会のお招きのことや、パレードの時のことについて、本当のことを知りたいし、自分の気持ちをわかってもらいたいと思っていた。
男子たちが賭けをして、冬氷が勝って大金をものにしたということは誤解なのだ、と言われてから、そのことにはもう触れないでいこうと思っていた。でも、心のどこかで納得していない。前に進むためには、ここで勇気を出して、話すべきなのだ。
「キャプテン、昔のことだけど、知っておきたいことがあるの」
「どんなこと?」
離山は頷いて瞳を下げ、テーブルに両腕をついて、手を口にもっていった。
「キャプテンはそんなこと、もういやかもしれないけど、私は知りたいんです」
「いやじゃない」
「わたしはそういうしつこい性格だから」
「しつこい、というのとは違うよ」
竹香が離山をしっかりと見た。
「よい性格だね。尊敬するよ」
彼が顔を上げて言った。
「あの時、ぼくがチーチーをからかっていたと思ったんだよね」
「その時は……、そう思いました」
「なぜそんな噂をすぐに信じたんだい?」
「噂だけで信じたんじゃない。わたしはこの目で、キャプテンが胴上げされて、金色の袋をもらうところ、見たもの。みんな、笑っていた。わたし、丘の上から、ずっと見ていたんです」
「あれは研修会の成績が一番だったから、みんなが祝ってくれたんだよ」
「そんなことだったの?」
「そうだよ。ほかに何があるというんだい。見ていたのなら、加わればよかったのに。訊いてくれればわかったのに」
「でも、中にははいれなかったし」
「そうだったね。ぼくはチーチーがいることに気がついていなくて、本当に悪いことをしてしまった」
悪いことをしてしまったと離山は繰り返した。
「ぼくはチーチーが突然いなくなって、どれだけ途方に暮れたのか、わかるかい。考えたことがあるかい」
「考えたことはないです。考えないようにしていたし」
「そうか」
「どうしてわたしのためなんかに、途方にくれたんですか」
「そんなことも、わからないのかい」
「わたしに、そんな価値があるとは思えないもの」
「価値って、なに?」
「そんな難しいことを訊かれてもわからないけど、わたしはキャプテンが途方にくれるほどの人ではないってこと」
「ぼくにはチーチーが生きていることが価値なんだよ」
「それ、よくわからない……」
「それは、……チーチーが大事だということだよ。その価値の近くにいたいと思ったんだ。そばでなくてもいいから」
「そんなに……」
「そうだよ。チーチーは、ぼくがいやだったのかい」
「でも、誰かがわたしのことを大事に思ってくれているとか、そんなこと、あるはずがないって思っていたから」
「晩餐会の申し込みに行ったじゃないか。発表を聞いて、飛んでいったんだよ」
「あの時は、すみません。口が勝手に断ってしまって。心ではものすごくうれしかったんです。わたしが全部悪いんです。馬鹿なんです」
「それは違うよ。チーチーが緊張しすぎて、断ったのはわかっていたよ。まだ14歳だったからね。ぼくが早急すぎたんだ。もっと考えてあげるべきだったと言っただろ」
「わたしのこと、怒っていないの?」
「怒るわけがない。チーチーには怒ることがない」
「どうして」
「それがぼくの生き方だから。そういうふうに生きようと決めたんだよ」
「決めたら、できるもの?」
「できるさ」
と離山が少し得意な顔をした。
「そうですね、キャプテンは、やろうとしたことはやる人です」
「ぼくは、うまくやれていると思うかい」
「はい、すごく。尊敬してます」
と竹香が見上げると、彼はこれまで見た中で一番大きく笑っていた。
「キャプテンは、このわたしのために、人間界に来てくれたのですか」
「いや、そんなことはないから心配しなくていいよ。ぼくは自由になりたかったんだ。知っているだろ、子供の時からそうだっただろ。だから来たんだ。自分の夢のためだよ」




