調べ学習
調べ学習
『明日英語の発表の調べ物したいんだけど空いてる?』
バイトも終わって家に帰ろうとしたときLINEの通知が来ていることに気がついた。真紀からのLINEだった。おそらく調べ学習の打ち合わせの話だろう。
『16時位から1時間半位なら空いてる』
明日もシフトが入っていたが大学終わったあとはバイトまで少し時間がとれる。
『りょーかい 図書館で待っとくね』と返信が来てそれっきりでLINEは終わった。
次の日約束の時間に図書館がいると真紀がいた。上が黄緑で下が水色のロングスカートのワンピースを着ていて清楚できれいな服を着ていた。秋の雰囲気によくあっていて通りかかる人が思わず目を止めるくらいにはよく似合っていた。
「おまたせ。他の子は?」とダメ元で聞いてみるが
「今日は西洋料理調べるから呼んでないよ」予想通りの回答だった。
「そういえばそうだね」と適当に相槌を打っておいた。
「1時間半だよね、早く行こう」と言い真紀はさっさと図書館に入っていった。
図書館は都内にある都立図書館で比較的大きいところだった。本のほかに調べもの用のパソコンや、自習用の机などのそれなりの設備もそろっていた。実際一も休日や数少ないバイトの休みの日などはたまに自習しに来る。
「ええと...料理の本は...」真紀が早速本を探し始めていた。
「この辺かなあ...」一も一緒に探す。
大体同じようなジャンルの本は同じようなところにあるものだが、思ったより本の量が多く見つけるのは困難だ。一も真紀もレシピ本なら何回か読んだことはあるが、都合よくお料理図鑑みたいなものや、国ごとにまとめてある料理の本などは読んだことがないので見つけるのに時間がかかっていた。
「もう少し上のほう探そ...」真紀は本棚の上のほうを探すために踏み台を持ってきた。
「危ないから、気を付けてね」一は心配しながら言った。真紀は比較的小柄な体型な為上のほうを探すためにはどうしても踏み台が必要となる。
「大丈夫」真紀は一の気遣いに感謝しつつ上のほうを探していた。
「お、あった。トルコ料理」一が早速いい感じの本を見つけた。
「いいねトルコ!あれ?トルコは西洋でいいのかな?」真紀が微笑しながら答える。
「いいんじゃない?ヨーロッパに近いし」一は適当に答えた。
すると真紀は微笑して
「そうだね私もがんばろ」と言ってまた周りも探し始めた。
「あ、あった!ほらこれ!一さんこっち!」と言って真紀は踏み台のうえで小さくジャンプしながらはじめを呼んだ。
「危ないよそんなところでジャンプしたら。」一は心配しながら速足で真紀のほうに向かっていた。
「うん!これほらフランスりょうりうぁぁ!!!」
「危ない!!!」真紀が踏み台から転げ落ちた瞬間、一が真紀を支えようと動いたが結局ドーンと漫画みたいな音とともに真紀と何冊の本が落ちてきて、一は下敷きになってしまった。
「いたた...ちょっと待って!大丈夫!?一さん!」真紀が一を心配する。
「大丈夫だから早くどいて...」
「あ、ごめん」案外間抜けなのか心配しながらうつぶせの一の上に馬乗り状態のままだった。
「いや、こっちこそ間に合わなかった。」と一は真紀をフォローしたが、
「いや、私がはしゃぎすぎたから...」と真紀が申し訳なさそうに答える。
そのあと一と真紀は駆け付けた図書館の人に図書館では静かにと注意をされ、周りからは生ぬるい視線をむけられ、非常にいたたまれない気持ちになりながら二人は落ちてきた本をもとの位置に戻していた。
最初はハプニングがあったが、その後に調べ物は比較的順調に進んだ。フランス料理、イタリア料理、トルコ料理など色々大まかな料理のジャンルを調べて、ジャンルごとに分けていく感じだ。
ハプニングの後はお互い少し気まずい雰囲気になったためか調べ物に関することは話すが、それ以外の雑談などはほぼ零に等しかった。
「あ、ごめんそろそろ行かないと」
「そうだねそろそろ時間だね。じゃあまた今度。連絡するね」
1時間半弱経過したところでバイトに行くため別れた。
その日の夜、律儀にまた次回の日程が指定されて都合はどうかの確認のLINEがきていた。次は明後日だ。その日もバイトがあるが同じような時間なら問題はないため今回と同じように返しておいた。
明後日。
同じ図書館で待ち合わせをした。
今度は一のほうが早く着いたため一は真紀を待っていた
「お待たせ。昨日はその...ごめんね」真紀は昨日のことを気にしていたらしい。
「大丈夫だよ。じゃあ行こうか。今度ははしゃぎすぎないようにね」と微笑しながら一は答えた。
その日はパソコンを使用して画像などを調べていたが進度的には前回と同じように進み、その次の回も同じように進んだ。ただ、一回目とは違ってそのあとはハプニングもなく、図書館での調べ学習の他に大学の講義などでも顔を合わせる回数があったためか、調べ学習以外でも話す機会があれば世間話くらいはするようになった。
「そういえばいつも1時間半くらいで帰っちゃうけど、何か用事とかあるの?」流石に1時間半程度では進度もあまり早くはならないためか一の予定が気になったのだろう。
「うん、バイトに行ってる。」
「そうなんだ。ならバイトない日とかでもよかったらそっちに合わせるよ。」真紀が不安そうに言う。無理な時間を設定してしまったと思ったのだろう。
「大丈夫。バイト毎日やってるし、バイト終わるのも9時くらいだから、この時間がちょうどいいよ。」
「そんな遅くまでやってるの!?」真紀は目を丸くして言った。
「そう、掛け持ちしてるから基本毎日埋まるかな。」
「あんまり無理しないでね。」
心配された。まあ普通の人間は毎日働くなんてことはしないし、休日は遊ぶなり寝るなりするため、この反応は当たり前である。むしろ体の心配をしてくれるあたり良心的だ。空気の読めない人間だと『お金ないの?』だの『なんでそんなにバイトしてるの』だの根掘り葉掘り聞いてくる。実際バイトの給料で家賃やら食費やら、生活のすべてを賄っている。多少の余裕を持たせるため多めにシフトを入れたり、掛け持ちしたりしていた。
「まあ別に大したことじゃない。」実をいうと外食のために少しシフトを増やしているため大変ではあるが、これは濁していく。
「そろそろ行くね。」と告げてバイトに向かおうとしたとき、
「明日のお昼とかって空いてたりする?」
「空いてるけど、授業もあるからあんまり時間取れないよ?」
「大丈夫!じゃあ明日のお昼12時半!ご飯食べながら話そ!学食で待ってるね」真紀は一の負担の心配をして比較的負担のない時間を設定して、自由時間などを確保できるようにしたみたいだ。
「ごめん、ありがとう。」と返事をしてバイトに向かった。流石の一でも自分に気を使って時間設定してくれたこと位は分かるので素直に感謝しておく。
バイトから終わって夜も遅くなり帰り道についた頃、見覚えのある服装の女性がいた。真紀だ。図書館のある地区と違って繁華街のこの道にそれもこんな時間に真紀が一人でいることに一は違和感を覚えたが、次第にそれどころではなくなった。
「いいじゃんお姉さん。一緒に飲もうよ。いい店知ってるから」
「遠慮しておきます」
「ほら、一軒だけだから」
「遠慮しておきます。用事があるので。」
どうやら数人の男グループにナンパをされているらしい。清楚でおしとやかな雰囲気の美女である真紀が夜遅くの繁華街にいれば繁華街にはびこる遊び男共の標的にされることは容易に想像ができる。実際真紀から冷たくあしらわれている男たちは引き下がろうとするだけでなく、真紀の腕まで掴んで離す気配がなかった。
「あ!真紀!!どうしたの?」一は明るくそして馴れ馴れしく真紀に話しかけた。普段はそんなキャラでもないし親しい友人をイメージした演技も絵に書いたような棒読みになったような気がしたがそんなことは一にとってはどうでも良かった。
「え!?一さん!?」と真紀が驚いたのも束の間
「彼氏さんいたのか!彼氏さんも一緒にどうだい?これからこの子と飲みに行くんだ」と一も一緒に飲みに行くことを提案された。真紀とお近づきになりたいという下心が見え見えで男の一でも気持ち悪さを感じた。
「彼氏ではないですけれど、ごめんなさい用事があるので失礼します。」と早口で会話を終わらせると同時に男の手を振りほどき、一は真紀の腕を掴んで早足でその場を立ち去った。
「その...ありがとう...助かった。」真紀は一にお礼を言った。
「別に何もしてないよ。たまたまいたから声かけただけ。」一は適当に答えた。
「その...これから帰るの?」一は話題を変えた。
「うん...」真紀はぎこちなく答えた。
「じゃあ送っていくよ。あっその...嫌だったら別にいいけど...」一の返事もぎこちなくなったが
「じゃあその...お願いします。」と真紀はまたぎこちなく返事をした。
その後一は駅の改札まで真紀を送った。あのあとお互いどのような会話をしたのかはよく覚えていない。
「その...今日は色々ありがとう。すごく助かった。」改札につくと真紀は改めて一にお礼を言った。
「じゃあまた明日の昼に。気をつけて帰ってね。」真紀とは明日も会うためあまり変な空気にしないように初めは意識していた。
「うん...じゃあまた明日...ばいばい...」真紀は小さく手を降ってホームの方に向かっていった。
次の日一は弁当を持って学食に向かった。学食につくと真紀が先に席についていてはじめはそこに向かった。
昨日あんなことがあったのだから流石になんて声をかければよいか分からなかったが真紀から声をかけてくれた。
「お弁当持ってきたんだ。」
「うん...」一は真紀の一への優しい態度や、干渉しすぎない態度が不思議で仕方なかった。そのため、反応があいまいになってしまった。
「どうしたの?」
「いや、その...学食に弁当持ってきてるの聞かないんだなって。」
「聞いてほしかったの?」
「いや、そうじゃなくて珍しいなって思って」普通の人間はお昼に学食に来たら弁当なんか持ってこずに、学食で昼ご飯を買って食べると考えているため、学食に弁当なんかを持ち込んでいる一の行動はイレギュラーそのものな為突っ込む人が多いのだが、真紀はそうではなかった。
一としては自分がお金がないため自炊して弁当を持ってきているということを説明するのおあまり好きではなかったためこの対応は助かった。
「そう?」真紀も以前の会話でお金に困ってることくらいは察しがついたので弁当を持ってきていることに対しては驚きはしたが、そこまで不思議がることはなかった。
そのあと軽い世間話をした後今後の打ち合わせをした。事前に真也や彩香にも連絡を取っていて大まかな予定を決めていたらしい。
発表まではにあと一週間程度のためあまり時間はないが、二日後から、プレゼンを作り始めて、三日後に実際に食べに行き、そこで撮った写真などをプレゼンに入れて仕上げて完了、リハーサルを少しして発表を迎えることに決まった。
調べものは大体終わったため明日は特に会う約束はしなかった。
ここ数日の真紀との調べ学習は一にとって相当濃いものになったと...一はそう実感していた。