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藤城皐月物語 1  作者: 音彌
第2章 2学期と思春期の始まり
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91 重要なミッション

 給食を真っ先に食べ終えた村中茂之(むらなかしげゆき)が6年4組のみんなに呼びかけた。

「今日は3組とドッジやるから、来られる奴は来て!」

 ドッジボールの好きな藤城皐月(ふじしろさつき)は運悪く給食当番だった。皐月にとって小学校生活で一番の楽しみはドッジボールだ。

 いつもは神谷秀真(かみやしゅうま)岩原比呂志(いわはらひろし)とオカルトや鉄道のマニアックな話をしてるが、この日ばかりはみんなで外に出て遊ぶ。だが今日は大切な用事があるので諦めなければならない。

「藤城、当番終わったら速攻で来いよ」

茂之(しげ)(わり)ぃ。今日無理だわ」

「なんだ、お前のことアテにしてたのに」

「用事が終わった後、行けたら行くわ」

 皐月はサッカーのような走るスポーツは苦手だ。ドッジボールや野球、バレーのような、あまり走らない競技は器用なので得意だ。足が極端に遅いと言うわけではないが、走るとすぐに息があがってしまい、胸が痛くなって動けなくなる。みんなから根性がないと思われているらしいが、言い訳はしたくなかった。


 皐月が牛乳パックをリサイクルできるように洗って重ねていると、月花博紀(げっかひろき)たちがやって来た。

「皐月、用事って何だ? その髪のことで先生に呼び出されたのか?」

「まあそんなとこ」

 クラスの男子には入屋千智(いりやちさと)に借りていたハンカチを返しに行くだなんて口が裂けても言えない。

「1ゲームだけでもいいから参加してくれ」

「わかった!」

 この学校では競技のように5分区切りではなく、ローカルルールで全滅するか予鈴が鳴るまでゲームが終わらない。ボール1個では勝負が長くなるので、最近は実験的に複数個のボールを使うようにしている。

 3組はドッジボールが強い。突出して強い子はいないが、リーダー的存在のエース大嶽(おおたけ)が普段から基礎練習をさせているので、クラス全体の実力が底上げされていて、穴となる弱い子がいない。

 4組は博紀と茂之が突出して強いが、クラス全体では穴が多い。女子が加わることは滅多にないが、身体能力お化けの筒井美耶(つついみや)が参加すると、強い3組にも勝つことがある。

 皐月は()けるのと受けるのが誰よりも上手いので、複数個のボールでやるようになった今、皐月がチームにいれば勝つ公算が大きくなる。


 給食室から教室に戻ると男子は一人も残っていなかった。秀真や比呂志も茂之たちと一緒に外に出て行った。

 教室に残っているのは皐月の班の栗林真理(くりばやしまり)二橋絵梨花(にはしえりか)吉口千由紀(よしぐちちゆき)の3人と、他数名の女子だけだった。真理と絵梨花は受験勉強をしていて、千由紀は小説を読んでいた。

 皐月は誰にも話しかけられないよう、こっそりと自分のランドセルの所まで忍び足で行き、及川祐希(おいかわゆうき)にもらったかわいい袋に入れたハンカチを持って教室を出た。

 皐月は高学年棟の3階にある六年生の教室から2階にある五年生の教室へと下りた。六年生になってから五年生の階に来たのは初めてだ。

 背の高くなった皐月には五年生の児童はみんな小さく見える。千智のクラスの3組の中を見てみると、男子はあまり残っていなかった。博紀の弟の直紀(なおき)たちも外に出て遊んでいるのだろう。

 千智との約束通り、皐月は3組の女子で話しかけやすそうな子を探した。「クラスの女子の誰かに声をかけて、私のことを呼び出して」とはよく言ったものだ。微妙にハードルが高く、罰ゲームにふさわしい。


 誰に声をかけようかと迷っていると、一人の涼しげな顔をした少女と目が合った。こちらに気付いたのか、皐月の方へ歩いてきた。

「このクラスに何か御用ですか?」

「六年の藤城皐月と言います。入屋千智さんに用があって来たのですが、呼んでもらってもいいですか?」

 少女の丁寧な言葉遣いにつられ、皐月も普段は使わないようなぎこちない言葉で答えてしまった。

「少々お待ち下さい」

 彼女は千智に向かってゆっくりと歩き出した。活発な子だったらここから大声で千智を呼ぶのだろう。

 変わった子だなと思いながら彼女の歩く先に千智を探すと、教室の最前列の窓際で友だちとお喋りをしているのを見つけた。話相手が友達のステファニーなのだろう。

 彼女に話しかけられ、何か言葉を交わすと千智がこちらに振り向いた。千智と目が合い、皐月は小さく手を振った。ステファニーに一言声をかけると、千智は皐月に向かって駆け寄ってきた。


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