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藤城皐月物語 1  作者: 音彌
第2章 2学期と思春期の始まり
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88 ファッションリーダー

 藤城皐月(ふじしろさつき)が教室に入ると、クラスのみんなからじわじわと注目を集め始めた。

 皐月は今までの女の子っぽい髪型から、前髪が長めのジェンダーレスなショートに変えた。クラスメイトは髪型の変化から一瞬の間を置いて、髪色の変化にも気づいた。前髪の一部とサイドの内側をバイオレットに染めたことに驚いていた。


 皐月の変化に一番喜びそうな筒井美耶(つついみや)はまだ学校に来ていなかったが、美耶の親友の松井晴香(まついはるか)が真っ先に声をかけてきた。

「藤城、髪切ったんだ。どうしたの、その髪の色?」

「染めた。どう? 似合ってる?」

「きれいな色だね。似合ってるけどさ〜、学校に来る時、先生に怒られなかった?」

「大丈夫だったよ、意外にも。でもフルカラーだったら怒られてたかもね」

「いいな〜。私もカラーしようかな……」

 かわいい晴香ならどんな色にしても似合うだろう。晴香の髪はサラサラで、いつもアレンジを変えている。クラスの女子では一番にヘアースタイルを気にしている。

「髪の色よりもさ、髪型はどうよ? 思い切ってショートにしたんだからさ、カラーよりも、どっちかっていうとスタイルの方が気になるんだけど」

 皐月にしてみれば、カラーをしたことよりも髪を切ったことの方が大きな決断だった。

「前よりずっといいよ」

「ホント?」

「美耶が興奮しちゃうかもね」

「よかった。いつも辛辣な松井に褒めてもらえるなんて、マジ嬉しい」

 今日の晴香はいつもよりずっとかわいく見える。褒めてくれるだけでかわいく見えるなんて、我ながら単純だなと思った。

「あんた、私のこと何だと思ってたのよ!」

「おしゃれ番長?」

「バンチョー? 何、それ」

「なんだ、番長って知らないのか。番長はリーダーってこと。つまりファッションリーダー」

「最初からわかりやすく言ってよ」

 語彙レベルの調整が難しいな、と感じた。ニュアンス的にはおしゃれ番長とファッションリーダーは少し違う。おしゃれ番長は6年4組限定の話だが、ファッションリーダーだと稲荷小学校全体レベルの話になる。

 ファッションリーダーと言われて満更でもない顔をしている晴香は扱いやすいが、晴香に媚びている感じがしないでもない。


「先生そろそろいいですか〜」

 ふざけたことを言ってきたのは花岡聡(はなおかさとし)だった。聡はクラスで一番のスケベ野郎だが、皐月とは最も気の合う友達だ。

「見慣れない奴が松井と喋ってたから誰だと思ったけど、まさか藤城だったとはね。髪型を変えたから、全然わからんかった」

「花岡でも気付かないとは面白い」

「なんだよ、その髪の色は。急に遊び人っぽくなったな」

「イケてるだろ?」

「チャラい。チャラ過ぎる!」

「でもそこが魅力!」


 聡と皐月がバカ笑いをしていると、いつもならうるさいと怒る晴香が皐月のことを黙って見ていた。

「あれ? 今日は怒らないのか。どうした?」

「藤城のカラー、いいなって……本気で私もカラーしたくなってきた」

 晴香はいつも友達からお洒落なファッションを羨ましがられているが、同級生を羨むことはめったにない。しかもその相手が男子の自分だから皐月は戸惑ってしまう。

「中学ってすっげー校則が厳しいじゃん。中学に入ったら髪の色を戻さなきゃならないからさ、ファッションで遊べるのは小学生までかなって思ったんだ」

「そうだよね……中学って最悪だもんね」

 晴香が暗い顔をした。この地区の小学生で中学へ上がることを楽しみにしている児童はあまりいない。皐月たちの行く中学は荒れているという噂だ。

「そういうの嫌な奴はみんな私立に逃げるんだぜ、中学受験して」

「中学受験? 何それ?」

「名古屋とか都会にある私立の中学は入学試験に合格しないと入れないんだ。私立は公立よりも校則が緩いところが多くて、頭のいい学校ほど何やっても自由なんだって」

「じゃあ頭の悪い私なんて無理じゃん」

「貧乏な俺ん家も無理だな。私立って金かかんだろ?」

「みんな無理してでも行くんだよ。親も子も」

 晴香と聡は中学受験にはまるで関心がないようだ。話が暗くなりかけた時、ちょうどいいタイミングで筒井美耶がやって来た。


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